一騎当千のタクト
30層目
薄暗い階段を、五人の冒険者が静かに降りていく。
やがて開けた広場に出ると、そこはこれまでの階層とは明らかに違う造りだった。
巨大なコロシアムのような円形空間。
天井が厚く閉ざされており、空の様子すら見えない。
(――噂通りだ。中ボスが棲む階層は、他とは構造からして違う)
フロア中央には、まるで人と獣を混ぜ合わせたような魔物が立っていた。
筋骨隆々とした人型の体に、牛のような顔。
その手には身の丈ほどもある紅のハルバードを携えている。
「あれですね――今回の目標、三十層の護り手【ミノタール】です!」
「ケイネスさん……あれ、かなり強そうですけど……」
「“強そう”ではなく、強いですよ。
ランク区分でいえば、特Sランクに分類されます」
「と、特S!? いや、Sランクですらやばいのに、もう特って何ですか!?
急に難易度が跳ね上がってません!?」
「そんなことないですよ? さっきの階層も、その前もAランク魔物ばかりでしたから」
「え、Aランク!? いやいや、みんな簡単に倒してたじゃないですか。
僕もあまり強く感じなかったというか……あ、でも確かに、
少しずつ魔物がでかくなってた気はしますけど……」
「ダンジョンは五階層ごとに魔物のレベルが上がります。
そして“特”が付くのは、決まった階層にしか出現しない限定個体。
地上にいた場合はそれよりも上の判定を受けますが、
出現場所が限定される分、対策をすれば格下でも倒せる――そういう意味で“特”なんです」
「なるほど……。ってことは皆さん、今までの魔物を一撃で倒してたって……
かなり上位の冒険者なんじゃ?」
「まぁ自慢じゃないですが、私もララもフェインさんも、オルドロスさんも全員Sランクです」
「Sランク……そんな凄い人たちに囲まれてたのか……」
「でも、このパーティで今一番の実力者は――今やサギリさんですよ?」
「……」
その言葉に苦笑するサギリを横目に、
待ちきれなくなったオルドロスが前へと進み出た。
「なぁ、そろそろ戦ってもいいか? ここまでほとんど出番がなかったしな。
たまには派手にやらせてもらうぜ!」
言うが早いか、オルドロスは巨体の牛へ向かって歩き出す。
「あちゃ……これはオルドロスさんが倒しちゃう流れですね」
「大丈夫なんですか? Sランクっていっても、あれ相当……」
「心配いりません。サギリさんが来るまでは、オルドロスさんが最強でしたから」
「いいじゃない、ここで少し休めるし」
「そうそう。帰りの魔力と体力は温存しないとね」
「みんながそう言うなら……でも、サギリさんの戦闘また見たかったなぁ」
中央では、ミノタールが咆哮を上げた。
その声は空気を震わせ、壁に反響して耳をつんざく。
紅のハルバードを両手で構え、挑発するように地面を踏み鳴らす。
「ちょっと前にコテンパンにされちまった借りがあるんでな……
ここらで一つ、八つ当たりといこうじゃねぇか」
オルドロスは背中の白い杖とは別に、胸元から黒い杖を引き抜く。
二本の杖を両手に持った彼の姿に、ケイネスが目を見開いた。
「おおっ!? オルドロスさんが最初から二本使うなんて珍しい!」
ミノタウロスが巨体に似合わぬ速度で突進してくる。
迎え撃つように、オルドロスは片足を半歩引き、
二本の杖を構えて上体を沈めた。
――それはまるで、熟練のボクサーの構えだった。
「ガハハハッ!楽しく殺ろうじゃねぇか!」
次回もよろしくお願いします。




