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自室

 家に帰ると母親が驚いた顔で出迎えてくれたが、彼は説明する気力もなく自室へ向かう。窓からはもうすぐ沈んでしまいそうな陽の光が柔らかに、けれどまっすぐ入ってきていた。

 ベッドの上にうつ伏せで横たわると、しばらく自身の顔を映している暗い携帯の画面を見つめる。周りが暗くなるにつれて、自分の顔以外の物も映しはじめた。


「ゆきちゃん、理由くらい教えてくんなきゃ釈然としないよ……」


 ゆきの前では格好つけて「気にしてないよ」なんて言ったのに、実際には自分はこんなに気に病んでいる。それがどうしようもなく恥ずかしく、また足枷にもなっていた。

 彼女の別れ際の笑顔を思い出す。子供の様に顔をクシャクシャにして、涙を必死にこらえながらも、それでも彼女は笑っていた。なぜ彼女はあんなにも辛そうに笑っていたのか、考えれば考える程解らなくなる。


「ピリリリリ」


 突然無機質な音が鳴り響き、画面に映っていた様々なものが掻き消える。彼の携帯がメールの着信を知らせたのだ。この忙しい時期にメールなんて誰だろうと思い開くと、「fromハル」とあった。ハルとはゆきの親友である。


「またこのパターンか」


 そう言う勇介の顔はうんざり、といった感じだった。彼にとって元カノの親友からのメールというのは身に覚えがあるのだ。振られたのは彼の方なのに、「良くもあの子を泣かせたな」と責められるのである。無視するわけにもいかないので、仕方なくメールを開く。と、そこには意外な事が書かれていた。


『ゆきちゃんから昨日の事聴きました。色々言いたいことはありますが、ゆきちゃんの事嫌いにならないであげてください。今回の件、話を聴く限りでは、ゆきちゃんが悪いです。でも、ゆきちゃんの言葉に嘘はありません』


 いまいち何が言いたいのか、要領を得ないメールだった。


『俺から嫌いになることはないさ。向こうから嫌われたら解らないけど。後、良い悪いの問題じゃないと思う。好きだけど付き合ってはいられない、って意味が解らない』


 若干、嫌味な返信になってしまう。本当はゆきに問いただしたいことで、昨日言いそびれた事でもあった。ハルにそんな事を言ったとしても意味はない、と解ってはいてもつい責めるような文章になる。それでもすぐに返信がきた。


『あんまり私からは詳しく話せないけど、ゆきちゃんは本当に勇介君のこと好きなんだよ?』


 余りに彼女がゆきの肩を持つので、勇介は益々腹が立った。そうして、考える前に携帯に文面を打ち込み、送信していた。


『それで納得しろって言うのか?何も説明はできないけど、まだ好きだけど、別れようって。それを受け入れて、更に信じろって?』


 またしてもすぐに返事が来る。


『そんなに私を責められても困るよ。ただ、ゆきちゃんが何を思ってこんなことをしたか、考えてみてほしいな。何も言わないゆきちゃんも悪いけど、勇介君にもそこで考えを止めてほしくない』


「はぁ……」


 勇介はハルからのメールを見てため息をつく。要するに彼女は、何も言えないけど察しろ、と言っているのだ。そして恐らく、ゆきもそのことについて語る気はないのだろう。


「無茶苦茶だ……」


 独り言ちると、携帯を投げ出し仰向けになる。部屋はいつの間にか真っ暗になっていた。天井に向けて右手を伸ばす。またあのシーンがフラッシュバックする。国語の成績が良いからと言って人の気持ちが解るわけではないんだな、と痛感した。

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