13 それぞれの軌跡 sideクラスメイト
上位魔術 【雷鳴の暴風】
疾風系上位魔術。雷を纏った暴風を相手に放つ技。使用者との相性によって攻撃力が上昇する。
中級魔法 【戦乙女の鉄槌】
魔力によって創られた鎧を対象者に纏わせ、物理的防御力と魔法的防御力を向上させる補助系魔法。基本的には防護の魔法だが、【属性変換】と組み合わせる事で、相手の魔法を相殺する時の一撃必殺の力へと転用させることが出来る。
しかしながら、上記の方法は一回限りの使い捨てなため、好んで使用する人間は少ない。
異世界弊害
異世界版PTSD。詳しい事は後々登場します。
――どんな場所でも、誰だって、
龍田華怜たちが撤退した西側。元は彼女の為に用意された戦場だったが、今は別の戦局へと状況が推移していた。
「雷鳴の暴風!」
「戦乙女の鉄槌!」
暴風と雷を纏った暴走気味の魔力を、防御魔法である【戦乙女の鉄槌】で打ち抜く。この魔法自体には属性が付属されていないため本来ならば対消滅させることは出来ない。
今は自身が属性持ちであるため必然的に【戦乙女の鉄槌】に属性が付き、対消滅を可能としている。
対消滅させたはいいが、その攻撃で打ち抜きたかった防護魔法まで力は到達しなかった。完全なる目測不足に思わず舌打ちが飛び出す。
「くそっ……!」
「まだまだ甘いねぇ『迅雷』」
安い挑発だと理解は出来ているが、酷く癇に障る物言いに、『迅雷』と呼ばれた少女――高坂麻耶は、思わず背後を振り返る。そこにはニヤリと余裕を噛ました笑みを浮かべている少年――『疾風怒濤』がこちらを向いていた。
英雄の形としては事象化型。現時点で在校している事象化型生徒たちの中では一番強く、麻耶が彼の対抗策として、期待が掛かっていると言われているらしい。らしいというのは、麻耶がその事をあまり自覚していないからだ。
舌打ちをしながら、空中に漂う電子を足場にして身体の向きを変える。三度ほどそれを繰り返し、再び『疾風怒濤』へと拳を振りかざす。
「おっと」
軽い声と共に振りかざした拳は糸も簡単に避けられ、一瞬の瞬きの間に麻耶より遠くへと距離を取られる。
「もう! ちゃんと当たってよ!」
「やだよ、そんなの」
「なんで!?」
「だって君の攻撃に当たったら、感電死するじゃん」
「ふぐぅ!?」
麻耶の英雄の在り方は事象化型であり、己の通り名である『疾風迅雷』は、文字通り疾風の如く戦場を駆け抜け、雷の如くその強大な力を振り下ろすところから名付けられた。故に、事象化して得られる雷の能力は本物と同等であり、繰り出す攻撃は人を簡単に死なせてしまうだけの力を持っている。
だが――
「流石に能力制限掛かってるし! 精々静電気のバージョンアップみたいな威力だし! ってか、人殺さないし! ここじゃあ!」
自分の力はあまりにも殺傷能力が高く、いくら力をセーブしていてもこういった行事では必ず能力を制限される。それは彼とて同じであり、分かっているはずだ。
麻耶が反論の言葉をぶつけるが、『疾風怒濤』は……
「ここ以外なら殺すんかい」
「揚げ足取るな!」
酷い言い掛かりを付けられながらも、攻撃の手は止めない。雷速……言い換えれば麻耶の光速の攻撃を、『疾風迅雷』は楽しげに避けている。
麻耶の武器である貫通力を持った鉄矢は、雷を纏っているため避けるのが難しい速度にまで達している筈なのだが、彼は風に揺られる木の葉の様にスルリと躱している。
「……っ! だから、もう!」
湧き上がる感情に見切りをつけるように、前髪を掻き揚げる。
深呼吸を一つ。意識をそれまでのものとは完全な別物へと置き換え、己のすべてを雷へと変異させる。
「――砕き響け、鳴神!」
瞬間、麻耶の全身が紫電に包まれる。――自身を《雷》の事象へと変化させたのだ。
「ああ……。――おいで、『迅雷』」
見上げる先、空に浮いている『疾風怒濤』の姿。穏やかな笑みを浮かべて手招きするその姿は、幼子のように往なされているとしか取れない。
彼のその態度に苛立ちを覚えながらも、麻耶は先輩であり自身の師匠とも呼べる存在――『疾風怒濤』を追いかけはじめた。
●●
激しい暴風と雷が上空を飛び交い、自らが台風の目に居るかのような感覚に晒される。
「うっへぇ……いくら力の制御が出来ないからって言っても、これはその域超えてるだろ」
「全くだ」
遠野の言葉に、頷きで肯定を返すのは同じく西側を任された木更津だ。ジャラリと小銭が擦れ合う音が遠野の耳に届き、その多さからこれから行われる戦いが激戦になるであろうという推測がつく。
「今日の設定金額、どれくらい?」
その台詞はまるで某グルメ番組のような言い方だと自分でも思うが、それ以外に適切な言葉が見当たらないと割り切る。遠野の言葉を受けた木更津は指先で遊ばせていた百円玉を空へ弾くと、重力で落下してきたそれを良い音を立てて手の平に収める。
「今回は露払いだからな、上限三万だ」
「あ? 久々に多くないか?」
「馬鹿を言え。歳上たちのメンツを立てるためにこれでも譲歩した方だ。これが『魔王』や『妖精戦姫』だったら五万は出すが、ランキングにすら載らないザコどもに二万もの出費をしてやるんだぞ? 寛大と取ってほしいくらいだ」
「お、おぉ……」
腕を組み尊大な態度を取る木更津を、遠野は大物だといい意味で尊敬したくなった。
「大体、今年が可笑しいんだ。普通、ランキングに一年が入ること自体稀少なのに、今年はなんだ。一年が何人もランクインしてるじゃないか。しかも『征服王』に至っては一桁だぞ? 流石に呆れを通り越して哀しみすら抱いたわ。なんだって、今年の上級生たちはこうも一年坊主相手に後れを取っているのにも関わらず、その現状を甘んじているんだか……」
「おい、そろそろその辺に……」
しておけと、言うつもりだった。だが次の瞬間、この世界では久しく感じなかった純粋な殺意を感じ、遠野は腰から数枚のカードを、木更津は百円玉を数十枚その手に取った。
「――随分と、言ってくれるな」
真上から投げかけられる威圧を含んだ声。答える様に遠野が上を向くと、そこには名前も知らない上級生と思わしき四人の人物が立っていた。
「随分って、本当の事でしょうが。三年間という長い様で、短い時間。だけど、英雄・勇者には十分な時間だ。そんな中で、アンタたちは何の成果もあげられていないじゃないか」
「なに……?」
「『三英雄』、『妖精戦姫』、『赤色』、『千技一刀』……飛び切り優秀な彼らの引き立て役として、陰日向に涙してきたと思いますけど、そもそも、アンタたち自体が何にも事を起こしていないんだ。だから、ぽっと出の一年風情に埋もれても、未だ何も出来ずにいるんだ」
――止めろとは、言えなかった。
木更津の言うランキングは、種子田高校に存在する英雄としての格付けのことだ。正式名を‘英雄ランキング’と言い、性格や英雄としての実力などを総合的に判断し、半年に一度公開され、格付けを受ける。
――だが遠野自身、今年のランキングは何処か可笑しいと思わざるを得なかった。
通常、ランキングの上位は二・三年生で埋め尽くされており、辛うじて英雄として覚醒が早かった者が末席にその名を連ねているのが普通だった。例えそんなことが無かったとしても、年上というプライドや成長という名の経験。それら全てを合わせると、やはり上級生たちがランキングを占めるのが当たり前だった。
だが、今年は何故か、上位に一年の名が載るような有様となった。
少子化だからと言われればそれまでだ。年功序列を重んじている訳でも無い。だがこうも三年生たちが向上心無く現状に甘んじている所を見ると、酷い虚無感が胸を支配しているのもまた事実だ。
木更津の台詞は、そんな一年生たち誰もが抱えていると思われる虚無感の代弁だ。彼らに対する失望といっても過言では無い。
だが、彼らとて遠野たちよりたった二年早くに生まれた子供だと、自分たちの思いを抱えられるだけの懐の広さを持ち合わせてはいないと、頭は正論を述べてくる。
そして現に――彼らは木更津たちの思いを受け止めきれていない。
「……クラスメイトがランキング上位に名を連ねているからそんな風に言えるんだ」
「自分はランクインしてないのに、良くそんな大口が叩けるな……」
「虎の威を借りる狐……とはまさにこの事」
「ホント、最近はマセガキが多くてヤんなるわ」
自尊心を損なわれたのだから、頭に血が上るのも無理はない。というより、遠野自身も名も知らぬ誰かからそんな事を言われたら、絶対にキレる自身がある。
これはもう止まらないなと、若干黄昏を見る様に遠くを見つめていた遠野だが、不意に聞こえた金属が弾かれる音に目を見開かざるを得なかった。
「説得力無い僻みは聞き飽きました」
木更津のその言葉に、遠野は呆れのような重い溜息を一つ吐き出す。ホルダーからさらに数枚のカードを引き抜くと、装着しているガントレットにスロットする。
「元より此処で、言葉は力を持たない。自分から挑発しておいて何なんですけど、これ以上意味の無い討論に付き合ってる暇、俺たちには無いんですよねぇ……だから、」
一際大きく跳ね上げられた小銭が宙を舞い、それに釣られる様に全員の視線が上を向く。そして、
「――始めましょ? センパイ」
開戦の火蓋が切って落とされた。
●●
「開幕一発、三千円!」
木更津の指先から弾かれた三千円分の灰色の弾丸たちは、直線を描いて敵へと向かう。その速度と威力は、攻撃自体がショットガンでは無いかと疑う物で、接触した木々があり得ない音を立てながらへし折られていく。
「お前! 銭がなんつー威力持ってんだよ! お金は武器じゃありません! 戦場では!」
「この力……お前、『盤上の奇術師』と同じ力を持っているのか!?」
銃撃戦の嵐の中に聞こえる切羽詰まった声に、最もなツッコミ。一人は至極当然な感性を有している且つ弄られ系の素質ありな人物だと判断し、もう一人に対しては、自分の力を知っているのかと、少しだけ驚いた。
木更津の武器は、一般的に使用されている硬貨だ。日本銀行から発行されるそれは等価交換としての価値しか持っておらず、武器として使用されることは無い。だが、思い出してほしい。――銭形刑事の銭投げを。
カッコいい名前で言うなら指弾、もしくは羅漢銭。平たく言って銭形刑事の銭投げ。拳を握るように指を丸め、親指で弾く技だ。その威力は脳震盪を引き起こすまでにはいかないが、大の大人が悶絶するほどの力はある。
だがそれは、あくまで空想の中で出来るのであって、現実では空気抵抗や落下速度など、あらゆる物理法則を知らなければ、実現は不可能に等しい。
故に、彼らはそれを自在に使いこなせている木更津に向かって叫んでいるのだ。
「『奇術師』……。ああ、最近じゃあ『策士』に勝負挑んで負けたらしいあの人か。ってか、あの人も俺と同じ羅漢銭の使い手なんだ。びっくりした」
「お前、知らなかったのかよ!?」
「興味無いんで」
そう言うと、木の上に立っていた上級生二人がギャグ漫画よろしく傾いた。
「反応薄っす! もっと周りに興味持って!」
「というか、先輩ってツッコミ体質だったんですね」
「お前がそうさせてるだけだからね!?」
言葉を交わしながらも攻撃は続いており、木更津の相手である上級生二人は何とかして近づこうと弾丸の嵐を潜り抜けようとするが、上から振り降りる不規則な雷撃に阻まれて思うように進めない。
「くそっ! 『迅雷』と『怒涛』は厄介な事しかしねぇな!」
「うちの『迅雷』はスイッチ入ったみたいですし、こっからさらに面倒臭くなりますよ?」
木更津はにやりと笑い、袖から更なる弾丸を追加する。
「それじゃ行くぜ? 一円玉――三千発!」
非常に楽しいカーニバルになりそうだ、と木更津は思った。
●●
吹き荒れる電撃と暴風。散乱する軽量の灰色。辛うじて聞こえる今一番この場に似つかわしくない軽口の応酬。大木の折れる地鳴り。これらすべての音を聞きながら、遠野連はこの状況をサイアクだと称した。
「台風の中で戦闘とか、ホント勘弁してくれ……!」
遠野連の本来の役割は十村と同じ策士系統で、彼の苦手としている大軍を率いて勝利を収めるための策を練ることが本業だ。
それが何故前線に出てきているかというと、単純に戦闘メンバーが足り無いからという至極単純な理由だ。それならば十村でも良いのではという疑問が付き纏うが、彼は1-Aの中で最弱と自負している灯よりも対人戦がダメだった。寧ろ、策略以外ではお荷物と自ら公言している。――そうなれば、自然と前線に出られる人間は決まってくる。
「スキャン。――剣」
左腕に装着されたガントレットが刹那に瞬く。次の瞬間、左手に美しいレリーフが彫られた細身の剣が姿を現した。柄を握り、掌にしっかりとした感触を得たことを脳が確認すると、遠野は体を反転させる。
「はぁ!」
自らに迫って来ていた弾丸を後退しながらも、剣で切り伏せる。七十ほどの弾丸を切り伏せたところで余裕が持てるようになると、後退した分だけ再び前進し、剣をロードさせた場所へと戻って来た。
「……! 緊急スキャン、双刃刀をコール!」
瞬間、遠野の手にしていた剣が光に包まれる。半歩足を後ろに引き、左腕を胸の前へと突き出す。光の収束によって現われたのは武骨な持ち手。そこから左右均等に伸びる両刃の刀身。イメージは、クラスメイトの烏丸が使用する双刃刀だ。
顔を上げる。
向かい来るは、こちらを試すような間隔を開けた弾丸の雨では無く、逃げ場全て殺した嵐と間違う全力掃射。
双刃刀をチアリーディングのバトンの様に回し振るう事で弾丸を弾き斬り、自分を殺さんと言わんばかりの弾丸の嵐を耐えきる。
「スキャン。――弾丸、七千」
最後の弾丸を切り伏せた瞬間、手のひらから双刃刀が消え失せる。――役目を終えて、再びカードの姿へ戻ったのだ。遠野は、その隙間を可能な限り殺すように、新たな武装をスキャニングする。
姿を現したのは、7.62ミリライフル弾。それは綺麗に列を保ちながら、コンパクトサイズに遠野の目の前に展開した。数は注文通りの七千発。
「エクストラスキャン。――魔力&追尾!」
弾丸たちに間髪入れずに追加注文を付ける。右手で引き抜いたカードをガントレットのスロットに挿入。指令を受けたガントレットが光を放って、弾丸に効果を属させる。追加アシストを受けた総勢七千の弾丸は、フルリとその身を震わせ浮いている。
「……――ぅてー!」
刹那の空白。遠野が号令を吐き出したと同時に、空に待機していた弾丸が待ちわびたと言わんばかりの動きで加速。雷鳴の嵐と木々の間を駆け抜けていく。
「うひぃ!?」
相も変わらず雷鳴と暴風は降り注いでくるし、浪費家なのか、守銭奴なのか、イマイチよく分からない性悪クラスメイトの雄叫びに近い笑い声も届いてくる。命名して――混沌。ああ、早くこの場から逃れたい――。と、遠野が遠い目をしながらも戦闘を継続している最中だった。
「……ん?」
前方五百メートル半。遠野がいる地点からそう遠く離れていない場所に、それはあった。
「西側のオーブ発見! 俺の眼前、五百メートル半!」
たい焼きクンを手にし、言葉を叩き付けるように述べる。魔術による盗聴を危惧したが故の策だが、通信機器としての威厳が損なわれてしまっているのは、どうにも頂けない。
「スキャン。――弾丸……っ!?」
予想外の所からの砲撃に、遠野は身を捩る事で攻撃を避けるが、その代償として体勢を大きく崩して転倒する。
「……っ!? くそっ!」
右半身が地面に付く衝撃と共に、左足首に鈍い痛みが走る。――捻ってしまったらしい。回復したいがその前にやる事があるし、何よりそれを許してくれる余裕がない。
左足首に負担を掛けないように、しかして出来るだけ素早く起き上がる。両膝を付き、左腕を胸の水平にまで持ってくる。
「スキャン。――弾丸、三千。エクストラスキャン。――炎&破壊。日下部、誘導を頼む!」
『――了解』
既にこちらの要請を視ていたはずの灯に声を掛ける。召喚した弾に注文がインストールしたことを確認すると、遠野は彼女の都合を気にせずに弾丸を射出した。不規則且つ軌道が読みにくい弾丸が敵のいる方へ向かったことを確認すると、遠野は痛む足を堪えながらその場から移動する。
位置は教えたが、あのまま居れば敵もオーブの存在に気が付いてしまうという判断だ。
「電子呪文詠唱より引用。癒しの章――治癒」
足首に応急処置を掛け、今の自分が出せる全力を以て、遠野はその場を駆け出した。
眼前は真っ直ぐに、されど意識は後方へ。振り返りはしないが、視線は忙しなく背後を向きたがる。
(追ってきてるのは一人……ってことは、遠距離、か……?)
自分に対して明確な敵意は二つ。そのうち、より自分に近いのは一つだけ。引き付けに失敗したかと思ったが、敵意がちゃんと自分に向けられているのを感じて、それはないと判断出来る。
(……よし、)
足を止める。大きく深呼吸をし、これからやって来るであろう激戦に腹を括る。自分の系統はなんだっけ? と、己が本来の役割が遥か遠くに見える。それでも――
「やるべきことは、やりますよっと!」
『疾風怒濤』 男 3-C 武器:糸 属性:中立 位置:全域
自らを《風》へと適応化させることの出来る事象化型の英雄。文字通り《風》になる事が出来るため、その状態になると物理攻撃や拘束が意味をなさないチート的存在。風を読む事で少し先の未来を読み取ることが出来る。
事象化型の英雄では最強の分類に当たり、高坂麻耶を始めとした事象化型英雄たちの師匠でもある。




