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思わず入ったお店

 わたしは普通で平凡な女の子、のはずなのに野球の硬球を変に返してしまって、変に注目を集めてしまい、困惑していた。だいたい素手で猛スピードで飛んできたのを受け止めて投げ返すのだからおかしいと思われてもしかたなかった。少なくとも九十メートルは投げ返したはずだから。


それなのに、あれは火事場のバカ力なのよね。なのに、上級生に取り囲まれしまって大変な事になってしまったの。悪いことをしたわけじゃないのに! あれは千尋を守るためだったのに・・・


 わたしの周りの、上級生たちは入部テストさせてと頼んできた。潜在能力があるはずだと。しかし、あいにくスポーツは見るのは好きでも、自分がするのは考えたことはなかった。だから、わたしは千尋と一緒に、その場から逃げ出した。


しかし、わたしはさらに注目を集めてしまった。気がついた時には千尋がいなかった。わたしは一緒に逃げ出した千尋を置いてきぼりにしていた。後で聞いた話では誰も追いつけそうもない速度で逃げていったということだった。


わたしは学校を飛びだし、近所の骨董の店の前にいた。この店は昔からあるのに、雰囲気が変わっていた。しばらく前までは入り口に大きな信楽焼のタヌキがいて店内はガラクタのような骨董品が積まれていたはずなのに、喫茶店のような外観になっていた。

 店の名前もいつの間にか和風のものから「ノイエ・ブルグとドイツ風に変わっていた。わたしはなぜか引き寄せられるように店の中に入った。そこには金髪の老婦人が店番をしていた。わたしは、そのごろ欧米人に出会ったことがなかったので、おもわず逃げ出そうとしたけど、その老婦人は流暢な日本語で話しかけてくれた。


 「おやおや、いらっしゃい。お嬢さん学生さんでしょ。なにか引き寄せられるようなアンティークでもあったの?」


 「いや、その、なんでだろう。引き寄せられたというかね。ところであなたはどこからこられたのですか? 日本語お上手ですけど・・・」


 わたしは、おもわずトンチンカンな事をいってしまったとおもったけど、老婦人は気品を漂わせながら答えてくれた。


 「わたしはマリア。もともと西ドイツの出身よ。結婚した主人が日本人でね、それでこの国にきたのよ。でも、残念なことに十年前に主人を亡くしてね。

 しかも、都内で営んでいたお店を地上げ屋に取り上げられてね、先月この町に引っ越してきたわけなのよ。

だからお店を開いたばかりで暇なのよ」


 そういって奥からお茶を持ってきてくれた。わたしは断ろうとしたけど店にさっき会ったばかりの人が入ってきた。島岡先生だった。

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