主人公死す
「センパイ…先輩!」
「んん…誰…?」
俺、遠藤圭司は今まで何十回も聞いてきた声で目を覚ました。
「私ですよ!美咲ですよ!朝倉美咲!」
この女は俺の高校生時代からの後輩である。
「なんだ美咲かよ何の用だ?」
「何だって何ですか何だって…部長が散々探してましたよ?」
「…マジで?」
「マジです。」
俺は、とあるゲームのシステムなどを作るいわゆるシステムエンジニアであり今は会社のお昼休憩中なのであった。
「マジかー、何の用だろう何か知ってる?」
「何か営業に出てほしいみたいなことを聞いてます。」
「え、それ俺の仕事じゃないんだけど。」
そうなのだ俺の仕事は作業であり外回りをして仕事をとってくる人間ではないのである。
「大丈夫ですよ。私も手伝いますから。」
「それは助かるんだがいいのか?」
「いいんですよ!」
「まぁ、本人がそれでいいならいいんだが…」
「大丈夫です!」
俺たちは知りもしなかった。
俺たちの日常は何の伏線もなく崩壊していくとは。
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なぜ…何故なんだ。
こんな風になるはずじゃなかった。
「せ…んぱ……い。」
「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
この場には俺と美咲しかいない。
これだけ聞くと同僚などはいつもの光景だろうと言うだろう。
たが今回はちがう。
いつもの光景ならばこんなところに穴など開いているはずがないのだから。
そう……美咲の横っ腹などにこんな痛々しい穴など…開いているはずがないのだ。
そもそも何故彼女の横っ腹に穴が開いているのか。
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俺と美咲は部長に言われた通り営業に行き無事に終えて、たわいない雑談をしながら会社に戻っている最中にその悲劇は起こった。
「そー言えば今日、朝のニュースでここらへんで連続殺人鬼が出たっていうニュースやってましたよ」
「マジか。気を付けねーとな。」
そんな話をしていると後方から女性の叫び声が聞こえた。
「きゃあああああぁ!」
「何だ?」
「見に行ってみます?」
「あぁ、ちょっと気になる。」
そして、俺たちはこのとき見に行ったことを後悔することになる。
「何か危ないことだったら危険だから俺が先に行って見てくる」
「分かりました。気を付けてくださいね?」
俺は美咲が待機しているの確認すると女性の叫び声がした暗い路地の方へ慎重に歩いて行った。
路地の中を進んでいるとふとおかしなことに気が付いた。
「そういえばさっきの叫び声をあげた女性はどこだ?」
そうなのだ、先ほどから叫び声をあげたはずの女性が見当たらないのだ。
そんなことを考えているときに事態は変化した。
「ガツ!」
「!」
何か物音が鳴り響き俺はあたりを見回した。
「ざ…ざざ…」
「何かが近づいてくる?」
今度は何かが這って近づいてくる音が確かに聞こえ俺の後方2メートルほど離れたところで音は止まった。
俺は今後ろに何がいる生物を確認すべく勇気を振り絞って振り返った。
「っ!」
そしてそこで俺は絶句した。
そこには血だまりのなかに倒れている女性の死体があった。
「そんな…さっきまでそんなところにいなかったのに…」
俺がびっくりしつつ考えていると
「先輩?」
「!」
路地の入口付近から声が聞こえてきた。
「先輩大丈夫ですか?」
美咲は俺の身を案じる声をかけてきた。
しかし、このとき振り返った俺は大丈夫という意思を伝える言葉ではなくのどがはち切れるくらいの声で叫んでいた。
「みさきいぃ!!!逃げろおぉ!」
そう。
俺は見てしまったのだ。
黒いコートを着た男が物陰から飛び出て美咲に黒くでかい杭を刺そうとしているその姿を。
「へ?」
一瞬だった。
「あっぐ…がっ…くっ」
俺は真っ白になった。
俺のせいで美咲が刺された。
俺の注意不足のせいで美咲に被害が及んだ。
俺のせいで…俺の…俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで俺のせいで
俺は自分がつぶれそうになった。
「せ…んぱい…先輩!」
「!」
「大丈夫ですよそんなに泣きそうな顔しなくても。」
「だけど…お前、横っ腹を……」
「大丈夫ですよそんな心配しなくても」
「だが!」
「しつこい男はモテないですよ?」
「そんなこと言っている場合か!なんでそんなことが今言えるんだよ!」
俺は彼女の状態が見るからに普通じゃないのに余裕を持っている彼女に怒りがわいてきた。
「せんぱい…そんなの言わなくてもわかるじゃないですか。」
「なにが…」
「私がもう助からないということです。」
「!」
「私だって自分の最後くらいわかりますよ」
「そんな…やめろ…やめろよ!そんなこと言うなよ!俺はお前と長い間ずっと一緒にいたんだぞ!誰よりもお前のことをわかっているんだよ!」
「…」
「俺はお前とずっと一緒にいたいんだよ!お別れなんていしたくないんだよ!それをお前は平気な顔して死を受け入れてんじゃねぇよ!」
「そんなの…」
「?」
「そんなの私が一番離れたくないに決まってるじゃないですか!私がこれまで先輩と共にいたのも今日も先輩と一緒に行ったのも…私が先輩を愛しているからに決まっているじゃないですか!」
「!」
「その様子だと私が先輩に好意を寄せていたことに気が付いていなかったみたいですね?」
「美咲…俺は……」
「その先は言わないでください。」
「だが…」
「お願いです。そして今から言うことは全て私の本心です」
「…」
「私は先輩…いえ、圭司さんを心から愛しています。」
「!」
「ありがとうございました...ずっと愛しています」
「美咲!俺は!」
俺が言葉を発しようとした瞬間、彼女は静かに俺の腕の中で息を引き取っていた。
ここで終わっていればどんなに良かっただろうか。
俺は彼女の亡骸をその手に抱えその場を去ろうとした。
だが現実は許してくれなかった。
そう彼女は殺されたのだ目の前で。
つまり、犯人もすぐ近くにいるというわけで…。
「俺が近くにいるのを忘れてもらっちゃ困るぜ」
「お前は朝ニュースでやってたっていう連続殺人鬼!」
「知ってんじゃねぇか。 うれしねぇ。 けど俺を殺人鬼って知ってんならどうなるかわかるよな?」
「…」
「俺に殺されても恨むなよ」
俺の背後からそんな声が聞こえてきた瞬間。
俺の人生は終焉を迎えた。
今回初めて小説を書かせていただきました。木村刑事と申します。
はっきり言ってあまり長い文章を書くことは得意ではないので気長に書いていこうと思っております。
誤字脱字などがあった場合はごめんなさい。