公園にて
「あぁ、またか。」
彼の呟きは白い息と共に掻き消え、誰の耳にも入らない。彼の目の前に佇む少女にさえ聞こえていない様だ。彼の声が低い所為か、あるいは、彼女が肩を震わせ泣いているためでもあるかも知れない。
「ゆ、勇介君……。ごめんね……。まだ……まだ好きだよ?」
マフラーを両手でキュッと掴み、嗚咽を押えながら訴える。
「それはさっきも聴いたよ。どうしてかは、教えてはくれないのか?」
彼は努めて優しく語り掛ける。しかし、彼女は更に肩を震わせると、それきり俯いてしまった。空は重く曇っており、俯いた彼女の表情は解らない。
「……ゆきちゃん、じゃあこれだけ教えてよ。俺との一週間、楽しかった?」
彼女が黙っているのに耐えられなくなったのか、彼は質問を重ねる。彼は辛そうな顔は微塵も見せず、にこやかに笑っている。
「たのっ、楽しかっ、たよ……?」
それだけ言うと、彼女は堰を切ったように涙を流す。彼女のそんな様子を見て彼は嬉しそうに微笑む。
「そっか、それなら良かった。もう泣かないで、気にしてないから」
目元にかかる髪を払い、優しく彼女の涙を拭う。
「さ、泣き止んだらもう帰った方が良い。そろそろ降りそうだし……」
彼がポンッと頭を叩くと、彼女はもう一度泣きそうになる。
「う、うん。勇介君も、この時期に風邪ひいちゃうといけないから……」
カーディガンの裾で涙を拭いながら彼に微笑みかける。クシャクシャの笑顔だが、その笑みは、公園を散歩する人々が足を止めるくらい美しかった。
「おう、じゃあな。今までありがとう」
「うん……ありがとう。……ごめんね、大好きだったよ」
彼女は手を振りながら去っていく。まるで明日もまた放課後デートをするカップルのようだった。少し強く吹きだした風にショートカットの髪が揺れる。その後姿を見送りながら彼は、自身の髪を片手で掻き乱す。
華奢な彼女の影が完全に見えなくなるまで、彼はその場を動けなかった。独り公園に取り残された彼は空を見上げる。涙は出てこないようだ。曇天は先程より更に暗くなっている。




