二教科目 数学
新学期が始まる。
4月6日。金曜日。
ウチの学校は始業式が一日遅れているらしい。
朝5時に起床。12時に寝たからか瞼が重い。目が開かない。
朝から空の水色と朝焼けのオレンジのコントラストが綺麗で
びっくりした。
早く準備しなきゃ。教室ではいつも一番乗り。
これが僕の信条だった。夜に準備をしているのであとは
制服に着替えるだけ。ウチの学校は学ランなので
不器用な僕にとっての天敵、ネクタイがないだけ助かる。
でもホックをいつも止め忘れるけれど。
母親はいつもこの時間帯にはもういない。
早朝の仕事だから弁当はいつも僕が握るおにぎり二つ。
今日は鮭と鱈子。
基本的に何でも食べるから具はコロコロ変わる。
朝ごはんはコーンスープをお湯で溶かして完成。
朝ご飯を食べないとスイッチが入った気がしない。
そうこうしているうちに6時10分。
弟はまだ寝ている。しっかりした子なので大丈夫だろう。
6時30分のバスに乗るべく、僕は玄関を出て自転車に跨った。
緑、水色、オレンジ、黒、灰色。
漕いでいる途中に見える、様々な色。
田舎だからかひっそりとしている道のりをビュンビュン
漕ぐのがマイブームだ。
体育は苦手だけど。勉強から離れているのもあって心地良い時間。
バス停の近くには自転車を置かせてもらえる家があって。
お婆さんの一人暮らし。優しく、小さくて可愛らしい。
庭には様々な花が植えられていて気持ちがいい。
お婆さんとは帰りによく会う。
初め、バス停から遠いところに自転車を置いていた僕に
たまたま気づいたのがここのお婆さんだった。
以来話をするようになった。
他愛もない話だけどすごく楽しい。
コミュ障の愛想のない僕だけど気さくに話しかけてくれた。
とても嬉しかった。
バスには誰もいない。貸切状態。
前の所ではもうぎゅうぎゅう詰めだったのに。
ここが嬉しいところ。
今日は英単語をしよう。
月、火、水曜日は古文単語。木、金曜日は英単語。
頭の中で音声を出しながら、覚える。
日本語から英単語に直すのが苦手。
英単語から日本語に直すのは得意なんだけれど。
教室に着くと案の定誰もいなかった。
皆が来るまでの一時間、数学をやった。
苦手教科の数学。春休みに復習をしたけれど苦手意識はまだ
残っている。
高2からは得意になってたい。
クラス替えは淡々としていた。
僕、友達いないし。正に高見の見物をしていた。
自己紹介では趣味は読書と答えた。
春休みからだけど。本当だから。
ご飯は一人で食べる。おにぎりにしてるのは英単語を
見やすいから。ガリ勉だって思われてもいい。
弟が見ていたテレビでチラリと出てきた
難関大学に通った大学生の勉強法にも
紹介されてたし。男子の世界はあっさりしているので
僕みたいに一人で食べる人も僕一人だけじゃない。
ちょっと安心しているところもある。
放課後からは図書館に行く。
高1からの習慣だったから、慣れたものだ。
3階へと重い荷物を抱えたまま移動するのは
大変だけど。
このまま7時まで勉強。教科は数学。
一人貸切状態の図書館の窓からは
ブラスバンドの音楽と野球部とサッカー部の
声が聞こえた。
なんか青春って思った。
一週間があっという間に過ぎた。
いつも通り開ける図書館のドアの向こうには、人影が見えた。
司書の先生かと思ったけど、違った。
貸切状態だった図書館が、貸切じゃなくなった。
数学のテキストが見えた。
そこにいたのは、生徒だった。