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歩みを止めず

(あれ……ここは? 実家……? あれは、俺か?)


目の前に広がる光景を見渡す。

懐かしい匂い。聞き慣れた家鳴り。

(ああ……懐かしいな。もう二度と会えないんだよな……)


部屋の中を歩き出すと、場面がふっと切り替わる。


次に映ったのは、小学生のころ。

流行っていたアニメをテレビの前で見ている自分がいた。


(そうそう、この頃は友達とこのアニメのごっこ遊びしてたな。主人公の技がかっこよくて、よく真似したっけ)


思い出したように腕を剣のように振るうと、空間が揺れ、また場面が変わった。


(あれ……この時って……)


気づけば、そこは狭霧が働いていた会社だった。


(うわ、これが日本での最後の記憶だ……。確かスマホでアニメを見ながら眠くなって、少し寝ようとして……。あのアニメ、どうなったんだろ。主人公が強敵に負けて、そこから這い上がろうとしてるところだったっけ……)


寝ている自分のスマホを覗き込もうとした瞬間、視界が吸い込まれるように切り替わる。


(あ……あれはガレスさん!? 何か言ってるけど、遠くて聞こえねぇ)


目の前には騎士団の訓練所。ステージ上でガレスと狭霧が話している場面が映る。


「...教えてくれよ。俺も....。見てみろよ.....。....真剣か?...木剣...刃...木だ...?...体に切り傷...?...教えてもらった...ホラ話....あった...?....信じて...?...バカみてぇな奴.......師匠...『...剣士は剣.選ばず、手....真剣...』...よ。...今、目の前に....?....なるよなぁ?......よなぁ?」


(教える? 木で切れる? あぁ、そういえば言ってたな……!)


ピンと伸ばした右腕を大きく構え、そのまま振り下ろす。


(出来る……気がする。いや、出来る!)


振り下ろした腕を切り返すように鋭く振り上げると、

目の前の光景が――裂けた。


ガキン!!


澄み渡った空に、金属が弾けるような音が響く。


我に返ると、目の前には――狼の巨大な爪。

それを、狭霧は右腕で受け止めていた。


「マジか……」


狼は回転し、尻尾で高速の追撃を繰り出す。

だが、狭霧の体は自然と反応し、腕と体が一体のように動く。


狼は避けようと身をひねるが間に合わず、

水の鎧ごと片側の黒い翼が切り裂かれた。


「腕が剣であるなら、体が手であり、腕でもある。さっきまで無理やりだった体の動きが、今は完璧に噛み合ってる……これが、本来のスキルの力……!」


羽を落とされた狼は、怒りの遠吠えを放つ。


「今なら負ける気がしない。さぁ、第三ラウンドと行こうか! ――この手刀、技名でも考えとくか。とにかくこの腕で、お寝んねさせてやんよ!」


だが、狼の背に新たな水の翼が生まれ、上空へと飛び立つ。

その目は、なおも強く狭霧を睨んでいた。

しかし、その動きは明らかに鈍っていた。


上空で狼が前足を振る。


チリン――。


これまでで一番大きな鈴の音が響くと、

狼の姿は霧のように掻き消えた。


「……また、逃げるんですか。こっちはアドレナリンMAXで最高の気分なのに……」


興奮を鎮めようと息を整えると、傷を癒したフェインが歩み寄ってきた。


「私、このまま全滅するかと思ったの。でも……まさか全員生きてるなんて、奇跡だわ。正直、サギリさんにはあまり期待してなかったの。……ごめんなさい。そして、本当にありがとう」


「いやいや、運が良かっただけですよ。スキルも満足に使えませんでしたし、何度も死にかけました。最後だって、ララさんの短剣の毒がやっと効いただけで……本当に、偶然の勝利です」


「でも……このダンジョンの攻略はここまでね。ケイネスが……その……」


フェインは三人の方を見やる。

そこには、血に塗れた仲間たちの姿。


「回復ポーションで傷は塞いだけど……腕は、もう……」


ケイネスは笑みを作り、狭霧へと声をかける。


「サギリさん! すごいですよ! そんな強いなら、もっと早く教えてくださいよ! いやぁ、収納スキル持ちはサポート職ってイメージが強いから、びっくりしました! ……それで、頼みがあるんですが。私の腕、預かってもらえませんか? 相当の回復魔法使いでもなきゃ、もう治せそうにないので……」


「お、おう……。改めて見ると、生々しいですね……はい、預かっときます。で、やっぱりこのダンジョンはここまでですか?」


ケイネスは苦笑しつつも首を振る。


「う~ん、私はまだ進みたいんですが、フェインさんとララが帰るって言ってて……オルドロスさんはどっちでもいいって。『サギリがいるから大丈夫じゃろ』って笑ってるんですよ。サギリさん的にはどうしたいです? 私は手がなくても――足でどうにか出来るくらい訓……鍛えてますから!」


(今、“訓れ”って言いかけたな……)


「もともと、一人でこのダンジョンをクリアするつもりだったんですが……序盤であんなのが出てくるとは。いやぁ、もう心が折れそうですよ……」


「いやいや! あれは本来ありえないんです! 30層までの魔物は、今のメンバーなら一人でも倒せる程度のはずなんですよ! それに私はもっと、サギリさんの戦いが見たいんです! 今ここで『進む』って言えば、皆もきっとついてきます! ね? ね? 行きましょう、サギリさん!」


「ははっ……じゃあ、行きますか! 今、調子いいですし。生きてるって実感がすごい。死にかけた後のこの高揚感――クセになりますね」


「でしょ!? 皆さん、聞きましたね! 行きますよ、30層へ!」


興奮する二人を見て、フェインは小さく笑う。


「ケイネス、死んでも化けて出ないでね」


「はは! 大丈夫! もし死んだら、毎日夢に出てあげますよ! ララも、いいよね?」


「ええ。サギリさんがそう言うなら、私は構いません」


ララの瞳が、これまでとは違う優しさを帯びて狭霧を見つめていた。


「よし! じゃあ、改めて――本格的に始めましょうか、ダンジョン探索を!」


「一応確認ですけど……本当に、手がなくても大丈夫なんですよね?」


「もちろん! できないことがあるとすれば、階層ごとの地図を書けないくらいですね。でもそこはララが記録してくれますから!」


「ま、任せてください! 困ったときは何でも言ってくださいね、サギリさん!」


「そ、そうですか……」


五人の冒険者は、次の階層へと歩み出した。

次回もよろしくお願いします。

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