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春夏秋冬立ち呆け

 春の朝、優しい日差しの降り注ぐ下で私はあの子に会いました。黄色い帽子に赤いランドセル、短めのお下げを垂らした女の子。その子は私の事を眩しそうに見上げながら言いました。


「おはよーございます!」


 大きな声で気分のいい挨拶。私は一目でその子の事が好きになりました。



 夏の日。大きな声で鳴く蝉が空を飛び、アスファルトの地面を黒い蟻達が長い列を作る。上に下にと激しく視線を動かすあの子はそれらに夢中、つい一生懸命になり過ぎたのかそのまま私にぶつかってしまいます。


「ご、ごめんなさい」


 ゴツンと大きな音。痛かったのか頭をさすり涙目で謝るその子に私は心配になってきます。


 大丈夫? 怪我はない?


 不安な気持ちで見下ろしていたのも一瞬の事であの子はまた元気よく顔を上げるとそのまま走り出します。

 あの子は強い子です。



 秋、木々の葉が鮮やかに色付いて参りました。今日のあの子は少し気取った様子、買ってもらったばかりの洋服でくるくる回り。私の周りをぐるぐるぐるぐると周ります。

 口下手でお堅い私の何がそんなにいいのか。嬉しく思う反面申し訳なくなり、それでもあの子は私の体を叩いて言うのです。


「きれいー」


 ありがとう。

 でもアナタの方がずっと綺麗で可愛いいんですよ?



 冬の始まり。

 冷たい風の吹く中であまり見かけない時間にあの子がやってきました。 過ぎ去ったばかりの赤い西日に負けじと晴らした赤く大きな目。

 辺りはすっかり暗くなろうと言うのにそれでもあの子の気持ちはくすぶったままの様子で、私にもたれかかり何度も何度も肩を上下に揺らしています。


「ぐすっ、ぐす」


 喧嘩でもしたのかな。涙を流すあの子に優しく抱き締める腕すら私にはありません。

 だから代わりに道しるべを出しましょう、泣きじゃくるこの子を早く大切な人が見つけてくれるように。



「みやー、みやちゃーん」



 そのまましばらくすると大人の女性の声が辺りに響きます。びくりと震えるあの子はどこか隠れる場所を探そうとするけれどそんなの私が許しません。どこに行っても私がアナタの居場所をバラしてあげましょう。



 春。再び季節が巡ってきました。

 去年よりも少し大きくなったあの子は私を見てすぐに駆け寄ろうとしたけれど途中で誰かに呼び止められてしまいました。どうやらお友達のようです。

 同じ赤いランドセルに黄色の帽子の女の子と笑顔で話すあの子、そのまま会話を続けあの子は私に背を向けると遠くに向かって歩き出します。



 少しだけ、寂しく思います、だけどこれでいいんです。


 私は、夜灯。

 夕暮れの終わりに光を灯し、夜の終わりまで道を照らすだけの存在。

 今まで何人もの人が私の下を通り過ぎ、そして忘れていく。


 それでいいのです、私はそれで満足をしています。笑顔になったあの子達が遠くを歩いて行くなら、それで。





「おーはよーございまーす!」

 突然、遠くから声が聞こえます。歩き去ったかと思ったあの子は途中で振り返り、私に向けて大きく腕を右に、左に。




 私はやはり、あの子が好きなようです。あの子だけじゃなく私の下を過ぎ去った多くの子達が。



 私は夜灯。

 立ち尽くし道を照らし続ける役割。

 また春がやってきました。

 2015童話コンテスト!……ってあったみたいですね。出遅れ出遅れ(汗)


 昔、私の住んでいた家の近くにアンティーク物の古い電灯がありました。緑色に変わってしまった見た目に、それはそれは立派なたたずまいで。



 もう、今はありませんね

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