昔あったことあるような気がするのですよ
詩織と千尋が校門に付いたのは午前8時半だった。その時生徒指導の教師が仁王立ちしていた。二人が通う高校は周辺の高校と比べ校則はごく普通で生徒指導もそれなりで、わりと自由な雰囲気がただよっていたけど、時間だけは厳しかった。
「高橋! 土生! いくら近所だからといって社長待遇とばかりにギリギリくるのはやめること! 遠くからくる生徒はもっと早く登校しているのだからな」
生徒指導の教師の鈴木先生はいつものようにジャージ姿に竹刀を持っていた。いかにも熱血漢ですよと言いたげなような格好だった。朝から小言といわれ嫌な気分になったが早く忘れようとばかりに、さっさと中に入った。
二人のクラスは1年10組だったが、この年の生徒は第二次ベビーブームの生徒だったので12組まであるとんでもなく人数が多かった。しかも1クラスが45人以上だったので1学年550人もいた。だから同じクラスメイトと言われても分からなくって当たり前だった。
教室に入るとギュウギュウであったが、まだ、このクラスは小柄の生徒が多かったので圧迫感はなかった。これが柔道部の重量級のような体育会系の生徒ばかりだったらいるのもいやなぐらいだっただろう。
二人が教室に入ったときにはほとんどの生徒が登校していたけど、特に注目を浴びることもなかった。この頃は入学して間もないのでクラスのリーダーも目立たないのも分からない状態だった。
授業が始まり三時間目になると芸術の授業になったのでクラスの入れ替えがあった。芸術は選択制なので選択ごとに他のクラスの一部と一緒になった。
詩織は美術教室に向かったけど、ここはデッサン用の白い彫像や牛の頭蓋骨があるなど、独特な雰囲気があった。もしかしてこれは、選択ミスなの? そんなことを思っていた。特に頭蓋骨を見ると全身に何かがうごめくのをいつも感じていた。ただそれが何かがわからなかったけど。それは恐怖心なのかそれとも・・・
この日は高校最初の美術の授業なので緊張気味だった。詩織はこの時も違和感があった。中学時代は部活では美術部だったのだが、なぜか何をしていたのかを思い出せないのだ。大きく記憶が欠落しているのは確かであるが、事故の影響としか思えなかった。
授業が始まって教師があいさつしたが、その教師の島岡貴子によれば前年は闘病中だったので今日が復職後はじめての授業という事だった。もっとも最初なのでこれといった事をするわけでもなく、まるでガイダンスでもしているような状態だった。
授業が終わったので次の教室に行こうとしたとき、なぜか詩織は貴子先生に呼び止められた。しかも。なぜか彼女は詩織の顔をじっと見ていた。その眼はなにかを懐かしむような感じであったが、詩織からすれば初対面でこんなことされて迷惑とおもっていたけど・・・詩織もなぜか懐かしかった。
「先生、どうされたのですか? わたしの顔ってなにかの美術作品にでも似ているのですか?」詩織は長い髪を撫でながらいっていたが、この髪は事故後から伸ばし始めたものだった。
「高橋さん、いやそのう、どういうわけかな? あなたとは昔あったことあるような気がするのですよ。でも、そんなことないよね」
「まあ、先生たら! きっと、前世でお会いしたのかもしれないですわね」




