リーサ
冒険者ギルドがあるフォールへ帰還する道中、街に行くには小さめの森林地帯を抜ける必要がある。
本来なら人気もなく視界も狭いところだが今回はそれが大いに役に立つ。
「ここら辺でいいぞ」
宇宙が言うとドラゴンは急停止して、宇宙を下ろす。
「じゃあここからお前は人間になってもらう」
「(は?)」
ドラゴンの声が脳内に直接聞こえるように能力を使っているためドラゴンの動揺がすぐさま伝わってくる。宇宙の能力は異常な程の数を保有している、そのため他の生物を一時的に人の姿に変えることすらできる。
「もちろん人間になると言うことは言葉を発せるようになりこちらも便利なのだがな、それに性能はドラゴンの力をそのまま反映させることも出来るよ」
それにと宇宙は付け足して、
「ドラゴンのまま行ったらお前あの街の冒険者全員に攻撃されるぞ、ぼく的にもそれは大いに困るね」
ギクッとドラゴンががっかりするのが見える、その後の葛藤の末ドラゴンはやむなく宇宙によって人の姿になった。
その背丈は宇宙よりも小さく140ほどしかない程よく褐色した肌に黒い髪、そして金色の眼、八重歯が目立つ少女となった。裸で。
当時ドラゴンは衣服を着ないため常に裸ではある。宇宙もそれを知っているためそこらに転がっている大木から簡素な衣服と履物とマントを生成しドラゴンもとい少女へと渡した。
少女は宇宙が用意した物を肌にとうしながら、
「まったく動じぬのだな人間のオスはメスに欲情ないのか?」
「いやそんなことはないさ、ただぼくには全て分かっちゃうからね、そうゆう欲求が極めて薄くなってるだけだよ」
「そうか…
ところでおぬしはなにをしておるのじゃ?」
見ると宇宙は地中から銀色に光る物体を空中に巻き上げていた。それは地中にあるごくわずかな砂鉄それを能力を使い圧縮、形を整え二メートルほどの人がすっぽり入る鎧ができた。
その鎧にさらに手を加えながら
「これは鎧だ、あの状況でぼく一人が生還するなんて初心者にはできすぎているからね…
それにぼくはこの力のことを話していないんだ」
「?
それはなぜじゃと、質問しておいた方がいいのじゃろうか?」
「ああ、この力を冒険者が知ればクエストやいろいろなことが円滑に回るだろうな、だが人間という生き物は強いやつに群がる習性がある。」
いや、生き物全般かなと、宇宙は付け足す
「なるほどそれで人を避けたいおぬしとしてはその力のこと、黙っておきたいわけじゃな」
「まあそんなところだな」
そう言うと宇宙は手を止めて「こんなものか」、見るとそこには全体的に白く輝くフルプレートアーマーができていた。全長は160の宇宙よりも大きく、200はあるだろうとても宇宙が着れるとは思えないが…
「また疑問だおぬしそれにどう入るのじゃ」
「これは胸の部分に想像以上の広さを要している。そこにはぼくが生活すらできるくらいの空間があるからね、あとはそこに念力で半自動的に動かして行けばいい」
少女がなるほど便利じゃな!と言うのを横目に宇宙は早速自分が作った鎧の中に入る。
作ったことがないため中がどうなっているかは分からなかったが案外…と言った感じに宇宙は中を徹底して調べる。
「そういえばお前の名前はなんなんだ?」
ふと宇宙は少女に問う。
「名前…名前か、それなら頭の中でも覗いて古いものでも引っ張ってきたらどうじゃ」
「いいのか?
それじゃ無理矢理深くまで覗くのは負荷がかかるから、あまりやりたくないのだけどね」
そう言うと宇宙は目をつぶる。少女が不安そうな目で宇宙を見る。十秒ほどで宇宙は目を開けた。
「そうだな。決まったよお前の名前。
お前は今日からリーサ」
少女の顔がこわばる、その目は敵意、宇宙を睨んでいるにも見えた。一方、宇宙は不敵な笑みを浮かべて少女もといリーサを見つめている。
諦めたのかリーサははぁ、と息を吐くと改めて宇宙にむきなをす。
「良かろう。なぜその名前を選んだかは後々聞くぞ…それよりも早く冒険者ギルドとやらに行かぬのか」
「ああそうだな、そろそろ出発しようか」
と言うと宇宙が入った鎧が移動を開始する。リーサもその後に進むようできる限り宇宙の隣を歩く。
「そういえば、わしはおぬしに聞いておらぬかったな。どうしておぬしがあのようなものたちと一緒にいたのか、どうしてわしを選んだのかをな」
リーサはニヤニヤしながら宇宙の鎧を見る。ガシャガシャと音を立てて進む鎧がその足を止める。
「そうだなつれぐらいには話してやってもいいかもな」
それから街に着くまでの間宇宙は、ここは自分にとって異世界であること今までの経緯をあらかた説明した。