再誕のアレス
――人は何故、存在しているのだろう?
かつてそんな疑問をもった人間がいた。
そして"彼"は答えを出せずに死んでいった。と、されていた。
だがみんな知らない。彼のことを。
いや、存在は知っている。
だが彼が本当はどんなことを考え、研究し、生きてきたのかを知るものは本人をおいてその時代には誰もいなかった。
~とある戦場~
――勇者陣営の作戦準備室
テントの中に机があり、それを囲うように人がいる。
彼らは勇者と、その仲間達だ。
勇者は若い男性。金髪の童顔。と賢者や騎士団の腕利き、魔法使い、そして王国までもがここにいる。
作戦を指揮する賢者のメガネをかけた理知的な黒髪の青年が、作戦を説明し終え最後の掛け声をかける。
「この戦いに勝利出来れば、魔王まであと一歩だ。皆、覚悟はいいな」
「「ああ!!」」
「もちろんだ(よ)!」
この広い草原には今、勇者対魔王軍の戦いが始まろうとしていた。
魔王軍の軍勢1500体に対しこちら人間の数およそ200人。
あからさまに不利である。
だが、この戦いを制さねば人類に未来などない。そう思っているからだ。
だが、大事なのはここではない。むしろどうでもいい。
なので、少し話を飛ばそうか。
開戦し、勇者たち率いる人間の軍は賢者の作戦がなんとか上手くいき、不利だった人数差をついにひっくり返す事に成功。
魔王軍の兵たちも不利なことを思い知らされると逃げていくやからも出てくるため、この戦闘は人間の勝利に終わった。のだが、なんと驚くことにそこに魔王が現れたのでした。いかにも魔王っぽい黒のマントを付け角を付け笑みをこぼす。筋肉がでかいわけではないので小さく見えるのだか、それでも、魔王としての威圧は十分であったためにその戦場にいた人間すべてが彼が魔王であることに気がついた。
何故?と勇者達は思う。
実際のところ、魔王は見に来ただけだ。自らの敵となりうる存在を。
「何故貴様がここにいる!魔王!」
勇者が魔王に訪ねる。だか、先の戦いの疲れと、圧倒的な力による威圧になんとか耐えれている状態なのだ。正直なところ立っているのが精一杯と言うほどに。
「なに、余は余の敵となりうる勇者の存在を見に来ただけだ。なかなか面白いものを見せてもらったぞ、勇者よ。その調子でもっと強くなってもらわねばならない」
どこか見下したような口調で話す魔王に勇者は腰に付いている聖剣の能力を使うかと考えたが、その言葉の最中に空気を読まず、さ迷う人がいた。
その場の全員が、かの魔王でさえ驚いた。
しかし、その驚きはさらに違うものを見せた。その人間を中心に巨大な"黒い光"がたった。その光は雲と同じ高さまで上ると、辺りに広がっていき、空の色が青から赤へと変わった。
次第に光の柱は消えた。だが、空は赤いまま。そして、黒い光があった場所には
――半裸の男がいた。
その男は辺りを見回すと、勇者に視線を向けた。性格には勇者の腰に付いている聖剣にだが。
男がその聖剣を見て口を開いた。
「懐かしいな。聖剣は、まだ残っていたのか」
まるで人間のような感情のある声でそう言った。しかし、その存在は異質であることに代わりはなく、誰もがいまだに動けずにいた。
気がつくと勇者の聖剣は男の手元にある。
何が起こった?!。その場の全員がそう思った。
男はまた、懐かしそうに聖剣の刀身を眺める。
「うん、この剣はいい輝きをまだ保っている。えっと、あっ。ごめんね、いきなりこの剣を盗ってしまって。あまりにも久しぶりに見たからつい。返すね。これは、間違いなく君のだ。君がその心を持つかぎり壊れることも破れることもない、完全傑作。持ち手を選ぶ剣のなかでも最高クラス。その剣を触れているだけで剣に飲まれていないのがその証拠だねそれと……(以下略」
なにやら、語りだしたその男を前にいきなりさっきまでの威圧に近いあの感覚は嘘のように消えていた。一瞬その場全員の目が点になったほどに。
またもや腰にあった剣はまとの位置に戻ってある。それを見えたものはいない。
長い話を終え、その場に慣れたのか、魔王が口を開いく。
「そなたは何者なのだ?何故ここにいる?」
話しかけた魔王は落ち着いているがその実警戒心はMAXだ。何せ、この男は未知数。誰もが見えない感じられない方法であの勇者から聖剣を抜き取った。故にもしかしたら自らの負ける可能性すらもある。
だか、その男は
「え?魔王なの?マジで?!ああ、まだいたんだ。へぇ~。魔族頑張ってんなぁ」
と言う意味のわからないもの。しかし、魔王本人はバカにされたと思ったらしく、その男に向かって殴りかかった。
それは、勇者ですら追うのがギリギリなレベルであり他の人間には全く見えない速さで動き、なおかつその力は回りの空気をすべて壊す勢いがあるパンチ。
だが、彼はそんな魔王の攻撃を人差し指一本で止め、その後におこるはずだった力の分散すら起きなかった。
「なっにっ!!」
魔王は思う。こいつはいったい何者なのか?と。拳を人差し指で受け止められ彼の攻撃を喰らうまで時間が永く感じられた。
次の瞬間、魔王は消えた。