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11  紅戦姫&参謀筆頭  side:龍田華怜&十村良樹

下位魔術 属性変換

魔法・魔術を己の手の内に固定し、発動させる魔法・魔術が持ち得る属性を自分へと還元させるための魔術。付加魔法と同系統だが、付加魔法と違い属性変換で上書きしたり、自身で発動を止めない限り永劫にその属性が付加されている。

「電子呪文詠唱」に登録されている中で、音声認識が要らない珍しいタイプ。



小型端末 たい焼きクン

双葉の力によって携帯電話の役割を担ったミニたい焼き。持っているだけで耳に当てる事無く、通信する事が出来る優れもの。

使用後は美味しく頂くのが常識。全部で二十五種類。


 ――生徒を使えない駒と思いたくない。それは、龍田華怜が思っている事の一つだ。


「……ッチ。あの馬鹿どもが……」


 普段は教員として心掛けている舌打ちの禁止をこの時ばかりは解禁し、日ごろの鬱憤を纏めてぶつける様にして音を鳴らす。非常に行儀も素行も悪いとは思っているが、華怜は目先の事に囚われ過ぎている自身が与する生徒たちに向かっての苛立ちを隠せなかった。


「華怜ちゃん人相悪すぎー。そんなんじゃあ、お婿さん来てくれないよ?」

「黙れクソ道化師(ピエロ)。お前なんぞに婚期の心配をしてもらう程、私は落ちぶれていない」


 相も変わらず、この男は自分の神経を逆なでしてくると、華怜は目の前に対峙している軽薄男――山城祐司に対して、殺意と間違えるほどの嫌悪と苛立ちが募っていた。

 捉えられない風の様に飄々と。様々な形にその姿を変える水の様に。何時だって自分の一歩先を軽々と言っているこの男を、正々堂々叩きのめす事が出来る数少ない機会。

 自分の気分が高揚し、今直ぐにでもこの男を焼き払ってしまいたい。華怜は口角が上がるのを抑えることは出来なかった。


「ぅっわ! 華怜ちゃん、顔が極悪―!」

「黙れ」


 華怜の顔を見た山城が、その凶悪さ故に顔を顰める。普段ならば張り手の一つでもくれてやる所だが、今はそんな物よりももっと強い一撃を与えてやりたかった。

 懐から煙草を一本取り出しライターで火を付ける。煙を空へと燻らせて、心身ともに最高の状態へと気分を持ってくると、片足を一歩前へと踏み出す。

 ヒールと地面の接触で生まれた火花が火種となって、華怜を守り囲う様に炎の円が彼女の周囲を覆う。草原にコーティングされているため火花は生まれないのではと思われているだろうが、そこは華怜の技術でそう見せているだけだ。問題無い。

 浮かべるは笑み。それも狩りを楽しむ狩人の。


「さぁ、参れ『反逆者』。今度こそ、我が炎で消し去ってくれる! 塵芥、骨すら残らせはしない!」

 口上句と共に生成した五十に及ぶ炎の弾丸を、目の前の相手へと注ぐ。その際に加速の文言を付属させるのも忘れないが、流石にこの程度でくたばるような男では無いだろうという確証はある。


「……ってー! 華怜ちゃん、相変わらずキョーレツだよー!」


 ――ほら、やっぱり。なら……。


「さぁ、死合うとしおうか!」



     ●●



 物取り合戦にはそれぞれ東西南北のポジションがあり、それ以外にも司令部と呼ばれる全体の指揮を統括する場所がある。

 全体の位置が把握できるようにと競技場内では無く、相対する様に設置された実況席で指揮を執る。その位置に座るのは、大抵が知略・策略などに長けた軍師タイプの英雄たちだ。

 それ以外のタイプとなると、普通の物取りで奪い合うマットやボールの代わりとなる‘オーブ’と呼ばれる球体を運ぶ斥候や、軍師たちを補佐する係りの者だけだ。

 だが。たまにその三つに分類されない者がこの場所に腰を据えることだってある。



   ●●



「中央、無事に品木が突破したらしい。後、三峰が二人ノックアウトさせたらしい」

「となると、後は氷結を掻い潜って、本多さんが最奥に辿り着くだけですねぇ」

「僥倖と言いますか、順調と言いますか、何というかなぁ……」


 十村は何とも腑に落ちないというような声色で、司令部に設置されているパイプ椅子に背を預けた。決して気を抜いていい状況下では無いのだが、双葉が最奥部に到達しない限り、自分たちの出番は来ないからだ。


「それにしても、凄いですねぇ……」


 と、感心気味に溜息を漏らしたのは、山城と同じく「教師参戦!」で十村達1-Aに配属された教師『孔明』こと、高町公明だ。

 詳しくは知らないが、呼ばれた世界が三国志時代だったらしく、そこで諸葛亮孔明並の謀略活動を見せ、曹操に幾度も勝利を捧げたらしい。そして付いた通り名が、自分の名前と最高の軍師と誉れ高かった諸葛亮孔明に肖ったというのは、有名な話だ。

 彼が自分たちの側についてくれたという運命に、十村は多大なる感謝を捧げていた。

 戦力として当てにしていた一葉たちがリタイアし、本来此処に座るはずだった遠野が戦闘員として出場してしまった事で、戦略の幅が大きく減少した。元々彼が参戦するということは先のLHRの際に聞いてはいたが、それでも十村としてはあまり頼らずに事を進めるつもりだったのだ。


「凄いって、何がです?」


 黄昏た意識を元へと戻し、高町の言葉に相槌を打つ。

 此処に戻って来る斥候役の烏丸は現在出ているし、灯は喋れる状態じゃない。故に、彼に相槌を打てるのは自分だけだ。

 高町は少しだけパイプ椅子に背を預けると、十村の隣に座っている灯に目を向けた。そして苦笑とも取れる笑いを一つ零す。


「彼女……日下部さん、でしたっけ? 彼女の発想は思いもよらないですよ。だって……雷系を「属性変換」し、尚且つそれを攻撃では無く思考加速の為に使うだなんて、僕ですら今まで思いつきませんでしたから」


 幾重にも多重表示されたモニターを瞬き一つせずに凝視し、動かす手先は残像しか残らない。全身が紫電の淡い光に包まれ、双葉が残したたい焼き型の通信端末機「たい焼きクン」から発せられる仲間たちの要請を先読みして答えている。

 これこそが雷系の魔術を「属性変換」した事で得られた効果――思考の加速化だ。


「「属性変換」で思考を加速させたことでほんの少しだけ先の未来の光を読み取り、やって来るであろう仲間たちからの要請に即座に対応」


 灯の側にある「たい焼きクン」からは引っ切り無しに通信が届き、灯の目はモニターに、腕はペンを持ってテーブルの上にあるルーズリーフに向かい、耳は端末に、と忙しなく動きっぱなしだ。


「しかもただの支援では無く、状況を自分たちに有利な方へと持ってくる「上書き型」だったとは……。今年の入学生に、上書き型は存在しないと聞いていたんですがねぇ……」

「すみませーん」

「悪いだなんて思っていないくせにぃ……」


 ウリウリとわき腹を小突かれる。だが、実際高町が言う通り、十村は悪いとは微塵の欠片も思ってはいなかった。

 種子田高校に在籍している英雄・勇者たちには、それぞれの方向性やら傾向……というか、‘英雄としての’形が存在している。

 武器を使用したり、知略に長けたりと、自分という器の枠を抜け出さない範囲で強くなり続けた者たちの総称を指す身体型。雪音の様な肉体戦闘員も、十村の様な策士系統も、この形に分類される。

 次に、自分自身の肉体を風や水・炎といった自然な物へと変化させ、尚且つそれを攻撃やら移動などに使用する事が出来る者たちを指す事象化型。分かりやすく言い換えると、雷になれるという事だ。

 この形は珍しいという訳では無く、人数は少ないが毎年一人は種子田高校に入学してくる。しかしながら扱いが難しく、例え手練れでも体調不良などが原因で力を暴走させることがある非常に厄介な形だ。

 三つ目は回帰型と言い、これは呼ばれた世界を救うために自分が手に入れた‘英雄としての力’そのものを還元した者たちを指す。上記の事象化型同様に、人数は少ないが毎年一人は種子田高校に籍を置いている。

 力を失ったのだから普通の高校に行かせてもよいのではと思うが、この形に当て嵌まる殆どは「異世界弊害」と呼ばれるPTSDを発症している事が多い。また完全に力を使えなくなった訳では無い事から、種子田高校で経過観察という形で入学する事が多い。

 最後に、高町が言った上書き型。形としては、世界そのものを自分の有利な状況に書き換えるという、まさに神の行いに等しい力を持つ者たちを指す。その範囲は非常に限定的であるが、その効力はどんな形も敵わない。また、その数も極端に少なく、年に一人入って来たら収穫ものだと言われているくらいだ。

 そして形は千差万別で、上書き型と認定するのが難しい。一歩間違えれば事象化型と取られてしまうことだってある。――灯も、その一人だった。

 余りにも‘英雄としての力’が無かったため、回帰型と判定されてしまった不憫な少女。だがその力は、十村達が想像していたものよりも異質で、強大だった。


「魔力を織り込んだインクで文字を綴り、現実をその通りの状況へと持ってくる……。意識阻害に似た系統ですが、阻害と違って‘可笑しい’という違和感が生まれる事が決して無い。阻害を破る唯一つの方法……‘可笑しい’という感覚。それが決して生まれないから、普段なら異常だと認識出来る状況下に陥っても、それを‘可笑しい’と取れない……。いやはや、なんともまぁ、怖いですねぇ……」


 両腕を温めるように擦りながらそう呟く高町に、十村は花が高い様な、それでいて失策を練ってしまった時に抱く腑に落ちない感覚を覚えた。

 灯が持ち得る‘英雄としての力’。それはこの種子田高校において余りにも異質で、彼女を中学時代から知っている雪音や本多双子でさえ、その力に一瞬の恐怖と畏怖を抱いたくらいだ。故に雪音が執った方針は、どうしてもという時だけしか、灯に力を使わせないという結論だった。


(それをまさか、一年で使う羽目になるとは……)


 ふと、灯の方を見る。

 戦闘種族では無い十村の目には、相変わらずの残像と異常なまでの冷静さを保った灯が「たい焼きクン」から届くそれぞれの要求に応えている。それを見て思うのは、全面的な頼もしさと、いずれ自分が要らなくなってしまうのではないかという少しの危機感。

 現実は《機械仕掛けの舞台装置》の様に簡単にはいかない。だからこそ、自らが望む結果へと世界を導くために策を練り、何かを犠牲にするのが策士の仕事だ。だが、世界が思った通りに進むのであれば、それこそ策士の存在意義は完全になくなってしまう。

 そこから生じるのは自分の居場所が奪われてしまうのではという恐怖だ。人はいくら「自分は自分、他人は他人」と割り切っていても、無意識の部分で他人を求める。それは、誰にも制御することは出来ない。


(でもまぁ……)


 そんな風に考えている事自体が無駄なのだと、十村は抱いた危機感を頭の中からすっぽりと放り出す。何故なら、灯相手にそんな事を考えている事自体が、バカバカしいのだ。

 力としては策を練る事しか出来ない自分に対し、灯はそれを凄いと馬鹿正直に、真正面から褒め称えてくるのだ。最初の頃はそれが世辞なのではと思いっきり嫌悪感を抱いて接していたが、彼女の頭の中が本当に驚きと賞賛で満たされているという事実を知った時、十村は自分が抱いていた嫉妬が酷く馬鹿らしいとしか思えなくなっていたのだ。

 回想を終了し、十村はルーズリーフに手書きされた作戦内容を高町に見せに掛かる。


「『孔明』せんせー。この策なんですけど、どう思います?」

「どれどれ……」



     ●●



 ――この時を、幾星霜と待ちわびていた。


上級魔法(ハイエスト・マジック)。第六章――灼熱剣製(フラメンティス・レーヴァテイン)


 文言が魔力へと干渉し、華怜の周りに赤土の灼熱焦土を生み出した。靴底から痛いとまで感じる熱は、自身が身を置いていた地獄に等しい戦場を思い出させた。それを懐かしいと感慨に浸りそうになるが、此処があそこでは無いと思いそれを押し留める。

 周囲にかなりの密度を有した炎の剣が出現し、まるで狐火の様に次から次へと湧き出るようにその姿を現す。感覚で四百程剣を生成した所で、意識を少し別の物へと切り替える。


(《文言連結》――発動)


 《文言連結》。文字通り文言を連結させる特殊能力。これは華怜が自ら編み出した誰にでも習得可能で、本来は先天的な才能が無ければ発現しない特殊能力。それを誰にでもこの力を持たせるようにするには、流石の華怜を以てしても骨が折れた。

 通常、一つの魔法や魔術を発動させると「硬直」と呼ばれる隙が生まれる。それは僅か数秒と言うごく短いものではあるが、戦場ではその僅かな時間が己の生死を左右する。

 その数秒を何とかしたいと、こちらの世界に戻ってきても思い続けていたが、剣を振るなど身体が動かないのが「硬直」であるため、力任せのキャンセルは諦めるしかなかった。

 「電子呪文詠唱」を使わない魔法の発動は、基本的に口頭で文言を述べなければならない。だが、それ以外にも方法があるというのは意外と知られていない。

 口上を述べなくてもいい方法。それは、意識による脳内文言の生成だ。頭の中で文言を生成し、発動させたい魔法の名前と種類を述べるだけでそれが発動出来るという仕組みだ。

 この方法を使用すると、文言を生成する事に意識を持っていかれるため、戦場ではあまりしない・させないという方針が執られている。だが、華怜はこの方法が一番理に適っていると思っている。

 長ったらしい口上は好きじゃないし、何より口に出すだけで次の行動が丸見えだ。その点、この方法ならば唱えた瞬間が最後、相手は避ける暇もない。何とかしてこれを生かせないかと論を書き連ね続け、思い付いたのが――《文言連結》だった。


連結(コネクト)――パンツァー」


 正式名称【序曲・パンツァー】は、現時点では華怜しか使用しない上級魔術だ。使用者が過去に受けた‘苦痛’を攻撃として再現し、同じだけの痛みを相手に与えるという極めて使い所が少ない魔術だ。

 感性は人それぞれ。受け取る苦痛も人それぞれ。余程の痛みでなければ、相手も共感する‘苦痛’に成り得ない。また、これを使用する際には当時のことを明確に追想しなければならないため、その時のことを思い出したくないから皆使用しないという背景がある。


「ちょ、絶対必中に華怜ちゃんの十八番とか、何そのいじめ! イクナイ!」


 羽虫が何か言っているようだが、そんな戯言を聞き入れるつもりはない。さぁ――


「潰れろ、反逆者!!」


 絶対必中から逃れることは出来ず、何より攻撃に掠っただけで身動きが取れないほどの痛みを有した複合魔術。長年の宿敵である『反逆者(コイツ)』でもタダでは済まない。

 「絶対必中」という二つ名が付けられるほど厄介な誘導性を持った炎の剣が山城へと迫り、あと少しで彼の身体を貫くという時だった。


『タイムアウト! 教職員の方は司令部へと強制転送されます。なお、現在発動中の魔法・魔術はその効力を無効化されます。ご注意ください』


 不快なアナウンスが華怜の視界を埋め尽くした。

 瞬間、華怜がコントロールしていた複合魔術がその姿を消し、文言に至るまで生成する事が出来なくなってしまった。「教師参戦!」のタイムリミットが来てしまった以上、教師はこれ以上争いに参加出来ない様に根こそぎ力を奪われるのだ。


「貴様、これを見越して……!」

「だって華怜ちゃん、怖いんだもーん!」


 約十分という短い時間の間、この男は華怜に対して一切攻撃を仕掛けてこなかった。唯一自分に攻撃が当たる時だけ魔術を使用し、それ以外は徹底的に逃げの姿勢を貫いていた。


「私を熱くさせて、タイムアウトから意識を逸らしたとでも言うのか!」

「そんなことしてないよー」


 身を強制転送の文言と光に包まれる。視界が完全に白くなったら、競技が終わるまでコイツと話せない。酷く間延びする話し方に苛立ちを隠せないが、華怜の考えていたことが外れた以上、この男から正解を聞くしかない。

 山城は頭の後ろで手を組むと、世間話でもするかのように軽い声色で話し出した。


「だって華怜ちゃんに阻害系の魔術使ったらすぐに気が付くでしょー? うちの子達もそれくらいは知ってたから、どっちかって言うと華怜ちゃんを倒さないようにって、念を押されたくらいだしぃー?」

「倒さない……だと?」


 何をふざけたことを、と罵ってやりたかったが、視界が目を開けていられないほど眩しい白の色に染め上げられていく。


「……っく! 『反逆者』! 首を洗って待っていろ! 次はこうはいかない!」


 どこぞの三流悪党のセリフを口にしてしまうが、こうでもしないとあの男は直ぐにまた華怜の事をからかいに来る。


「うん! 待ってるからねー!」


 ――やっぱりふざけてる。


 純白に染め上げられる視界の中、華怜はそう悪態をついた。





NEXT

『孔明』/高町 孔明  男  武器:なし  属性:中立  位置:後方支援

歴史と古文を担当する教師。異世界の三国志時代に召喚され、諸葛亮孔明と並ぶ天才軍師として曹操に勝利を献上してきたらしい。中世的な顔立ちと肉付き故に女性と勘違いされる事が多く、大変な目に遭っている。



『痛覚切断』  男  3-B  武器:蛇腹剣  属性:中立  位置:全方位

痛覚を自分の意志で遮断する事が出来る少年。蛇腹武器の先駆者。痛覚切断により致命傷以外の攻撃を避けないため、その姿から「狂戦士」とも呼ばれている。

日常的に痛覚を切断する癖があり、物理的痛みどころか精神的痛みにも鈍い。故に他人の心情を理解する事が苦手で、「人の心が解らない」と言われることも。

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