ノイエ・ブルグ
この「ノイエ・ブルグ」はドイツ語で「新しい城」を意味するけど、これは主人の老婦人の名前マリー・新城・ラインホルトに由来すると知ったのは後のことだった。
あとから入ってきた島岡貴子先生とマリーさんは知り合いだったようで、親しげにお話しし始めた。そしてわたしは先生と一緒にマリーさんとちょっとしたお茶会みたいなことをしはじめた。
マリーさんは、さっきのお茶に加えケーキを持ってきた。彼女によれば自家製とのことだった。それにしてもここはアンティークショップなのか喫茶店なのかわからないけど、その両方でもよさそうだった。
店内はインテリアを兼ねているアンティークが美しく飾られ、そこに小さな値札がなければ商品のようにみえなかった。また使っている家具も雰囲気のいいものだった。それにしても、新しいものが溢れている1980年代にもなってこんな雰囲気はないんじゃないかとも思っていたけど、わたしは結構気に入ってはいた。
「高橋さん。部活見学会から帰ってしまったそうね。みんな探していたわよ。今日はもう学校に戻らないの?」
島岡先生はそういいだした。わたしは持っていたカップを落としそうになった。なんて耳に届くのが早いんだろうかと。
「いえ、その。さっきのわたしのは、マグレというか・・・別に体育会系のクラブに入ろうと思っていなかったので、興味なかったのですが。なんか実力があると誤解されたみたいで、戸惑っているのですが・・・」
「やっぱそうなんだ。そうだよねえ、興味ある子だったら最初から入部テスト受けに行くわね。あなたのクラスメイトも陸上部のテストを受けてふるいにかけられていたからね。
ところで、高橋さんはどこかのクラブに入るつもりはないの?」
「クラブですか・・・わたし正直帰宅部でもいいかもしれないと思っています。弟が二人もいて両親も共稼ぎでおばあちゃんと一緒に暮らしていて、家計も結構苦しいので。出来ればお金がかかる部活はしたくないので・・・」
「まあ、高橋さんって家族思いなんだね。でも高校生活をしっかり送るためにはなにかクラブに入った方がいいわよ。
そうだ、今度の週末うちの美術部で風景スケッチ会を開くけどあなたも来てみない? さっきあなたとはぐれた土生さんも来るそうよ。隣町の公園だから交通費もかからないし画材なんかもスケッチブックと鉛筆だけだから準備もいらないし、どう?」
わたしは千尋も行くと聞いて首を縦に振ってしまった。あまり気が進まなかったけど参加することにしてしまった。結局「ノイエ・ブルグ」で他愛もない話を小一時間して過ごして帰宅した。そのあとのことは、わたしはその時は知らなかったか重大な事をマリーさんと島岡先生が話をしていた。
「うまく高校生になりきっているわねあの子。完全に同化しているわね。ここまでは順調でなによりだけどね。でも、悪いけど、あの子にも目覚めてもらわないといけないわね貴子さん」
「マリーさん、貴子だなんて・・・この私の素体になった地球人の名前で呼ばれるのも照れるわね。まあわたしも同化できてなによりだけど。それにしても大丈夫かしらん、あの子。本当に自分を高橋詩織だと思い込んでいるわね、生まれた時から」
「それだけ同化術はうまくいったってことよ。でもね、このせっかく来た国もかつていた星々との戦いに巻き込まれるのを何としても阻止しないといけないわ。
そのためにもあの子には戦闘時だけでも覚醒してもらわないといけないわ。だって、あの子の戦闘力は一個大隊と同等もしくはそれ以上なんだから」




