再構成された身体
詩織ことマリンの身体はほぼ機械化されていた。生身だったのはせいぜい生殖器官だけだったが、それもこれも機械化兵士に改造しやすく「品種改良」された種族の存続に必要とされたためであった。だからマリンは除隊後すぐに子孫を残すべく結婚させられる予定だった。
マリンの身体は地球人とほぼ一緒だったが、切り落とされた左腕の中には人工筋肉組織が存在するなど元の身体のパーツが残っていた。一体私の身体はどうなっているの? プロテクトが解除されたマリンの意識は困惑していた。
「マリン、あなたが戸惑うのも仕方ないわね。実は他の四人は脳組織を移植するなどして比較的軽微な措置で地球人になれたのよ。でも、あなたは最後の戦闘で損傷が激しかったでしょ。だから早いうちに移植しなければ・・・たぶん、こうして話すことは出来なかったわ」
マリーはそういいながらテレビを持ってきた。そのテレビはブラウン管だったけど、この世界ではごく普通だけどものすごい骨董品のような気がしてきた。そう、機械化兵士の社会ではそんなものなんか使っていなかったから。
「あなたの身体は気づいているだろうけど死んだ日本人少女の身体とあなたの元の電脳と他の戦死した女子機械化兵士の遺骸を再構成して誕生したのよ。そう、あなたは高橋詩織だと思い込ませていただけなのよ。でも、そのおかげでさっき時空聨合の戦術生物兵器を撃退できたってことよ」
そう話をしているうちにテレビには見たことある風景が映し出されていた。それは今住んでいる町の路地が映っていた。それにはセーラー服の少女が歩く姿が映っていた。
「これって・・・私、よね?」
その少女は中学時代の高橋詩織だった。彼女は下校途中のようだった。詩織いやマリンのデータベースでは交通事故に遭う直前のようだった。でも違和感があった、顔が去年の秋だというのに微妙に違っていたのだ!
「そうよ、あなたの。いや正確にいえば今のあなたの身体の素体になった少女よ彼女は。これから起こったことを見れば分かるわよ」
マリーはそういったが、データによればこの後横断歩道でダンプに跳ね飛ばされて怪我をしたはず・・・まてよ、これって偽りの記憶よね。本当は違うんだこれは。
ブラウン管の中の詩織は横断歩道で信号待ちをしていた。この時彼女は英語の単語帳を見るのに熱中していて周りの様子をあまりよく見ていなかった。そう、この時高校受験勉強の事で頭がいっぱいだったようだ。
そして信号が青になって渡り始めた時、猛烈なスピードであのダンプカーが近づいてきていた。それに気付いた他の歩行者は逃げ出していたが、詩織は叫び声に気付くことなくダンプと交差する地点にむかってしまった。そして次の瞬間・・・高橋詩織は死亡した!
「これって・・・死んでいるわよね」
「そうよ。高橋詩織という日本人は粉々になったってことよ!」
ダンプに衝突した瞬間、詩織の胴体は衝撃で真っ二つになり、上半身だけが遠くに飛ばされてしまった。それもダンプの巨大なタイヤに踏みつぶされ、身体はミンチになってしまった。事故現場には血の海の中で粉々になった高橋詩織だった物質が浮かんでいた。本当ならこの時以降、彼女は存在しない少女のはずだった。
「じゃあ、いったいどういうことなのよ。あたしって高橋詩織に成りすましているってことなの?」
私はある技術を思い出していた。私が戦場で使った事だが、戦場で殺害した兵士などの脳組織が生きているうちに電脳化措置をして情報を収集するのを応用して高橋詩織を模造したのではないかと。
「そうよ。高橋詩織の肉片などの残存組織を最大限使っているのよ。そうそう、あなた気付いているでしょ、交通事故以前の記憶が曖昧なのを。それは高橋詩織の脳漿から記憶や意識などを抽出するのが難しかったからよ、それで関係者の中にある彼女の記憶で人格を構築したわけ。ついでに多少は成績は良くなったかもね。それに性格も。
だから土生千尋さんのように違和感を感じている人がいるのは仕方ないわね。まあ、事故が原因といっておけば納得だけどね」
それを聞いて私は自分の顔や胸、足を触っていた。この作り物の高橋詩織の肉体を感じていた。この柔らかく温かい機械化兵士の時には得られることがなかった身体の中に、あの忌まわしい機械化兵士のパーツが埋め込まれているわけなのかと。




