7.入団
モンブラン王国の騎士団は、人員の不足に悩まされていた。魔物が人を襲うなどといった事件は毎日のように発生し、それらの鎮圧に向かう騎士団の生還率が八割を切るような有様だったからである。次々と騎士たちは殉職していき、墓地の不足さえも頭痛の種になるほどだった。
そんな折にやってきた、一人の竜人は騎士団をどよめきに包んだ。
ベイクと名乗ったその竜人は、鉾槍と剣を持っていた。
その構えは実に見事で、決して素人ではないと感じさせる。だが、それ以上に驚いたのが子供だったことだ。
竜人は大柄であるはずだが、ベイクは人間の大人にも背丈が負けている。子供に違いなかった。
年齢を聞いてみると11歳になったところだという。
「閉鎖的種族であるはずの竜人が騎士団に入りたいだなんて、何かの間違いじゃないのか」
そうした声が聞かれるのも当然だった。そしてこれはベイク自身にも何度となく投げかけられる質問だ。
だが、これに対してベイクは首を振って答えるだけだ。
「いいえ、俺は弱者が虐げられる今の状況に対して、わずかでも力になるためにここにやってきました」
彼はこの言葉をかたくなに貫き通し、騎士団たちはますます混乱する。
だが騎士団の人員が不足しているのも事実だった。もはや血筋や家柄にこだわっている場合でもなく、とにかく戦力となるものは積極的に採用していかなければなんともならないのだ。
しかも、ベイクはカスター卿の名を出し、彼と知り合いであると主張しているのだ。
カスター卿には問い合わせをしてみることにして、ベイクの実力を試してみよう。
そんなことを言い出したのは騎士団長だ。
実際に手合わせをしてみれば、彼が邪心を抱いているかどうかくらい、わかるだろうと。
そして剣術指南役の騎士が、ベイクと剣を合わせてみることになった。
ベイクとしては「やはり剣か」という思いが浮かぶ。だがそれは仕方のないことだろうと思い直した。
騎士は剣を尊ぶものだ。剣術こそがまず第一なのだ。
槍ほど得意ではないが、仕方がない。ベイクは剣を握って男と相対した。
結果は、互角。
竜人の膂力はやはり人間と比較できないほど抜きん出たものだ。相手の騎士はそれを技量で補い、ベイクの剣をいなした。
しかしそれでもベイクの力は相手の腕をしびれさせ、ほぼ五分五分の状況にまでもっていく。
しばらく二人は剣を交えたものの、騎士団長は途中で二人を止めた。実力は十分にわかったからである。
人間たちは驚嘆していた。子供でも竜人とはあれほどのものなのか、と。
だが騎士団長は言い返した。
「いや、あれは竜人どうのこうのではないな。あれはヤツ個人で磨いた剣の技。出自におぼれるヤツはあれほどの力を持ち得ない」
若い騎士たちはそれですっかり面白くなくなってしまった。
彼らは代々騎士の位をもらってきた一族の出自であったからだ。その血筋を誇りとしており、竜人とはいえ突然やってきた者が褒められるのは嬉しくなかったのである。
それから一週間ほどでベイクは騎士団の一員として認められた。カスター卿が彼の身分を保証したことも大きい。
また、騎士団の中にはエクレアという名の女性の騎士もあった。彼女はカスター卿の血を引いた孫娘であり、ベイクのことも伝え聞いていた。このこともベイクがたったの一週間で騎士団に入ったことに寄与している。
エクレアは普通の人間で、ベイクよりも三つほど年上だった。
騎士団にいるのはカスター卿の孫であり、かつそれなりの剣術をもっていたために騎士団長からの直接の誘いがあったからである。当初は彼女も他の若い騎士たちと同じようにベイクのことが気に入らなかったようだ。
カスター卿から聞いていた彼のことを騎士団長に話しはしたが、やはり突如あらわれて評判をかっさらった竜人を嫉視しないのは無理だった。
長い黒髪をそのまま背中に流した、あまり背は高くないエクレア。彼女は鋭い目つきでベイクを睨む。
竜人の騎士は、初の任務を帯びて郊外まで魔物たちを討伐に出向くのだ。それをいらだたしい気持ちで見送る。
予想通り、ベイクは次々と功績をあげていった。
魔物たちの討伐にいかせれば一人で二、三体は退治する。人間同士のトラブル解決にはどのようなものであれ、三日も時間をかけない。治水工事に出向けば一人で何人分もの働きをして帰ってくるということが当たり前であった。
竜人であれば当然であろうと考える若い騎士も多かったが、エクレアは少しずつ彼のことを見直していく。
なぜなら、彼は決して自分の働きを自慢げに吹聴したり他人と比較して貶めたりすることがなく、そうした自分に驕ることもなかったからである。
優秀な人間は騎士団にもいるが、彼のようにわきまえている者は稀だった。
ベイクは常に謙虚であったが、弱い人を守るために行動するという、彼の目的が揺らぐことは全くなかった。戦略上どうしても魔物たちの襲撃から助けに行けないような集落があったときも、最後の一人になっても助けに行くと主張したほどだ。
彼は、一貫している。
エクレアは竜人の子供であるベイクを気に入るようになっていった。また、騎士団長も彼を認める。
さらにはモンブランの国王までもが竜人のベイクに一目置くようになった。
モンブラン王国の騎士団は、全く問題がないわけではなかったが、それでも他国に比べればかなり平穏かつ穏当に運営されているといってよかった。
魔王があらわれてからというもの、多くの領土を彼に侵攻されたせいでもあるだろう。近年はその侵攻速度は緩やかになっているものの、彼らに対する恐怖は国民の間に植えつけられており、もはや人間同士で争っている場合ではないという意識が統一されていたのである。




