三人目
狭霧たちが城へと向かう同じ頃――
――・・は・・う・・・
・・と?・・てる?・・・
【ちょっと!いつまで寝てるのよ!】
深い森の木々の隙間、薄暗い空間の真上に、突如として水の塊が膨らみ始めた。
それはみるみるうちに大きくなり、重力に従うように真下へ落下する。
「がっ――?!ここで死ぬわけには……ぬ?……傷がない? いや、それより……なぜ我は濡れている? ここは……どこだ……奴らはどこだ?」
冷たい水を浴びて全身びしょ濡れになった者は、荒い息を吐きながら立ち上がる。さっきまでいた場所とは明らかに違う。森の湿った土の匂いが鼻を刺し、遠くで鳥の鳴き声が響いている。
そのとき、不意に頭の奥へ声が響いた。
【やっと目覚めたわね】
「誰だ?! 我に語りかける者は! ここは幻惑か? この我に幻惑魔法を通用させるとは……貴様も奴らの仲間か?」
【奴らが誰かは知らないけど――あなたをこちらの世界に送ったのは、私よ】
「……世界に送った? 何を言う?」
【ちょうど転生者候補を探していた時に、あなたが死んだの。だからそのまま、この世界に転生させたのよ】
「死んだ……だと? あの一撃で……。だが、この我が転生とは……何の企みだ?」
【理由は単純よ。この世界には五柱の神が存在するのだけど、そのひとりが“バランスブレイカー”――世界をひっくり返しかねない存在を転生させてしまったの。そのせいで善と悪の均衡が崩れた。だから、あなたを送り込んだの】
「善悪の均衡……くだらぬ。誰が何と言おうと、我は我が望むままに行動する。それだけだ」
ずぶ濡れの衣服を重そうに揺らしながら、森の中へと歩き出した。
【ええ、それで構わないわ。あなたが好きにすればいい。やっと私の役目も終わったのだもの。あとは頑張ってね】
その言葉を最後に、声はぷつりと途絶えた。
「まずは、現状の確認から...か。寒いな...」
水滴を落としながら呟いた者にとっても、また新たな一日が始まろうとしていた。




