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プロローグ

それには手足が生えていました。黒くて細長くて、それはまるでマジックで一本線を引いただけのおよそ手足とは言い難い奇妙なものでした。


 それには胴がありました。三角錐の形状で、それは天を衝くような大きさで、下腹部には小さな口がありました。ギザギザした歯が生えていました。


 それに頭はありませんでした。けれど視覚や聴覚といったありとあらゆる感覚がそれには備わっていました。


 あるときそれが歩いていると、一匹の魔物に遭遇しました。お腹は減っていませんでしたし、お腹が減っても死ぬことはありませんが、食べたくなりました。


だからそれは魔物を食べました。


 たいして噛みもせずお腹に入れると、魔物は生命力が強いのかお腹の中で暴れ始め、それはお腹を壊してしまいました。それはとても痛いものでした。


 それに口はありますが、声帯は無いので喋ることもできず、ただただ痛みと闘いました。すると、弱り始めたと勘違いしたのか、魔物が段々それを襲い始めました。


 困り果てたそれは、地中に潜ることにしました。天を衝くような胴を半分以上地上に残したまま、地中に隠れました。これでようやく一休みできると、それは安心しました。


 けれどそれは勘違いでした。一匹の魔物は体内で暴れ続けました。


 それにはどうすることもできませんでした。それは日に日に弱っていきました。


 そんなときでした。口のわずかな隙間から小さな小さな生き物が入り込んできました。


 それは人でした。手で叩けば簡単に潰れそうな弱々しい体躯を持った彼らはなんと、今までそれを苦しめていた魔物を退治したのです。それはとても驚きました。


 それは人という生き物に興味を持ち始めました。一体彼らは何者なのだろうと。どうすればその爪も牙もない矮小な身体で魔物を退治できるのかそれを知りたくなりました。


それは人を体内に招き入れ、自分の細菌と戦わせました。時には厄介なウイルスとも戦わせました。


人はありとあらゆる知恵や武器を用いて戦い、やがて勝利を収めました。


その戦い方は、それの心を震わせました。なんて彼らは自由に戦うのだろうと。敵を倒す武器を造り、敵の弱点を突く作戦を立て、それを行使できるように体や武器の扱い方を学び鍛え上げる。


敵と戦う――ただそれだけのためにどうして彼らはそこまで懸命になれるのだろうか。それはますます人に興味を持ち、来る日も来る日も体内の細菌と戦わせました。


事件はそう日が遠くなる前に起きました。


 人の中でもより小さい人――小人が死んでしまったのです。


 このときそれは気づきました。人の中には、小人と大人が存在するのだと。


 人は小人の死に嘆き悲しみました。まだ小さいのに、というような悲嘆が漏れ聞こえてきました。それにはよくわかりませんでした。


 けれど一つわかったのは、人は小人が死ぬと嘆き悲しみその日は体内に入らず寄り添うということでした。これはそれにとって深刻な問題でした。


それはどうすれば小人を殺さずに済むのか考えました。そして思いつきました。


それが思いついた策は、電波を送ることでした。彼らに小人は体内に入れるなと電波を送ったのです。人はそれを受け入れました。


それはそれからも電波を送り続けました。この世界には地上というものがあり、沢山の魔物が蔓延り、植物や見たことのない生物が暮らしていると。太陽があると。月があると。空があると。


それからそれは自身の名前も伝播しました。


私の名前はミリオネア。地上で生きるものだと。


人はそれを信じ、生来の知識として使っていきました。面白い生き物だなとそれは思いました。それはますます知識を伝播していきました。


 やがて、人は地上に憧れを持ち始めました。いつも彼らは上を見上げていました。


 それは地上に連れ出したいと考えました。けれど地上には魔物がいます。ただ地上に連れて行くだけでは人はただただ蹂躙され絶滅してしまうだけだと。


 だからそれは体内にありとあらゆる細菌をつくり、時には自らの害を及ぼすウイルスを育て、体内に放ちました。体内の構造も複雑なものとして簡単に上にいけない仕様にしました。


その結果――

 人はとうとう地上に出ることは叶いませんでした。


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