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平凡な少女のはず、よね?

 詩織は初対面の先生にとんでもないようなことを言ったとしまったと思った。前世であっただなんて何かのアニメの表現じゃないのにと思った。それは島岡貴子先生も同じだったとみえて、呼び止めてごめんといってくれた。


 この日、詩織が通う高校の新入生は放課後部活見学が大々的に行われていた。新入生でも中学校から同じ競技をしている体育会系の部活を高校でもやろうと考えているのはともかく、詩織や千尋のように何かの部活をしようと考えていない生徒の場合、あまり熱心ではなかった。


 「千尋、一層の事帰宅部でもいいんじゃないの? その場合進学のための学習に専念するからなんていってね」詩織は野球部とサッカー部の練習を見ながらあくびをしていた。

 

 「そうきますか詩織? あんたって小学校の時は身体を動かすのが嫌だといっていたからね。それなのに、あんたスマートよね、うらやましいわ」そういって千尋は詩織のウエストを触っていた。そう、詩織のプロポーションはよかったからだ。


 「なによ! いやらしいわ! あんた女でしょ!」

 詩織は少々おかんむりだったがふと気が付いたことがあった。そうなんだ、小学生の時はわたし運動が嫌いな女の子だったんだと。でも、小学生の事はうっすらと覚えていてもなぜか自分の事のように思い出せなかったのだ。まるで詩織という小学生など存在していなかったような気がするのだ。


 「ちょっとやりすぎたかな詩織、ごめんね。でもね、あんたの身のごなし軽々としているわ。なんか身体の切れもいいし。中学ではなにか体育の部活でもしていたの?」


 「なにもしていないわよ。まあ美術部だったけど名前だけだったからね、わたしの場合は。でもおかしいわね、ほら交通事故にあったといったじゃないの。それからなのよ、私の身体の切れがいいのは。

 うちの父さんは怪我の後遺症で痛みが出ているんじゃないかって心配してくれたけど、かえって調子いいんだよ。ほら、こんなふうに」


 そういって詩織はその場で飛び上がっていた。それは陸上選手のように結構高い位置までジャンプしてプリーツスカートをひらひらさせながら着地した。


 「なによそれ? 事故にあってからの方がいいだなんて? あんた、本当におかしいわね。記憶が飛んだり、身体が高く飛んだりできるようになるんだから」


 「それってダジャレ? そうなのよ自分じゃ何も変わっていないと思っていたんだけど、なんか違うのよね」


 詩織がそう言っていた時、目の前に打球が飛んできた。それは千尋の頭部へ直撃するコースだったが、次の瞬間恐ろしいことが起きた。詩織が素手で受け止めた上に跳ね返してしまった。跳ね返したボールはバッターボックスまで飛んで行った。

 それを見ていた野球部員が詩織の元に駆け寄ってきた。


 「君! 大丈夫か? あれって硬球なんだぞ、それを素手で受け止めただけでなくそのまま投げ返すなんで、手は大丈夫か?」


 「ええ、大丈夫ですよ。ほらなんともないですよ。ほら!」


 そうやって詩織はボールを跳ね返した左手をみせたがいっさい腫れていなかった。その時は平気な風にしていたけど詩織は戸惑っていた。わたしって平凡な少女のはず、よね? と。

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