入浴
詩織は湯船で自分の身体をみつめていた。外見上は地球人にしかみえないように調整されているが、その内部構造は機械化兵士のモノを流用しているのを知ってしまい気持ちが暗くなった。
この詩織の姿は偽りの身体であることを思い知らされたからだ。元の詩織の肉体ではなくマリンを生身の肉体風に調整しただけなのだ。貴子のように他の機械化女子兵士で地球人の身体を得たのは、神経組織などを入れ替えるなどで済んだが、詩織の場合は大規模な改造になったので、ほぼ元のマリンの身体を使わないといけなかった。もっとも、そのおかげで昼間は戦う事が出来たのであるが。
「わたしの身体って・・・マリンのままなんだ」
そういって詩織は湯船に沈んでいる自分の下腹部を思わず触ってしまった。そのあたりの組織はオリジナルの詩織のものではなくマリンの数少ない生体組織を流用していたからだ。損傷が激しかった詩織の組織の流用が叶わなかったので、元のマリンや他の機械化女子兵士の遺体などを流用した。
「さっきキャシャリンが言っていたけど、オリジナルと一緒なのは造血組織と一部の臓器だけらしいけど、それって元の詩織は何割残っているんだろうね?」
そういって詩織は自分の身体を見つめていた。その姿は改造前のマリンの姿に似ていた。でも曖昧なものであったが・・・骨格などは機械化女子兵士だった時と同じものが内臓されているので、だから外骨格装甲さえあれば元の何割かの戦闘能力を取り戻せるわけだ。
そんな風に自分の身体を見つめていると、外から声が聞こえてきた。和子だった!
「あんた、長湯すぎない? 湯冷めして風邪をひいても責任モテないぞ!」
その声に促され湯船から出てパジャマに着替えてすぐ自室に入ってそのままベットに入った詩織は、今度は自分の部屋を見つめていた。地球人の詩織になってから使っている部屋を! このような温かみがある部屋なんて機械化女子兵士の時には使った事がなかったからだ。眠るときはメンテナンス用カプセルの中というのが日常だったからだ。
明かりを消して天井を見上げた時、詩織の意識は何故かマリンの意識が強くなるのを感じていた。いままで気が付かなかったが「詩織」が睡眠に入ると「マリン」としての精神活動が活発になるようだった。ただ、プロテクトが外れた今、その両者の意識は統合してしまったようだ。あの忌まわしい戦いの記憶もまた蘇ってしまった。
「本当は、このままマリンだった時のことを永遠に忘れていたかったわ・・・」
詩織はため息をついていた。




