すまんなゴブロウ
歩き始めてしばらくすると、視界いっぱいに鬱蒼とした木々が広がる森へとたどり着いた。
昼間なのに森の中は薄暗く、木漏れ日がまだら模様を作っている。
「ん~...?こっちであってるかなぁ...なんか怪しい森に来ちゃったけど、引き返すのもなぁ...」
しばし立ち止まって悩んだ末、森の中へ進むことを決意。
重く感じる足を無理やり前へと引っ張り、探索を開始する。
「GYAAAAURRR!!」
「GYAAAUUUAAA!」
耳障りな咆哮が森の奥から響く。
目を向けると、そこには二体の小柄な緑色の影――ゲームでよく見るゴブリンだ。
「おいおい、あれはまさかゲームとかに出てくるゴブリンってやつじゃないか!」
ゴブリンたちは獲物を見つけたとばかりに、ぎらついた目でこちらへ突進してくる。
「どうする?あの目つきはやばそうな感じだぞ...とりあえず逃げるしか――」
慌てて後ろを向いた瞬間、足元の石に躓き、派手に転倒してしまう。
「え、俺これ、いきなり死ぬパターン?」
ゴブリンが勝ち誇ったように、粗削りの木のこん棒を振りかざす――
が、振り下ろされた瞬間。
「うぅわぁぁ...痛っ?いっ...痛くない?あれ?」
「GRAAAA!!...GYAAA??」
ゴブリンたちは困惑しつつも、なおこん棒を振るい続ける。
そのとき狭霧は思い出した。
――最初に、防御とHPだけ異常に上げていたことを。
「そういえば、ステータスで防御とHPだけ異常にしたんだっけ。てかうざいわそのこん棒」
右手を軽く振り払うと、その勢いで横にいたゴブリンの顔をビンタ。
クリーンヒットしたゴブリンは数メートル吹っ飛び、木に激突して動かなくなる。
「GUUAUAUAUAAUAUA」
残ったもう一体は、相棒の突然の吹っ飛びに目を丸くしている。
「うぉ!結構飛んだな...やっぱゴブリンって弱いんだ。よかった…」
安堵しつつ、ふとスキルの説明を思い出す。
――《エディッタ》はあらゆるステータスを可視化できる。
「ってことは、目の前のゴブリンのステータスも見れるのか?」
目の前のゴブリンに向かって「エディッタ」と念じるとそれは現れた。
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名前:ゴブロウ
レベル:2/10
HP:9/9
MP:2/2
力:3(+2)
防御:3
速さ:2
知性:2
器用さ:3
運:1
状態:混乱
武器:こん棒(力+2)
スキル
・こん棒術
こん棒での上達速度アップ
・ゴブ語(固有)
ゴブリン語が理解できる
編集
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「おぉ、見れた! …ゴブ語? 俺が覚えたら“ギャーギャー”言うのか? …いや、傍から見たら完全に危ないやつじゃん」
混乱状態だし、せっかくだから編集を試してみることにする。
「こんなのでいいかなぁ、完了っと」
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名前:ゴブロウ
レベル:1/1
HP:3/3
MP:10/10
力:1(+0)
防御:1
速さ:1
知性:1
器用さ:1
運:1
状態:病気(風邪・右腕骨折)
スキル
・ゴブ語(固有)
ゴブリン語が理解できる
・あほ
知性が著しく低下
・火魔法
火の魔法を扱うことが可能
編集
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完了ボタンを押すと、ゴブリンの体が淡く光り、すぐに収まる。
同時に、握っていたこん棒が粉々に砕け散った。
「なるほど、ステータスは0にはできないけど、武器は0にすると壊れるのか」
ゴブリンは壊れたこん棒を気にも留めず、咳き込みながら腕を押さえ、地面をのたうつ。
見ているこっちが少し罪悪感を覚える。
「うげぇ...我ながらえげつないことをしてしまったなぁ...」
「GYA...GYAU...GYAUAUA!」
突然、ゴブリンの体が炎に包まれ、そのまま息絶えた。
「ん?もしやふざけて入れた【あほ】スキルのせいで何もわからず火魔法を発動したのか?
まさかあんな言葉でもスキルとして認識されるとは...ほんとに何でもありだなこれ...すまんな、ゴブロウ...君のおかげで俺は一歩成長できたよ...」
こうして狭霧は、再び森の奥へ歩みを進めるのだった。