空を切裂く刀
今もなお、空を飛び続ける体は、不穏な雨を降らせる雲すら突き抜けていた。
「う、眩しっ……ダンジョンの太陽さん、お久しぶりです。今、私は非常によろしくない状態ですが、そちらはいかがお過ごしですか……? スキルを作って空でも飛べるようにするか? いや、作ったスキルが思うように動作するかも怪しい。それに今のMPで足りるのかすら……下手なことをするより、もっと確実な――収納スキルの中には……!」
狭霧は慌てて収納スキルの中身を探ろうとした。
だが、その中を確認する方法は存在せず、入れた記憶のあるものしか取り出せない仕様に、今さらながら気づく。
次第に、天へ昇り続けていた身体が、ゆっくりと重力に従い始めた。
「おいおい! こんなピンチになるまで自分のスキルを研究してこなかったのか……。もし生きて帰れたら、これからはリストを付けるようにするか。こうなれば――何かをエディッタでパラシュートに変換できれば……!」
収納スキルから、先ほど使い切ったポーションの瓶を取り出し、エディッタを発動。
「パラシュート」の名を与えた瞬間、光に包まれた瓶は粉々に砕け散った。
「あぁ……そうだった……。この世界に存在してないものは変換できないんだった……! 布なら……あるはず!」
完全に重力に身を委ね、落下を始める。
再度、空の瓶を取り出し、「布」の名を与え直す。
光に包まれた瓶は――ハンカチほどの小さな布に変化した。
「おぉぉ! 落ち始めた!! もう時間がない! てか小さい! 何かもっと大きいもの……いや、入れた覚えがない……周りには……! 一か八か、足元の雨雲か!? うまくいかなければ――!」
狭霧は足元に広がる雲へエディッタを使用する。
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名称:雨魔雲
魔力を帯びた雨魔水を降らす雲
編集
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「キタァァァ!! いけるぞ! 名称を――【布】に変換じゃい!!」
──時間は少し戻る。狭霧が吹き飛ばされた直後。
「おい、サギリはどこに行ったんじゃ?」
「あの魔物が、私の火矢を躱してサギリさんを咥え、飛び去ったのは見えたけれど……」
チリン……
狭霧を空に飛ばした白狼が、再び四人の前に姿を現す。
「……魔物だけ、みたいじゃな」
「皆さん、これを何とかして早くサギリさんを探しに行きますよ!」
ケイネスは再び狼へ駆け出す。
ララもすぐに後を追い、息を合わせるように詠唱する。
「――術、落花の花影!」
「――術、霞桜!」
ケイネスは狼の頭上へ大きく跳躍し、ララはその視界の死角へと滑り込む。
「俺も合わせるぜ!」
オルドロスは杖を掲げ詠唱を始め、
フェインも弓を構え、大きく弦を引く。
炎が燃え上がり、矢先には紅蓮の火が灯った。
狼の意識が上へ向いた瞬間、ララが腹部を切り裂く。
幾重にも走る傷に、狼の動きがわずかに鈍る。
その一瞬に、ケイネスが顔面へ短剣を振り下ろす。
さらに、オルドロスの魔法とフェインの火矢が重なるように放たれた。
チリン……
澄んだ鈴の音がひとつ。
倒れたのは、鈍い音が三つ。
立っていたのはララひとり。
視界の先には、フェインとオルドロス――体に大きな裂傷を負い、
そして両腕を切断されたケイネスの姿。
「あ……あ……」
暗い雲に覆われた空が、一瞬光を放つ。
だがその光はすぐに呑み込まれ、世界は闇へ沈み、雨が止む。
「……ここで……」
何も見えない闇の中、突如空が四角く切り抜かれ、
ララの立つ場所にだけ、光が降り注いだ。
眩しさに目を細めながら空を凝らすと、何かがゆっくりと落ちてくる。
「空が……落ちてくる……?」
切り取られた空と共に、何かが地上へと降下する。
再び空が光り、暗闇は晴れ渡り、満天の青。
そして――黒い何かに捕まれた狭霧が、ゆっくりと降りてくるのが見えた。
「サギリ……さん?」
大きな布に包まれた狭霧が地面に落ちる。
「おぉぉい! 危なっ!? もっと減速できるかと思ったけど……まぁ、生きてるし、よかったぁ!」
ララの目に映る狭霧は、なぜか光を纏っているように見えた。
次回もよろしくお願いします。




