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アンティークの地下室

 レストランの注目の的は美術部部長の前田紗代だった。彼女の貪欲なまでの食事の量と速さには店内にいた者全て呆れるほどだった。一方、無理やり「新入部員」にされてしまった詩織と千尋は隅の方で小さくなっていたが、詩織は色々と思い出そうとしていた。もちろんマリンとしての記憶を。


 しかしマリンの記憶を殆ど思い出すことが出来なかったのだ。さらにいうなら去年の交通事故以前の詩織としての記憶もだ。

 医者からは脳にショックを受けたことによる健忘症、いわゆる記憶喪失と診断されたが、脳に異常はないとされていた。でも、おかしなことに気付いた。それじゃあ私の身体はどうなっているのよ!


 「どうしたの詩織! トンビと戦って木から落ちて左手怪我したようだけど頭も打ったんではないのよ! お医者さんに行かなくちゃ!」


 千尋に声を掛けられはっとしたが、いったい何を考えていたんだろう私は?


 「そうだね、なんかボートしちゃったりしてね。春だからかなやっぱり? 私がヒーローみたいになったりしないよね」


 「なんのことなのよ? この前私に当たりそうになったボールを防いでくれたじゃないのよ。あれだって立派なヒーローよ」


 「そういうことも有ったわね。ところで、スケッチはどうなの」


 「実は・・・芸術科の科目選択を間違えちゃったかなと思うぐらい無残な絵で・・・」


 そういわれ見せられたスケッチは・・・まあ言わない方が花のようなものだった。


 「大丈夫じゃないの? 誰だって最初からうまい人はいないでしょ」


 結局、その日のスケッチは午前中だけで終了という事になり皆帰宅することになった。でも、例外がいた。そう詩織だ。貴子先生に病院に行こうと言われたからだ。しかし向かった先は「ノイエ・ブルグ」だった。


 「先生、どうしてここに? 病院に行くのではないのですか?」


 「大丈夫よ、病院みたいなところだよ、ここは。まあついできて、こっちに」


 そう言われ、店の事務室の脇の物置の扉を開けると、地下に続く小さな階段があって、そこを進むと真っ白い壁に囲まれた部屋があった。そこにはマリーとローザの親子が腰かけていた。


 「いらっしゃい、高橋詩織さん、いえマリン小隊長!」


 「なんで、わたしをそう呼ぶのですか? わたしは・・・いつの間にか戦闘兵器にでも改造されていたというのですか?」


 私は恐ろしい想像が浮かんでいた。弟たちが見ていたUFO番組のようにいつの間にか改造されていたのではないのだろうか、秘密兵器に!

 改造された事に気が付かないまま生活していたけど、さっき襲われた時にあいつらが機械化兵士と呼ぶ正体を暴露したのではないかと。すると意外な返事が返ってきた。


 「記憶ユニットにプロテクトを掛けているからしかたないけど、あなたはマリン小隊長を地球人に改造して生まれたのよ。元の高橋詩織はもうこの世にいないのよ!」


 「!?」


 私は、何の事なのか分からなくなってしまった。 

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