三十層の守護者と始まりの呪い
構えを取るオルドロスへ、ミノタールが走った勢いのままハルバードの突きを放つ。
空気が裂ける音とともに、紅い軌跡が一直線に走った。
「ガハハハッ! あの魔物に比べれば遅い遅い!」
矛先が目前に迫る中、オルドロスは前足をわずかに踏み出し、最小限の動きで突きを躱す。
【大地より零れし結晶よ――】
カウンターの詠唱を始めた瞬間、ミノタールは手元でハルバードを回転させ、刃を横薙ぎに向けて追撃してくる。
【礎となりし結晶よ――】
その動きすら見切ったオルドロスは身を低く伏せ、刃が頭上を空ぶる。
【集え、岩拳!】
詠唱が完了すると同時に、左拳のそばに岩石の拳が形成される。
「強めのアッパー、いくぜ!」
杖を持つ左腕を突き上げる。
岩の拳が顎を狙って飛び、ミノタールの頬をかすめる。致命傷には至らないが、その巨体がのけぞった。
「流石にやるな! じゃあ次は右手だ! 【岩拳!】」
右手にも岩が形成され、左の勢いを利用して捻るように右ストレートを放つ。
岩が唸りを上げてミノタールの腹部に直撃、巨体が数メートル後方へ吹き飛ぶ。
「まだダウンは早いぞ? 【紫煙鞭!】」
左手の杖を振るうと、杖先から紫黒色の太い鞭が伸び、ミノタールの胴へ絡みつく。
オルドロスは一気に鞭を引き寄せ、敵を引き倒そうとする――が、ミノタールは空中で体勢を立て直し、ハルバードで鞭を斬り裂いた。
雄叫びとともに、ミノタールはさらに速度を上げて突進。
紅い閃光がオルドロスを貫かんと迫る。
【……集え、岩拳!】
岩の拳が飛ぶが、ミノタールは止まらない。
その巨躯は明らかに硬化し、岩を弾きながら距離を詰めた。
「さっきより硬ぇな……!」
オルドロスが大きく後退した瞬間――
ミノタールは突きの勢いを殺さず、手に持っていたハルバードを投げ放つ。
「なっ――!?」
鋭い金属音とともに、放たれたハルバードがオルドロスの腹を貫通する。
血飛沫が弧を描き、オルドロスの体が崩れ落ちた。
追撃に走り寄ったミノタールの足が顔面を踏み潰そうと振り下ろされる。
【瞬切!】
ドン、と地響き。
次の瞬間、オルドロスの横に二つに斬り裂かれたミノタールの巨体が転がった。
狭霧が無音のまま刀を納め、倒れたオルドロスのもとへ駆け寄る。
「オルドロスさん! 大丈夫……じゃないですよね」
「油断しちまった……まさか武器を手放してくるとはな……」
「と、とりあえずポーション使いますね!」
狭霧が収納スキルからポーションを取り出し、傷口に振りかけると、光とともに少しずつ傷が閉じていく。
「イッテェ……すまねぇな。二度も助けられちまってよぉ……」
「いえいえ、本来みんなで倒す魔物でしたし、僕も最初から入っていれば……」
そこへ仲間たちも駆け寄ってくる。
「相変わらず悪運だけは強いわね、オルドロス」
「ガハハハ、違いねぇな!」
「いやぁ、サギリさんの技、見えなかったけどやっぱり美しかったです! さて、これで目標達成ですね! あとは素材を回収して帰りましょう。腕がないので……ララ、お願い」
「はぁ……もう、早く治してよね」
ララはため息をつきながら、慣れた手つきでミノタールを解体していく。
――十数分後。
「サギリ...さん、この素材、回収...お願いできますか?」
「はい。……ララさん、なんでそんなに緊張してるんですか、普通にしてくださいよ」
「えっ、いやいやそんな……」
ララは顔を赤らめ、そのままケイネスの方へ逃げるように歩いていった。
狭霧は綺麗に解体された素材を回収しつつ、転がるハルバードへ目を向けた。
「あれはどうします? 放置で?」
「あんな大きな武器、誰も使えませんしね。荷物になるだけです。サギリさんが欲しければどうぞ?」
「そうですか……見るだけ見て考えます」
狭霧は《エディッタ》を起動し、ハルバードを鑑定した。
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名称:始まりのハルバード
傷を与えた対象に呪いを付与する長柄武器
効果:力+1000
始まりの呪いの付与
編集
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(また呪い系か……。詳細が見られないのは不便だな。……待てよ、オルドロスさんも刺されたんだよな?)
「オルドロスさん、すみません。さっきのハルバード、鑑定したら“呪いを付与する”って効果がありました。体調は?」
「いや、特に変化はねぇな」
「そうですか……一応気を付けてください。“始まりの呪い”って名前みたいです」
「妙な呪いだな。地上に戻ったら詳しい奴に見てもらうか」
(危ないけど……気になる。持ち帰って調べよう)
狭霧はハルバードも収納した。
「それで、帰りって……?このフロアのどこかに転送陣みたいな...まさか徒歩ですか?」
辺りを見渡す
「もちろん。転送陣なんて便利なもんありませんよ?」
「ふぁっ!? 今までの道を全部戻るんですか!?」
「そうですよ?」
「なるほど……だから食料があんなに多かったのか……で、帰還にどのくらい?」
「まっすぐ帰って二週間ほどですね」
「……(次のダンジョンは考え直そう)」
「おっ、元気そうだな! じゃ、帰るぞ!」
狭霧たちは階段を上り始めた。
同時刻、トルマリン王国。
「開催国はこの時期になると慌ただしいですが、幸いヒーラ草も大量に採れました。これで間に合いそうですね」
新ダンジョン発見の噂もあり、王都は活気づいていた。
「おいローズ、フジはどこだ? ちゃんと参加するんだよな?」
「手続きは済ませたけど……間に合うかどうかね」
「いねぇのか?」
「今、ダンジョンに行ってる」
「はぁ……」
サブタイトルを変更してます。
元タイトルは「魔法戦士もとい魔法ボクサー」です
次回もよろしくお願いします。




