プロローグ
この躯は、あたしのモノではない。
この躯は、誰かのために、役立てるために、存在している。
家のため。町のため。世界のため。そして、人のため。
この躯は、世界に繋がるための生け贄。あたしは、ただの人形。ただの器には、詰め込めるだけ詰め込んで。
言われた通りに。教えられた通りに。命じられた通りに。それが、あたしの存在意義。
あたしは、ただ言われた通りに動くだけの道具。なにも考えず、なにも感じず、なにも願わず、なにも望まず。ただ言われた通りに、言われたことを。
願いは、あたしが抱くものではない。願いは、すでに決まっていること。遥か昔、あらゆる始まりから、それは決まっている。
願われた、望まれた。それは、ずっと続く。何代も、何代も。その願いは口頭だけでなく、もはや血にまで沁みついた、自身が何者であるかを問うのと同義。
だから、あたしはただ、その願いに忠実にあろうとする。
――楽園争奪戦。
それは、魔術師最高峰の戦い――。
楽園とは、最も世界に近いとされる場所。魔術師の最終目的である、世界への到達、世界の起源へと至る、その願いを叶えるための一つの可能性。
それが、白見の町で起こっている戦いの名。
その戦いに勝利して、世界へと到達する者は、この白見の町には一人しか存在しない。それは、揺るぎようのないこと、それは決定事項。
なぜなら――。
その存在そのもの、存在自体が、まさしく魔術師の祈願を果たすのだと約束されているから。この町を統べる者の他に、その栄誉にふさわしい者が他にいようか。
……だから。
この身は、その存在のためにある。その願いのためにある。そのためなら、全てを捧げてもかまわない。
…………そのはずが。
どこで間違ってしまったのか。
その願いが叶わないのだと、知ってしまった。
その闘争が、別の者の手に委ねられてしまったのだと、知ってしまった。
何の間違い?これは偽り?真実はどこへいってしまったのか?
――栖鳳楼礼は、楽園争奪戦で戦う権利を失った。
――雪火夏弥は、いまだに楽園争奪戦で戦い続けている。
誰が決めた予定なのか。これが運命だというのなら、呪ってやりたい。これが決定事項だなんて、認められるはずがない。
世界へ至る者は、それに相応しい者。
無関係な存在が、世界に手を出していいはずがない。
――ああ。
間違っている――。
誰か教えてください、真実を。
誰か願ってください、世界を。
誰か助けてください、あたしという存在を――。
教えてください。願ってください。そして、命じてください。
あたしには、やれることがあるのだと。あたしは、いくらでも捧げます。なんでも、捧げます。その願いを叶えるために、あたしは遥か昔から望まれているのですから。
この身は、人形。ただの、器。満たした願いに、これはなんでも尽くしましょう。
……もう、眠りは覚めたのです。
さあ、求めてください。願ってください。
あたしは、願いを叶える。望みを叶える存在なんですから。




