収納そして取出し
玄関の扉を開けると、キッチンの方から香ばしい匂いが漂ってきた。
(そういえば、もう昼か……。これも時差ボケならぬ“ダンジョンボケ”ってやつですかね)
キッチンに向かうと、ルシアがエプロン姿で料理をしていた。
「ルシアちゃ……ルシアさん! 本日、日も落ちぬうちにダンジョンより帰還いたしました!」
背後から声をかけたせいで、ルシアは小さく跳ね上がった。
「えっ、きゃっ!? サギリさん!? もう、急に声をかけないでくださいよ、びっくりするじゃないですか!」
「いやぁ、失敬失敬。ローズさんはお城の方ですか?」
「はい。お母さんは夜には帰ってきますよ。それに、サギリさんが戻るのをずっと待ってたみたいです」
「なるほど、じゃあ帰ってくるまでのんびりさせてもらおうかな」
「お昼、食べますか?」
「もちろん! ルシアちゃ……ルシアさんの料理なら、満腹でも食べますよ!」
思わず笑うルシアは、料理を小皿に分けてテーブルに並べた。
狭霧はそれを運び、二人で談笑しながら食事を取る。
穏やかで温かな時間が流れ、ローズが帰宅するまでの午後を静かに過ごした。
外がゆっくりと暗くなっていく頃。
狭霧が自室のベッドで収納スキルの整理をしていると、玄関の方から足音が近づいてくるのが聞こえた。
(えっと……あとスキル内にあるのは――お、この足音、ローズさんだな)
扉の前まで足音が来ると、勢いよくドアが開かれる。
「やっと帰ってきたか。てっきりダンジョンの中でぽっくり逝ったのかと思ってたよ」
「正直、死にかけましたよ……」
「そうかそうか。詳しい話はリビングで聞こう。こっちからも報告がある」
二人はリビングへ移動し、椅子に腰を下ろす。
狭霧はダンジョンでの出来事を順に話していった。
「――ってわけで、なんとか地上に戻ってこれたんですよ。いやぁ、あの狼の魔物がマジでヤバかったんですって」
「Sランク以上の魔物が低階層にねぇ……あんたがいると、本当に変なことがよく起きる」
ローズは呆れたように笑いながら、腕を組んだ。
「大変だったんですよ……。それでローズさん、ひとつ聞きたいことがあって」
「ん? なんだい」
「ワープとか転送系のスキル、あるいは魔道具って存在します?
ダンジョン内で使えれば、帰りだけでも一瞬で戻れるのになと思って」
「ワープねぇ……それなら、私より“あの二人”に聞いた方が早いかもね」
「二人?」
「アイラとメイラ。研究所でスキルや魔道具の開発をしてる。
その辺の知識は、私よりずっと詳しいさ」
「なるほど、話を聞いてみたいです。ついでに、さっき言ってた“呪いの武器”のことも相談してみたいですし」
「じゃあ明日にでも行ってみよう。……さて、私からの話に移ろうか」
ローズは少し姿勢を正して話し出した。
「まず一つ目。つい先日、このトルマリン王国で三年に一度の闘技大会が開かれた。
優勝者には望む報酬が与えられるんだけど――その望みが、“以前捕らえたクロミネの引き渡し”だったらしくてね」
「黒峰……? あぁ、あの“かつ丼”の人か。
でも危険なスキルは全部消したはずですし、害はないと思いますけど」
「それがね。なぜか彼の“特別なスキル”の存在を知っていたようなんだよ」
「特別な? 悪魔召喚のことじゃなくて?」
「あれだ。“死んでも死なない”っていう、あの不可思議なスキルさ」
「あー……ありましたね、そんなの。まあ、大丈夫じゃないですか?」
「そうだといいけどね……。
で、二つ目の報せ。新たに“六番目のダンジョン”が見つかったよ」
「ダンジョン……だと!?」
「名前は【ヘーメスダンジョン】。場所はシーバビックリーグに入ってすぐのところ」
「ほう、つまりまだ探索が進んでないってことですよね? お宝の匂いがしますね!」
「残念ながら、そう思った冒険者は山ほどいたらしいけどね。
誰一人として宝を見つけられず、魔物の素材すら持ち帰れないみたいだよ」
「持ち帰れない?」
「魔物も人も、ダンジョン内で死ぬと“吸収”されるそうだ。
装備や武器も例外じゃない。まるでダンジョンそのものが生きているみたいだね」
「……怖いなそれ。じゃあ、何が手に入るんです?」
「唯一の収穫は、最初のフロアに群生しているヒーラ草くらいだね。
今のところ、分かっている情報はそれだけ」
「なるほど……でも、何かはあるはず。アスラダンジョンに行く前に、少し覗いてみようかな」
「まぁ、行くなら慎重に。――さて、話も済んだし、夕食の支度でもしようかね」
「よーし、それじゃ僕は明日の準備を早速!」
そして翌朝。
朝食を終えた二人は、王城の研究所――アイラとメイラのもとへ向かった。
次回もよろしくお願いします。




