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さらわれた千尋

 わたし高橋詩織は平凡な女子高生だとばかり思っていた。だから、この日までは特別な事などできないとばっかり思っていた。まあ、マグレで野球の硬球を素手で受け止めて投げ返したりしてしまったけど。


 工事中という立札を無視し奥のエリアに千尋と向かっていた。このあたりは鬱蒼とした雑木林で春の若葉が芽吹いて鮮やかな色彩を放っていた。このような景色は見たことは何度もあるはずなのに、なぜか感動してしまった。


 その時、もうすぐ集合時間が近づいていることを思い出した。貴子先生とローザさんが指定した場所で食事をしましょうというものだった。そのとき一緒にお話をしましょうといわれていたのだ。


 「千尋、そろそろ戻ろうよ。もうお昼だし」

 そういったとき、千尋は何かを見つけたと言い出した。


 「詩織、あれってなにかしら? なんか忍者のようなものが通り過ぎたみたいよ」


 「そんなことはないよ。あれは・・・」

 そのとき、わたしの頭の中で何かが開いたような気がした。それは何かの数値が視野に見えだしたのだ。そして照準をあわせるようなマークも同時に見えた。


 「千尋、それは危険よ! 逃げて!」

 わたしが叫んだと同時に千尋は何者かにさらわれてしまった。その者の影は物凄い勢いで木々の間を抜けて行った。


 「待ちなさい、待ちなさい!」

 そう言いながら、わたしは物凄い勢いで追いかけ始めた。そしてそいつの足を目がけて転がっていた石を投げつけると、弾丸のように飛んでいったかと思うと、その影の足に命中した。


 「千尋! 大丈夫」

 駆け寄ったわたしの目には千尋をさらった奴の姿が目に入った。そいつはまるでトカゲのような姿をしていた。それにわたしが投げた石によって生じた太ももに貫通した跡が残っていた。


 わたしって、こんな力を持っていたの? それに千尋をさらった奴の正体ってなによ? それにわたしの視界に浮かぶ数値や照準は一体何なのよと戸惑うしかなかった。


 「ほう、我ら部隊員を負傷させるとは、お前は地球人の小娘じゃないだろ? 正体を見せろ!」


 後ろからトカゲの姿をした連中が近づいていた。そいつらは身長は170センチぐらいであったが、よく似た格好をしていたので、順番が変わったら区別が出来そうになかった。


 「なにを言ってんのよ! わたしは日本人よ! それよりも、あんたたちは何者? それに千尋をさらって何をしようというのよ?」


 わたしはむきになっていったが、そのトカゲの姿をしたやつが近寄ってきた。


 「我らの存在は知られては困るので、お前ら二人とも拉致するはずだったんだ。聞いたことないかアブダクションというのを? お前ら地球人のサンプルとしてさらうってことさ。でも、お前は地球人ではないぞ!」


 そういうと奴はわたしの不意をついて近寄ってから、事もあろうにわたしの左腕を切り落としてしまった!


 「な、なにをするのよ! あんた・・・」

 わたしは酷い激痛にのたうち回りながらそこらへんに倒れこんでしまった。しかしおかしなことに気が付いた。わたしの左腕の切り口にあり得ないモノがあるのを。


 「やっぱりなあ。お前は地球人に化けているが元は機械兵だろ? はやく思い出せよ」 


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