第一章 第九話
沼の入口には、帝国軍の騎士が立っていて、言った。
「何だお前達は?ここは立ち入り禁止だ!」
竜崎は、長刀を抜いて見せた。
「何だ貴様!」
といきり立つ騎士に、竜崎は落ち着いて言う。
「…見ての通り、侍だ。大蛙を倒しに来た」
「ふん…女子供は邪魔なだけだ、置いて行け」
「…この子も立派な侍だ。この女性は自分達が護る、問題ない」
それを聞き、知念は頬を染めている。
「ふん…」
と帝国軍の騎士は、道を開けた。
竜崎は進みながら言う。
「…騎士達は『気弾』が使えるだろう。援護してくれないのか?」
騎士は答える。
「私の役目は、侍どもの妖退治を確認するだけだ」
竜崎は、黙って進んで行った。
知念と稔も、後を追う。
「気弾って?」
知念が竜崎に聞く。
「…帝国軍の騎士達は、特殊能力を持ってる。『気』を飛ばして、遠くから攻撃できるんだ」
「へぇ、詳しいじゃん」
「…まぁ、侍も技次第でいくらでも遠距離攻撃できるけどな」
「お師匠さまも、風の刃を飛ばせるもんね!」
竜崎は話をそらしたように見えた。
沼を進んで行くと、帝国軍が自ら大蛙を処理しない理由がよくわかった。
「何ここ…超臭いんだけど!」
「おえええ!」
知念が叫び、稔が吐き気を催す。
「…」
竜崎は、黙って耐えていた。
そこに現れたのは…
「ゲロゲロ」
「!」
『妖蛙』だ。
蛙が邪念を持ち、巨大化し戦闘力を得たものである。
竜崎は言った。
「…こいつは『獣妖』。今回は、稔は下がっててくれ」
「はい、お師匠さま!」
「獣妖?」
知念が聞く。
「…動物が妖になったものさ、人妖よりも強い」
竜崎は言い終えると、駆け出し一撃を与える。
「ゲゲゲ」
吹っ飛ばされた妖蛙は、体勢を立て直す。
知念はそれを見て呟いた。
「本当だ…強い」
『爪剥がし』
竜崎の放つ風の刃が、妖蛙を一刀両断し消滅させた。
「…蛙も好きだから、ちょっと辛いな」
竜崎は言った。
「でも、話ができない妖は倒すしかないよ。やらなきゃやられるんだから」
知念が優しく言った。
「…そうだな」
この具合で、三人は奥へと進んで行った。
「ゲロゲロゲロゲロ」
高く跳び上がって来る妖蛙には、
『角割り』
竜崎も高く飛び上がって串刺しにした。
「ゲロゲロ」
「ゲロゲロ」
妖蛙は三人を取り囲むように増えていく。
知念と稔はそれぞれ言う。
「守ってよね、純!」
「お師匠さまー!」
竜崎は、落ち着きゆっくりうなずいた。
竜崎は長刀を左側に構え、しゃがんだ。
知念と稔はそれをよく見て、声を発する。
「おっ、新技くる!?」
「お師匠さまー!」
そして竜崎は
「…二人とも、身を低くして」
と言い、二人がしゃがんだのを確認すると、勢いをつけて立ち上がりながら一回転した。
『首落とし』
竜崎から放たれた風の刃は円を描き、周囲の妖蛙達を一気に消滅させた。
「すごい、さすが純!」
「お師匠さまー!」
と褒める知念と稔に、竜崎は顔を紅くしながら、
「…行こう」
と言った。
三人は、沼の奥へと辿り着いた。