#004: Overhelm-B
夜も更け、人々の通りが消えた道をアルスは歩いていた。背中には重量感をたっぷり放つ長剣が紐で縛られている。
「この辺、か……」
ふと立ち止まり、一つの路地を見つめる。その路地は三階建ての建物間にあるなんの変哲もないただの路地だった。
街灯もない真っ暗な闇が、その路地の向こうまで続いている。
「確かに怪しいわね、それに」
――うむ、奴らの気配も感じる。
アルスのつぶやきに、誰かが答えた。アルスに周りにはヒト一人、ネズミすらいない。
「全く、こっちの都合ってのも考えて欲しいわ。結局今日もコルトと揉めちゃったし」
――昨今の会話から察するに、それは『ツケ』が原因と思えるが?
「ぅ、うぅ〜…………ニンゲンの世の中だって色々と大変ダヨネ?アタシニハワカラナイヨ」
――否。人間社会に馴染みやすいように、お前を憑依としたのだ。今更言い訳などできるものか。
「…………ハイハイ。あたしが悪ぅござんしたよ」
肩をすくめ、諦めたように首を振るアルス。
その様子に背の長剣は、うむ、と頷いた。(実際は声だけだが)
「今回も、雑魚ばっかみたいだね」
目を細め、闇の奥を凝らしていた彼女が言った。
――爵位を持つ者が来ればそれこそ、気配で分かる。ここまで接近せねば気づかぬ程度……下位中の下位。どれも徒党を組まねば戦えぬ輩ばかりだ。
「ハッ」
長剣の言葉を、少女は鼻で笑った。
「その程度の連中で、あたしがくたばると思う?」
――……否。
「んじゃ、行きますか」
再びアルスは歩き出した。延々と続く闇に向かって