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12  永久凍土の高嶺  side布津御雪音


上級魔法 【灼熱剣製(フラメンティス・レーヴァティン)

使用者を中心に灼熱焦土が出現し、対象者を焔の剣で串刺しにする。対象者に必ず当たるまで追い続ける追尾性を有している事から「絶対必中」の二つ名がついている。


中級魔法 【炎帝(えんてい)息吹(いぶき)

鉄を一瞬にして融かすほどの熱量を持った灼熱を掌に溜め、弾丸として飛ばす。通常は球体型だが、火炎放射器のように拡散して使用する事も可能。凡庸性は高いが、威力の割に魔力消費量と発動時間が合わないため、使用する人間は少ない。


中級魔法 【氷華乱舞】

氷で出来た殺傷能力を有した花弁を一面に吹雪かせる魔法。範囲が広く物陰に隠れる以外の防御は不可能に近いが、長く発動させられない欠点を持つ。植物などの生き物としての熱を持たないものは攻撃しないという特性を持つ。



  ――咲き誇るその姿は、酷く美しい。


 時を遡ること数十分前。中央を品木が突破する少し前の事。東側に進んだ雪音と双葉は、ある意味で想定通りの出来事にぶつかっていた。



     ●●



「西側で『紅戦姫』とー、センセーがぶつかったってさー」

「ってことは、こっちに『氷結』が陣取ってるのか……。ホント、良樹と蓮の予想と『孔明』のお墨付きは当たるなぁ」


 森の中を駆け抜けながら、双葉は通信端末「たい焼きクン」から聞こえる報告を先行している雪音へと告げた。報告を受けた雪音は、当たって欲しくなかった現実が身に迫っているのを感じ、気が遠くなるような感覚に襲われる。


「ヤダなぁ……」

「そー思うんなら、ワタシに『氷結』、譲ってくれてもいいんだよー?」

「譲ったら最後、絶対殺し合うでしょー?」


 いつも通りに過ごそうとしている双葉だが、仲間を、そして何より、双子の兄である本多霧葉を『氷結の魔女』にやられているため、彼女に渡したが最後、絶対に‘戦い’を超えて‘殺し合い’になる事は目に見えていた。

 雪音が冗談半分、本気半分でそう言うと、双葉は確かにと間延びした返答を返して来た。


(これ、本来逆じゃね?)


 と、今置かれている立場を嘆いていると、目の前に文字が流れ始めた。


《前方にきらりと光る何かが目に入った。目を凝らすと、それは氷で出来た短刀だった。》


 次の瞬間。雪音の視界に、確かに煌めく何かが入り込んできた。


「【氷結の刃】か……」


 下級魔法【氷結の刃】。【力の射手】の様な射撃型の魔法だが、あれと違い最初から水属性を有している。故に、唯の射撃型の魔法を当てるだけでは対消滅させることが出来ない。


「【フレイム・ブレード】!」


《王を手助けする様に炎を纏った剣が姿を現す。》


 雪音は、身を取り巻く文字のアシストを受けて【氷結の刃】を対消滅させる魔法【フレイム・ブレード】を発動させる。下級魔法であるため、口上を唱えることも「電子呪文詠唱」から引用する必要も無い。


《剣は鳥の様に意思を持ち、向かい来る脅威を撃ち落とす。》


「……Go!」


 アシストを受けた魔法は、雪音の誘導操作が無くても自在に木々を避け、次々に氷の短刀を撃ち落としていった。


「もうすぐだよ!」

「了解!」


 攻撃してきたという事は、近くに『氷結の魔女』が居るということ。雪音は下方に居る双葉にそう声を張り上げる。二十メートル先に木々の姿が見えない。あそこが森の境目だと理解すると、更に速度を上げる。そして、


「電子呪文詠唱から引用。炎の印字、第十七章――炎帝の息吹!」


 相手の姿がまだ見えていないうちに「電子呪文詠唱」を起動させ、魔法【炎帝の息吹】を発動させる。突き出した左の掌に魔力と文言が出現し‘魔法’を形成すると、雪音が操作する前に自動で炎が辺り一面に広がる。

 それに遅れることコンマ数秒後。


「踊れ、我が眷属よ!」


 という凛とした声と共に、煌めきが雪音たちの目の前に迫って来た。だが、煌めきが雪音たち当たる事無く拡散されていた炎とぶつかり、水蒸気となって消えていく。その水蒸気の中を駆け抜け、空中で一回転して態勢を整える。

 視界に広がる広大な池。その中心地、水面の上に立っている一人の少女。


「――Halo?」

「……」


 笑顔を浮かべて話し掛けてみるが、相手は険しい目で雪音を見るだけだ。二人の間を沈黙が流れていると、双葉が漸く追いついてきた。


「……こんにちわー『氷結の魔女』」


 瞬間、双葉から殺気が流れ出す。己の半身である霧葉を一方的に行動不能にさせられたのだ。彼女が殺気立つのは無理もないと、雪音は思う。

 かくして、此処に一つの戦場が誕生した。



 三人の間に流れる言葉は無い。既に、この場で交わされる言葉はその効力を失っている。故に、吐き出される全ての言葉は意味の無い戯言だ。


「戦う前に、一つ答えて貰えますー?」

「……何かしら?」


 双葉の言葉に比較的温和に応じるなと、警戒を抱いていると、彼女の口から出てきたのは雪音が想像もしていなかった発言だった。


「アンタがあーしてまで大勢の人間を潰したのはー……勝ちたいからなんだよね? ――『魔王』に」

「……!」

「は!?」


 意外だった。双葉の口からは、『魔女』に対する怨み言や罵声が飛び出るのではないかと怖々としていたのだ。一触即発は免れず、戦火の中双葉を送り出さなければならない。

 送り出す事は簡単だが、無傷となると難しい。彼女はこれから自分よりも厳しい戦いを行ってもらわなくてはならないのだ。無傷で送り出せと言うのが、参謀チームからのお達しだ。

 ――その願いは成る丈叶えたい。

 本来ならばここで口出しをして一刻も早く双葉を先に行かせなければならないのだが、どうしてか、雪音はこの会話に口を挟むことが出来なかった。


「……何故、そう思うのか聞いていいかしら?」

「最初はただ単に邪魔者を消そうとした……って考えてたんだけどー、それだと辻褄っていうか、アンタと合わないんだよねー」

「? 合わない、とは……」

「アンタのこと調べた。んで、ここ二年間、アンタはこういった行事じゃ自分の役割以上の事は一切手を出さなかったじゃん? それで可笑しい……って思った。――こんな発言しといて、なんで今回は手を出したんだろうって」

「こんな発言……っつ! まさか……!」


 ニヤリ。と、双葉は今日一番の凶悪顔を晒した。


「『人間同士がどれだけ争おうと、私は興味ありません』って」


 双葉の話は続く。


「多々羅二緒、通り名『氷結の魔女』。異世界弊害を患っている訳では無いが、その本質は妖精寄り。そのためどこか浮世離れした印象を受ける。本質が妖精気質なため時折、自身が人であることを忘れたかのような態度が目立つ。また、第一期体育祭などの行事に関しても要請された事以外は決して手を貸さず、静観している姿が目立つ

 だが、自身の仲間ともいえる妖精たちや、特殊能力《精霊使役》持ちに対しては比較的温和で接する。例えそれが――ライバルと称されている人物であっても」


 ビクリ、と常人では分からない小ささで肩を跳ねさせる『魔女』。双葉は追い詰めるように言葉を重ねる。


「カノジョはアンタと違って‘勝ちたい’って英雄思考を持ってる。だけど、当時は『三英雄』の三竦みだったし、尚且つ表だって味方することは、周りの認識が許してくれなかった。そして『魔王』が入学し、勝利への道は更に狭まった。

 ……絶望的って思ったんでしょー? 『魔王』のクラスは何処にもつけいる隙が無いし、バランスとれてた『三英雄』たちは一つになった。どう足掻いても絶望……って訳じゃないけど、カノジョを勝たせてあげるには厳しすぎる条件になった」


 双葉の言っていることを纏めると、『魔女』には勝たせてあげたい人が居るらしい。誰だと、雪音が思考していると、『魔女』は驚きの表情から一変、余裕ある笑みを浮かべた。


「なるほど。そこな王から聞いたのですね《花園》のことを」

「後は、うちのゆーしゅーな参謀たちが教えてくれたよー」

「え! アタシ聞いてないんだけど!」

「言える訳ないじゃん。アンタ、すーぐボロ出すんだからさー」

「なにそれー!」


 こちらが漫才をしていると、『魔女』は幼い少女の様な小さな笑い声を漏らした。


「……ふふ、大変仲がよろしくて結構ですわ。――ですが、」


 瞬間、『魔女』の足元から【氷結の刃】が射出される。更に追加として水属性が付属された【力の射手】も後を追うように空に上がる。そして、

 派手な爆音が上空から響く。反射的に空を見上げる雪音と双葉。一瞬、爆竹辺りが投げ込まれたのかと思ったが、よくよく見ると煙と炎の中に壊れた鉄の様な破片が見えた。


「まさか……!」


 ある一つの可能性が雪音の頭を過る。

 雪音たちが居るこの場所は、命のやり取りを行う戦場では無く、「3Dマッピング」で改造された競技場だ。此処で‘戦闘’が生じたとしても、‘戦い’に勝つのではなく、競技で‘勝利する’というのが重要だ。

 十村達参謀チームは‘戦闘で勝利する’というファクターを捨て、雪音たちが戦闘を行っている間に斥候役がこの競技で勝利するためのアイテムオーブを掠め取るという‘勝利’を選んだ。故に、双葉が意味の無い言葉を吐き続けたのも、全ては斥候役たちへの隙を作るため取っても過言では無い。

 ふるりと、腰に付けている端末「たい焼きクン」から通信が聞こえた。


『ゴメン、レップウとシデンが撃墜された。東側のオーブ奪取に失敗した』


 通信相手は、今日の午後から復帰してきたクラスメイト――赤城礼人だ。自動操縦型の式神を操り、烏丸や麻耶と並んで偵察役を務める後方支援担当だ。彼の使う式神はミニチュアの飛行機の形をしているが、エンジンで動いている訳では無いので静かに行動できる。

 『魔女』の警戒心は半端なく高いため、遠距離による奪取が一番安全と判断された。そのため、雪音たちの最初の任務は赤城がオーブを奪取するまでの時間稼ぎ。彼女の意識が双葉に向いた今が好機と言う瞬間だった。

 視線を『魔女』へと戻す。『魔女』は雪音と視線がかち合うと、その口元に妖艶と称せる笑みを浮かべて言った。


「時間稼ぎなんて小細工が、私に通ずると思っていまして?」

「……ッチ」


 思わず舌打ち。そう簡単に引っかかってくれるとは思っていなかったが、双葉の言葉に結構動揺していたため、イケると錯覚させられていた。


「良樹。東側のオーブは一時諦めて、双葉だけを先に行かせる」

『了解』

「よし! ――双葉」

「……解ってるってーの」


 物凄く不満そうだが、納得してくれなくては困る。奪取が今まで以上に難しくなった今、一番の目的である双葉を送り出さなければ、雪音たちが目指す学年優勝する目標が潰えるということ。そしてそれは、行動不能になった仲間たちに対する最大の裏切りに他ならない。


「カウント三で行くからね」

「りょーかい」


 深呼吸し、気持ちを切り替える。手汗で滑り落ちそうな得物を握り直し、雪音の行動を先読みしていた灯の文章が、身体を取り巻いてアシストする。


「三、二、一……――ゼロ!」


 カウントと共に一気に駆け出し、特殊能力(スキル)《精霊使役》を使用して水の上に立てるようにしてもらう。本音を言うと精霊たちにも協力してもらいたいが、雪音の保有する《精霊使役》は『魔女』のそれよりも弱く、力を貸してくれる精霊がほとんどいないのだ。

 世知辛いと悪態を吐きたくなるが、そんな余裕を見せれば一気に負ける。

 雪音が『魔女』に向かうのを尻目に、双葉は最奥へと続く森へと駆け出しながら、持参しているビニール袋から菓子袋を取り出し、封を切る。


「行くよ、とんずらマシュマロ!」


 開封されたマシュマロが空へと飛び出し、双葉の言葉を受けた瞬間、人間五人が乗れそうな大きさへと変化した。ゆるい音を立てて地面に一回バウンドしたのを確認した双葉は、助走を付けてそれに飛び乗る。

その反動でマシュマロが最奥へと前進し、雪音たちから遠ざかっていく。


「は……はぁ!? な、なんなのよ、あれ!?」


 『魔女』の取り繕った驚きでは無く本心からの叫びに、雪音もだよねーと心から同意した。だが、その光景に現を抜かしている暇はない。現に『魔女』は思考を切り替えて、双葉を迎撃しよう己の眷属を飛ばした。


「マーブル、わり氷、ベビスタ、金平糖。取り敢えずチャフ系第一弾、持ってけー!

 双葉の手からばら蒔かれた菓子類は、まるで意志を持っているかの様に彼女を守るように拡散し、『魔女』の放った魔法とぶつかり、空に赤い花を咲かせる。

 菓子と武器。本来なら在り得ない組み合わせなのに、ぶつかった衝撃は武器同士の戦闘で聞こえる爆音そのものだ。あまりに非常識な状況に、『魔女』は貧血を起こしかけたかの様に身体をふらつかせた。が、それは直ぐに元の状態へと戻り、毅然とした態度で雪音と向き合った。

 雪音が振り上げた剣は『魔女』の杖に受け止められ、有りっ丈の力を持って押し戻される。水飛沫を上げながら水面を転がり、幾度か転がって体勢を立て直す。

 距離七メートル。何時でも始められる距離に互いを置く。ふと双葉が駆けて行った方向を見ると、彼女を追いかけるように誰かが走っていく姿を捉えた。

 一匹取り逃したと思う雪音だが、正直に言えば『魔女』を相手にしながらもう一人を請け負えるだけの自身は無かったため、あっちに行ってくれて助かったと思ってしまう。

 場に雪音と『魔女』の二人だけになると、ただでさえ険悪に包まれていた空気が凍り付き、本格的な戦場へと推移する。


「……驚きましたわ。貴女が此処に残るとは」

「アイツを残したら最後、殺し合いに発展すること間違いなしだったからね。アンタらが(ペナ)喰らってくれるなら有り難いけど、それだとウチらにも(ペナ)が来る。――それは、望んでないんだよねぇ」


 そう言いながら、気づかれない様に左腕を背中で隠しながらスマホを操作する。見えなくても灯のアシストが雪音の指先を動かし、望むがまま事を運んでくれている。


(全く、灯も人が悪いなぁ)


 力を持ってまだ三か月と少し。異世界(あちら)でどれ程の時間を過ごしたのかは知らないが、雪音たちが思い付かなかった方法を取る灯に、ほんの少しの畏怖と意地の悪さを覚える。


「……そう。少し、残念だわ」

「よく言うよ」


 立ち上がりニヤリと笑うと、向こうも笑いを返してきた。


「ですが、一度、貴女とはヤリ合ってみたいと思っていましたわ」

「それはアタシもかなぁ……――遅延(ディレイ)


 呟きと共に文言が左腕に巻き付き、灼熱が固定される。術が完全に構築された瞬間、腰のホルダーにあるスマホが僅かな振動を立てて起動し、腕に固定した術を分解した。分解された術は光の粒子となり空中に散開したが、やがて雪音に吸い込まれる様にして消えた。

 身体の奥底から湧き上がる熱。熱情のままに動き出しそうな心中。しかしながら頭の中は嫌に冷静で、静かな夜の水面の様だと客観的に思った。

 その現象を見た『魔女』は、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。


「……! 【属性変換】……!」

「せっいかーい! ――さて、」


 実力は五分以下。勝てる見込みは少々低いが、それでもと気合を入れ直す。幾度目か分からない文字が雪音を包み、そこに綴られた文章を見て少しだけ笑みが零れた。

 『魔女』の周囲に氷の刃が出現し、雪音の腕から炎が渦巻く。


《魔女も王も、それを見越してだろう。双方、静かに自分の得物を握り直す。》


《そして――。》


「死合いましょうか!」


《火蓋は切って落とされた。》






NEXT.


『氷結の魔女』/多々良 二緒 女 3-C 武器:杖 属性:悪 位置:後方

『妖精戦姫』シャルロット・アガーティアのライバルと言われてる少女。シャルロットが使役する陽の属性を持つ精霊たちとは真逆の、陰の属性を司る精霊たちを使役出来る。呼ばれた世界では妖精たちを率いて戦った。

それ故に、身も心も妖精に近しくなってしまったという『異世界弊害』の持ち主でもある。

特殊能力

精霊使役Ex  詠唱破棄Ex  重力半減  魔力可視

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