傷ついた身体
マリンは傷ついた自分の身体を見つめていた。最後の戦闘になった惑星エルバ774で不意打ちを受けたことを思い出していた。
そこは前線から離れた惑星であったが機械化兵士の補給基地であり、彼女の麾下の小隊は休暇の最中だった。
マリンは小隊長として最後の任務を終えようとしていた。上層部から立派な兵士の母となるべしとして、強制的に結婚するように命令されていた。相手は優れた機械化兵士で、優秀な遺伝子の掛け合わせによって最強の兵士を生み出すためというものだった。
その時マリンは本当に勝手な軍上層部だと思っていた。十三歳の時に学校に行くと突然徴兵されてしまい両親に別れの言葉を言えないままに改造センターに連行され、身体をいきなり機械化兵士に改造されてしまったのに、今度は結婚しろというのか?
いま二十八歳で小隊長のままというのは前線で一つでも駒を連れて帰れるからというのが理由だった。本当にふざけているとおもっていた。長年の戦闘で身体のいたるところを機械化されてしまい、徴兵前の身体で残っている生身の部分は生殖器と大脳皮質、そして造血細胞と一部の骨格だけだった。だから機械になったといっても過言でなかった。
ほかの女子機械化兵士も程度の差異こそあれ、大部分が機械の身体になっていた。彼女が指揮していた第815女子遊撃強襲機械兵小隊は200人で構成されていたが、いつも激しい前線に送られるので兵士が戦死するのは日常茶飯事だった。その都度若い少女が機械化されて補充されるだけのことだった。そんな事にマリンはうんざりしていた。
そんな時に脱走の機会が巡ってきたのだ。敵に全面包囲され命からがらエルバ774から脱出した際のことだ。脱出時に搭乗していた”Γ50210”の機関部と艦橋に対艦ミサイルが直撃、そのまま跳躍航法にはいってしまったのだ。
その際、搭乗していた大多数の兵士が亜空間に取り残されたり爆風で死亡したりしたが、たまたま医務室にいた六人だけが助かったのだ。そのとき、艦長のラーヌも負傷していたので同じ部屋にいた。
だから六人のうちユリアン以外はひどい怪我を負っていた。彼女たちはサイボークになっているので、部品の交換だけで生き延びれることが出来たが、もうそんな身体に戻るのはいやだった。
命令ではエルバ774を脱出したら、なんとしても本隊に合流すべしとあり、”Γ50210”もあと一回跳躍航法を使う事が可能だったが、一同地球に亡命することにした。
「そうか、ユリアン。やっぱこの星の女子の身体を見つけてこないといけないわね。それまで私たちは冷凍睡眠状態にして、見つかったときに覚醒させてほしい。そのあいだ、なんとかして見つけてきてほしいわ」
マリンら四人の女子機械化兵士は地球人になるべく眠ることにした。外見上は人間と変わらないラーヌとユリアンは、至近の地球のどこかの居住区に移動して地球人に溶け込むことにした。
幸い、この惑星の住民は機械化兵士の遺伝的故郷なので”Γ50210”のデータベースに情報があったのでなんとかなりそうだった。女子機械化兵士から生身の部分が摘出される事になった。




