遥か高みの...景色?
24層目 雨
「あの魔物、階層を渡れるのか……? 逃げるにしても、この階層の地図はまだ完成していない。――仕方ありません、皆さん、迎え撃ちます!」
……チリン……
ケイネスは懐から、黒く毒々しい光を放つ短剣を取り出した。
その動きを見て、ララも迷いなく同じように黒い短剣を抜く。
「ケイネス……やるのね!? 今――ここで!」
「ええ、勝負は今、ここで決める!」
……チリン……
二人は階段の両脇に散開する。
その様子を見て、狭霧が呆れ気味に呟いた。
「……あの二人、こんなキャラだったっけ……いや、でもこの勢いがないと、あんな魔物相手にはできないか。よし、オルドロス、私たちも行きますよ!」
「おうよ! 俺の魔法でアッと言わせてやるぜ!」
……チリン……
フェインとオルドロスは階段の正面に陣取った。
その後方で狭霧は戸惑いながらも声を上げる。
「えっと……僕はどうしたら……」
フェインが振り返らずに答える。
「サギリさん。これから降りてくる魔物に、ケイネスとララが毒の短剣で動きを止めます。
その後、私とオルドロスが最大火力で攻撃――それでも倒せないでしょうが、怯ませることはできます。
その隙に二人の追撃が入るので、あなたも渾身の一撃を。」
……チリン……
狭霧は息を整え、スキル【真剣創生】を発動する。
MP:100/100 → 70/100
「これが……パーティ連携ってやつか。任せてください、この刀で――」
「来ます!」
チリン...チリン――
上層の階段から、白い体に黒い翼を生やした巨大な狼が姿を現した。
「合わせろ、ララ。――術、朧咲!」
「任せて。――術、乱れ桜!」
狼が遠吠えを上げた瞬間、二人は疾風のように駆け、前後から脚を切り裂いて交差した。
だが、切り口は浅く、白狼はほとんど怯まない。
「くっ……皮膚が固い。ですが毒が回れば動きが鈍るはず。フェインさん、オルドロスさん、もう少し時間を!」
「了解!」「任せな!」
……チリン……
心地よい音とともに、空気が震えた。
次の瞬間――二人の姿が宙に放り出され、狼は翼を広げて上空に舞い上がっていた。
「うっ……!」
チリン……
狼の姿が一瞬で掻き消え、直後に背後から鈴の音が響く。
「後ろだ、二人とも! 俺が足止めする!」
オルドロスが杖を構え、詠唱を省いて叫ぶ。
「詠唱してる時間はねぇ――【バーンボイド】!」
彼の体ほどもある火球が放たれ、狼を包んだ。
轟音と熱風が一帯を薙ぐ。
「いけるか……!?」
その声に振り返った狭霧の目に、血まみれで地に伏すケイネスとララの姿が映る。
出血は激しく、地面が赤く染まっていた。
(まずい……あの量は致命的だ。早く手当を――)
チリン……
視界の端で、オルドロスの体が吹き飛ぶ。
フェインが叫ぶ。
「オルドロスは平気よ! それより後ろの二人、サギリさん、荷物の中のポーションを! 早く!」
「よ、よーし、任された!」
狭霧は【収納】から小瓶を掴み、二人のもとへ駆ける。
背後ではフェインが魔力の矢を連射していた。
チリン……
「おっと、危ない! さっきの動き、もう読めてるのよ!」
その隙に狭霧はポーションを二人に浴びせる。
「お二人とも、今助けます! ……一本じゃ足りない? ええい、これも、これも――持ってけ泥棒!」
三本目を使い切ったところで、裂けた傷がみるみる閉じていく。
狭霧は息を吐いた。
(よかった……間に合った)
チリン――
再び鳴った瞬間、狭霧の腕が反射的に動く。
ガキンッ!
火花とともに刀と狼の爪がぶつかり合う。
「痛っ……! 岩に殴られたみたいだ……でも、スキル様様だな、命拾いした」
狼は距離を取り、自らの前脚を見下ろす。そこには微かな裂傷。
「……サギリさん、助かりました」
ポーションで回復したケイネスとララが再び立ち上がり、遅れてオルドロスもふらつきながら戻ってくる。
「悪ぃ、まさかあんなに吹っ飛ばされるとはな。骨は治った、さあ、こっからが本番だ!」
「ララ、まだ動ける?」
「ええ、なんとか……」
「いい? あの狼、動きは速いけど攻撃は単調よ。読み切ればいける!」
「了解。油断してる今のうちに畳みかけましょう。ポーションの残りも少ないですしね」
「も、もちろん僕も……やります!」
「よし、第二ラウンド開始だ!」
ララとケイネスが同時に駆け出す。
狼が片足を上げ、鈴の音が鳴る。
チリン――
(今のうちに……少しでも情報を!)
狭霧は【エディッタ】を起動し、狼に視線を合わせた瞬間――
チリン...
(消えた!? まさかスキルを感知して――)
カラン。
乾いた音とともに、狭霧の刀が折れていた。
「危ない!」
フェインの火矢が狭霧の背後を撃ち抜く。
チリン……
「え?」
強烈な衝撃。
浮遊感。
気づけば地面が遠ざかり、島のようなダンジョンの全景が眼下に広がっていた。
(――やばい。この高さ……死ぬ……どうする、どうする!?)
次回もよろしくお願いします。




