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14  八咫烏  side烏丸千里


英雄のカタチ

種子田高校に在籍している生徒たちにはそれぞれ独自の「スタイル」が確立されており、それを「英雄のカタチ」と称している。


身体型

武器を使用したり、知略・策略などに長けたりと、自分という器の枠を抜け出さない範囲で強くなった者たちを指す。

最もポピュラーな「カタチ」であり、発現者も多い。


事象化型

自分自身を“自然の物”や“人以外の物(例:金属)”へと適応化できる人間の事を指す。種高内では二番目に多い「カタチ」。

現時点での完全発現者は十数人。限定的かつ疑似的を含めると、全校生徒の半分がが事象化を発現する事が出来る。


回帰型

呼ばれた異世界から授かった“英雄としての力”を、その世界を救うために還元した者たちを指す。現時点では最も発現者が少ない「カタチ」。

身体能力を始めとした全てが一般人と何ら変わらないが、今後の対応を含めて種校への入学が強制されている。主に魔法を使用した授業面などに対して学校側から優遇されている。


上書き型

世界そのものを自分の都合の良い形へと“書き換える”“塗り替える”事が出来る人間の事を指す。

あまりにも異質且つ異常なその力故に、どれだけ品行方正な人物であろうが教師陣からは最注意人物の烙印を押されている。

発現に至るまでの経緯や、発言者自身やそれらを取り巻く環境などに対しての統一性が一切ない。



 ――烏丸千里は、特別じゃない。


『西側のオーブ発見! 俺の眼前、五百メートル半!』


 非常食型端末「たい焼きクン」から聞こえてきた一方的な通信に、司令部でそれを聞いていた烏丸は、‘眼前ってどこだよ’と突っ込みを入れたかった。

 しかし通信が終わった途端、灯がすぐさま遠野の位置を割り出し、それを確認した十村と高町教師が‘じゃあ、行ってみようか!’と、超清々しい笑顔で司令部から叩き出されてしまった。

 叩き出されるのは別に構わない。斥候兼偵察役たる自分はその為にいるのだし、その役目に不満を持っている訳でも無い。

 しかし――


「こんなひどい嵐だとは、誰も思ってねーよ……」


 ビリビリバリーン! ギシャアアアア! バァーン! ドォオオオン! ……etc.

 擬音や効果音で表現するとしたら、こんなところ。非常に頭の悪い表現法だと理解しているが、語彙力に秀でている訳では無い烏丸としては、これぐらいが限界だ。


「ああ、行きたくねぇ……」

 暴風圏から僅かに離れた木の上でそう頭を抱える。


「まあ、まあ……東のオーブは取れなかったけど、ここで西の取って置けば、後は最奥の十点オーブさえ取ればいいんだから、楽な仕事だと考えようよ」


 と、慰めの言葉を口にしてきたクラスメイトの少年――赤城礼人の顔を見やる。

 体調不良で午前中は来られなかったクラスメイトであり、烏丸と同じく斥候兼偵察役を与えられている。その戦法は、己の武器であるボウガンに式神を取り付けた矢を射出し、半自立思考型の式と連携して攻撃や索敵、目的物の奪取、果ては人物護衛など幅広い分野を務められるオールラウンダーだ。


「そうは言ってもなぁ……。なら、あの嵐に好んで行きたいか?」

「……」


 返答は三点リーダー。それはもう答えの証だ。

 このクラスで先陣を切る好戦派といえば雪音や麻耶・稲葉などがあげられるが、現在、彼らはここに居らず、誰かにその役目を押し付けるという訳にもいかない。


「………………………………………………………………………………よし」


 長い空白は決意の証。別名腹括り。

 右の米神を、人差し指で軽く二回ほど叩いて頭の中を切り替える。己が得物である双刃刀の柄を握り直し、赤城と二人、嵐の中へと足を踏み入れていった。



     ●●



 硬貨と雷の嵐の中。遠野が発見できたということならば、相手もオーブを見つけている可能性は充分ある。ここに来る前に十分に考慮していたことだが、人は自分の都合がいい方へと進んでほしいと希望を募らせる。

 ――それは、烏丸にとっても同じことだった。


「はぁ!」

「せぉお!!」


 足元を払うがそれはジャンプで避けられ、振り回す双刃刀を二本の短刀で弾かれる。敵のキツイ一撃によって双刃刀が大きく跳ね除けられ、大きく体勢を崩す。しかしすぐさま体勢を立て直し、絶えなくやって来た短刀の連続攻撃を弾くが、捌き切れなかった相手の蹴りが烏丸の頭上に当たり、脳を揺さぶられて平衡感覚を失う。


「……っぐ」


 その隙をもう一人の奴が見逃す訳があるはずもなく、判断力が鈍った所に更なる追撃を掛けてくる。手には短槍。


「っし!」


 容赦なく顔面を狙ってくる矛先を手の甲で捌いたり、首を捻ることで避ける。頬を掠る紙一重の攻防戦。赤城を狙う敵を倒しに行きたいところだが、烏丸自身もこの二人を相手するのが精一杯だ。

 更に――


「もう一人追加とか、嬉しいのかどうか分かんねぇよ……っと!」


 狙いはこちらの眉間ジャストのスタン弾。当たれば脳全体を揺らされ、一撃で気絶していただろう。烏丸の特殊能力スキル《鷹の目》を介しても射撃口を発見できなかったとなれば、目が捉えきれる範囲の外から引き金を引いたに違いない。


(スナイパーとか、厄介だ!)


 遠距離の武器を有してはいるが、その中でも重火器を手にしている者はいない。故に、超長距離からの対応に慣れている仲間は限り少ない。――烏丸もその一人だ。


「っつ!」


 二人の連撃の隙間を埋めるように射出される魔力作りの弾丸。当たると厄介なのは自分の麻痺を目的としている弾丸の方と判断付け、刃による掠り傷を作りながらもそれを払い落としていく。


「はぁ!」

「せえ、ぁああ!」


 接近戦タイプの二人が大振りの攻撃を仕掛ける。短刀二刀による振り下ろしと、短槍の肺を貫く渾身の一撃。当たればただでは済まない重たい一撃。だが、功を焦ったその攻撃は大振りで、非常に対処がしやすい物だった。

「っふ!」


 全力で身体を脱力させてしゃがみ込み、槍の一撃を躱す。頭上を鋼が通過したのを認識してから身体に力を引き戻し、双刃刀で柄を切り落とす。


(柔らかい鉄製でよかった!)


 感動もそこそこに、持ち方を変えて振り降りてきた短刀二本を受け止める。

 耳痛い金属音。同時に、心身の高鳴りを押さえられなくなる高揚を煽る甲高さ。自分も存外戦闘狂ではないかと呆れが生まれた。


「せぁ!!」


 刹那の鍔迫り合いに勝利し、大きく傾き隙が生まれた鳩尾(みぞおち)へと峰を叩きこむ。


「っが……!」


 相手の吐き出す声。手応えは十分。


「ぜっ……りゃぁああああ!!」


 腰と足首に重心を置き、短刀使いを短槍使いへとぶつける。


「っつぅ……! こっのぉお!!」


 槍を折られてなお、烏丸に挑み掛かろうとしていた短槍使いは、不意を突かれたように目を見開く。彼に避けるという選択肢は無かったようで、短槍使いは短刀使いとともに数メートル後ろの樹木へと激突した。

 気絶するほどの衝撃ではない。故に、二人は一瞬だけ息を詰まらせたが、すぐさま呼吸を整えて立ち上がろうとする。

 だが――


「っふ!」


 二人を助けるように、烏丸に向かって放たれた麻痺弾。魔力で構築されたそれは、通常の弾丸と違い叩き斬ることが出来ない。先ほど放たれたスタン弾よりも数倍厄介になったそれを、烏丸は短槍使いたちの方へと弾く。


「……っ! ――……っ!? うし……!」


 背中の痛みを押さえながら起き上がろうとした短槍使い。同じように、腹の鈍痛に眉を寄せながら立ち上がろうとした短刀使い。短槍使いが視界のボヤケから回復した時には、遅かった。


「――……っが!」


 烏丸が弾いた四つの麻痺弾の内、二つが短刀使いの頭部を直撃。一つはうなじ、一つは背後の木に直撃。その衝撃と麻痺弾の効果で、短刀使いの意識は暗闇へと沈んでいった。


「――――!!」


 遠く、短槍使いが短刀使いの名を呼んでいる。身体を揺すり、必死に起こそうと試みているがそれは意味の無いことだと悟るのに、そう時間は掛からなかったらしい。

短刀使いを押しのけるようにして這い出てみせるが、その行動も時すでに遅し。

 構えは一本足打法。気分はどこぞの三冠王か、メジャーリーガー。

 にやり、と意地の悪い笑みが口元に浮かんでいるのが感じとれる。烏丸の眼前に見える短槍使いの口角が冗談だろうと言わんばかりに動く。そうだよなぁ、と他人事みたいな感想が浮かぶ。

 烏丸が迎えようとしているのは、《鷹の目》では捉えられない位置にいるスナイパーから放たれた麻痺効果を強化された魔力の弾丸。魔力で構成された弾丸は通常の弾よりも強化しやすいし射撃後の操作もし易いが、反面第三者からの介入を受けやすい。

 それを知っていてなお、この弾丸をセレクトした。ならば――


「正々堂々とぉ……――不意打ちぃ!!」


 実に気持ちの良い音は出ないが、双刃刀のスイートスポットにクリーンヒットした強化弾丸は、真っ直ぐに短槍使いの方へと向かう。


「!?」


 麻痺とスタン。一見すれば同じ効果だと思うが、種子田高校で使用される弾丸は非常に細かく分類されている。それ故に、同じ意味合いを持つ表記だったとしても、弾丸の明記が違うのならば、その弾が有している『弾丸効果』はかなり違う。

 麻痺は意識の阻害。スタンは身体を阻害する効果を持つ。それらの弾を分別する基準は難しく、特殊能力(スキル)《鷹の目》などの目を強化する様なスキルや、動体視力に余程の自身がある者ですらたまに間違うことがある。

 それなのに、二人の英雄を相手しながらその判断を付けられているのは、ひとえに灯のアシストのおかげだと言っても過言では無い。


《向かい来るは痺れの弾丸。こちらの思考を阻害し、意識を絶つものだ。》


 身を取り巻く光の文字。灯りのアシストを示すその文字は自分にしか見えず、どれだけこの身に取り巻いても相手には見えないというご都合設計だ。

 こういった砲弾識別の大半の部分は、烏丸の《鷹の目》で判断しているのだが、人間である以上間違いは 犯してしまう事もある。戦場での間違いは命取りに繋がる。それ故に、その‘もしも’を完全に捨て去ることは出来ない。

 だが、その‘もしも’に気取られていると、慎重という名の後手に回ってしまうことになる。――今の烏丸に、それは許されない。


(有り難いっちゃあ、有難いんだがなぁ……。――いや、今はそんな事よりも……!)


「そのまま……夢に旅立て!!」


 一度は言ってみたかった決め台詞と共に、麻痺弾が短槍使いの眉間へと激突する。


「――――!!」


 数回の痙攣の後、短槍使いの身が、短刀使いの身体に折り重なるようにして沈む。倒れ込んでからしばらくの間、彼らを見守る。その身体が一切の挙動を起こす事無く、沈黙を保ち続けているのを確認してから、深い溜息を一つ吐き出す。


「第一ファクター、終了っと……。……って!」


 僅かに気が緩んだところに、連続して弾丸が放たれてきた。


「息つく暇を与えないっていうのは滅茶苦茶正しいけど、さぁ!」


 ギリギリで弾丸を避け、二人から離れて手頃な木の影に身を隠す。

 深呼吸を一つ。緩んだ警戒心を引き戻し、張り詰めた空気が辺りを漂う。腰からたい焼きクンを引っ張り出し、司令部に居る十村に通信を入れる。


「こちら烏丸。敵を二人撃破、スナイパーを潰してから赤城の支援に入る」


 十村の返答を聞かずに通信を切り、意識を切り替えて特殊能力《鷹の目》を発動させる。

 烏丸の持つ特殊能力《鷹の目》は一種の魔眼に分類される。魔力で視力を強化するわけでも無く、意識を少しだけ変化させることで、裸眼で見通せる範囲が格段に広がる。個人によってその目視範囲は異なるが、烏丸の最大射程は直径二十メートル圏内と、凡夫の身としてはそれなりの距離を見通せる。

 《鷹の目》を保有している中では弱い方に分類されるが、烏丸の真価はそこではない。


(……ステージ、密林をダウンロード。敵味方識別を転送。精神との接続感触……感度良好。《鷹の目》、オープン)


 目を開ける。烏丸の視界に映ったのは、自分が上からこの場所を覗き込んでいるような風景。具体的に言うなら、シュミレーションゲームのようにステージの全体図を、上から覗き込んでいる感じだ。

 通常の《鷹の目》は、肉眼で見える距離よりもさらに遠くを目視する特殊能力だ。遠くの得物を狙撃するスナイパータイプの英雄に多く発現、その力を以て彼等は超長距離からの射撃を可能としている。

 だが、烏丸の《鷹の目》はそうじゃない。ロボットゲームに登場するレーダーのように、フィールドを上から認識している。障害物の有無。捉えられる最大射程二十メートル圏内で起こっている全ての事象が、別ウィンドウで表示される。まるで、第三者視点で物事を識別しているような感覚だ。

 こうなると、全てを第三者視点に近い状態でしか認識できない。


「敵対スナイパー排除のために移動。その後攻撃、対象の戦闘不能もしくは気絶を以て、ミッションコンプリートとみなす。……――レディ……」


 そうして、烏丸の意識はたった一つの事柄へと移っていった。




NEXT


『妖精戦姫』/シャルロット・アガーテ 女 3-C 武器:装飾剣 属性:中立 位置:後方 英雄ランキング:第六位

魔力は全校生徒の中でもトップクラスであり、雪音よりも強力な《精霊使役》の特殊能力持ち。それ故に、妖精や精霊などを含めた戦闘ではシャルロットの方に軍配が上がる。

人当たりは良く真面目な性格だが、それ故に一人で抱え込んで思い悩んでしまう事が多い。

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