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深淵を覗くとき深淵もまたなんとやら

今回は狭霧たちがアスラダンジョンに行っている間に起きている別視点になっています。

トルマリン王国・冒険者ギルドを出てきたのは、Eランク冒険者のヘーメスだった。


「よかったぁ、やっとヒーラ草のクエストが出てた!前にも一度、ぱったり出なくなったことあったけど、あれ何だったんだろ…。ま、考えてもしょうがないか!今日も僕の得意クエストで稼ぎましょう!」


軽快に声を弾ませながら、ヘーメスはいつもの採取地――シーバビックリーグへと向かう。


「今日も今日とて稼ぎますよ~!ヒーラ草さーん、どこですかー?」


草木をかき分けながら【鑑定スキル】を発動し、ヒーラ草を探し歩く。


森に入って一時間ほど経ったころ。


「全然見つからないなぁ…。まだ六房だけか。いつものルートには見当たらないし、ちょっと奥まで行ってみるしかないかな」


さらに一時間ほど奥へ進む。足元に生えていたヒーラ草を摘み取りながら呟く。


「もうすぐ十房…でもこの先は魔物も出るし、引き返しながらもう一周探して――」


その時。


――ドォン!!


落雷のような轟音が森に響き渡った。


「うわっ!?な、何今の!?空は晴れてるのに…スキル?誰かが魔物と戦ってる?」


警戒と好奇心がないまぜになり、ヘーメスの足は自然と音のした方へ向かっていた。


数分後、森の奥で木々が途切れ、ぽっかりと開けた場所に出る。


「この辺、魔物が出るエリアだけど……気をつけないと……え?」


そこには、巨大な魔物の死体が三体。

そのうちの一体は岩壁に叩きつけられたのか、半ば埋まるようにして倒れていた。


だが、ヘーメスが目を見張ったのはその岩壁の方だった。


崩れた岩の奥には、大きな空洞が口を開けていた。


「……こんなとこに洞窟なんてあったっけ?何度か来てるけど見た覚えがないぞ」


興味に駆られて、そっと洞窟の中を覗く。

真っ暗で奥の様子は見えないが、得体の知れない気配が全身を撫で、背筋に寒気が走った。


「な、なんだこの感じ……この先、何か“いる”……いや、“ある”のか?

でも、少しだけ覗くだけなら……な?危なきゃすぐ引き返せばいいし……僕、冒険者だぞ? ここで冒険しなきゃ何が冒険者だ、ヘーメス!」


自分を奮い立たせ、一歩を踏み出す。


暗闇を進むにつれて、なぜか空間は明るくなり、やがて広々とした場所へ出た。


そこは、洞窟の中とは思えない景色だった。

岩壁に囲まれているはずなのに、見上げると天井はなく――代わりに青空が広がっている。

草木が生い茂り、まるで森の中にいるような錯覚さえ覚えた。

奥の岩壁にはさらに続く穴があり、まだ道は続いているようだった。


「こ、これは……!まさか、別の冒険者が言ってた“ダンジョン”ってやつじゃ……?それに...」


周囲の植物を【鑑定】してみる。


――ヒーラ草(未採取・良質)


「ヒーラ草の群生地!? う、うそだろ、こんなに大量に!?

す、すごい……すぐギルドに報告だ! ……の前に、あとちょっとだけ……採っても……」




この発見はすぐにギルドへ報告された。


息を切らせながら叫ぶヘーメスの姿に、周囲の冒険者たちは一斉に注目する。

報告の内容は瞬く間に広がり、C~Dランクの冒険者たちが、ギルドの正式調査を待たずに次々と現地へと向かっていった。


数日後、ギルドはA級冒険者を中心に調査隊を編成。

違法に潜った冒険者の中から、唯一帰還した者がこう語った。


「――あのダンジョンで死んじゃいけねぇ。

死んだ奴も魔物も、みんな“ダンジョンに吸い込まれて”消えるんだ……跡形もなく」





調査隊の報告によれば、過去のどのダンジョンとも異なり、階層や階段は存在せず、入り口から一本道のように空間が連なっていた。

その道中にはいくつもの広間があり、進むほどに空間は広がり、現れる魔物の強さも増していくという。

最奥の調査は危険と判断され、一時中断された。


だがこの報告は、瞬く間にトルマリン王国外へと広がる。

新たなダンジョンの発見に、多くの冒険者と国家が熱狂した。


そしてこのダンジョンは、第一発見者の名を取り――


【ヘーメス・ダンジョン】


と呼ばれるようになった。

次回もよろしくお願いします。

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