第四章 第十話
平次が忍をやめてから十数年…
護國精鋭の結成から、数年後の事。
遂に、その時が来てしまった。
「し、白船襲来だー!」
帝国軍の襲来である。
圧倒的戦力を持つ帝国軍の前に、護國精鋭は完全敗北を喫する。
「…死ぬな!今まで御苦労だった、行け!」
平次は麒麟隊の生き残りを逃がし、一人帝国軍に立ち向かう。
「もう一度だけ…」
平次は呟き、刀を抜く。
その目はかつての忍、大蛇の平蔵そのものであった。
「修羅となる!」
『大蛇の構え』
平次は抜刀状態で、帝国の大軍に向かって突き進んで行く。
「ぐわあっ!」
「ぎゃああっ!」
普段鞘の中で力を蓄えられていた平次の刀は衝撃波をまとい、多くの騎士達を瞬く間に斬りつけてゆく。
「フフフ…かなりできるな、鳳雛の弟子は」
ブラディア帝国初代皇帝・ガイデルはその様子を眺めて言った。
「フフフ…だが、いつまでもつかな?」
この時既に制圧制圧されていた華京内部や東方の白船からは、次々と帝国軍の騎士達が押し寄せて来る。
「はあっ…はあっ…」
帝国の大群を相手にたった独りで戦う平次であったが、遂に限界が訪れる。
「くそっ…」
平次はひざをつき、そしてうつ伏せで倒れた。
「フフフ…敵ながら見事よ。殺すには惜しい、連れて行け」
「はっ」
ガイデルは騎士に命じ、平次を連行した。
「フフフ…帝国に連れ帰り、『妖術』を用いて洗脳する」
そして数日後、ガイデルは次期皇帝となる
アデルの前に、洗脳された平次を連れて行った。
「フフフ…先の戦で捕らえた、最も有能な侍よ。側近に使うとよい」
アデルは平次に白いローブを手渡し、言った。
「侍…BLADERよ。私は側近など使わんが、父が認めるならば、皇帝の右腕となってみせよ!」
「…ハッ」
こうして白ローブの者・ブレイダーは生まれた。
その後元国にて、四方軍長はそれぞれの道を歩んだ。
真はしばらく鎌田と共に『八咫烏』の戦闘員として動いていたが、やがて正気を取り戻し言った。
「鎌田…やはりこのやり方は違う。敵も味方も沢山の人を巻き込んで、護ってきた國を壊してゆくだけだ…」
鎌田は真を睨み言った。
「…あ?その甘い考えで、国は奪われたんだろうが」
遂に彼らにも、決別の時が来た。
その時には既に鎌田は首魁として絶大な信頼を得ており、かつて皆をまとめていた真の言葉ですら、虚しくも隊員達には届かなかった。
「僕は僕のやり方で国を取り戻す。そして鎌田、いつか君を止めに来る」
「…好きにしな」
こうして真は鎌田に別れを告げ、『八咫烏』を抜けた。
その後彼は、数年ぶりに故郷の美雪へと向かった。
そこもやはり、既に帝国軍に制圧されていた。
「兄上、父上…」
そして、家族の死を知った。
民の為、帝国軍に抵抗した剣術家の善とその父は処刑されたという。
「私にはもう、富も名誉も家族もありません…ただこうして、旅の方にお話をする事しか、私にはもうないのです」
と真に語るのは、まさにその母親であった。
全てを失い疲れ果てた彼女は、もう何年も前に別れた息子の顔をわかっていなかった。
「(もはや僕はあなたの家族ではないのですか、母上…)」)
真は黙って、結城家の凋落の話を聞き続けた。
「ありがとうございました」
それから母に正体を明かす事なく、旅立った。
その後は反抗勢力の傭兵として各地の戦に参加したり、賞金稼ぎとして帝国軍や妖と戦い続けた。
そして現在、更に強さに磨きをかけた彼は、鎌田を止めに現れたのであった。
騎士となった鬼村は、帝国軍の中で実力をつけ、その地位を築いていった。
護國精鋭時代は白虎隊となった子分達と共に頻繁に帰省していた彼であったが…当時は國の裏切り者であると自覚し、それから現在まで、故郷に帰る事はなかった。
父にも母にも奈美にも会わず、かつての子分達は戦死し、彼はずっと、たった独りで生きてきた。
「おれが従順に働く限り、逃げた奴らを指名手配にはしねーでくれェ。頼む」
鬼村は皇帝に直々に頭を垂れ、その誇り高き姿を見た皇帝は、それを承諾した。
こうして鎌田達は反抗勢力として後に指名手配を受けたが、他の護國精鋭の隊員は逃亡を許された。
そして現在…鬼村の苦は遂に報われ、再び竜崎や新たな仲間と旅をするのだった。
鎌田は『八咫烏』を結成する前、南海田の恩師、恩地木霊を訪ねた。
鎌田は護國精鋭時代、毎年必ずここに来ていた。
「俺はこれから帝国軍と戦う」
「そうか」
鎌田の言葉に恩地は返す。
そして二人はただ静かに、紅茶を飲んだ。
鎌田の方には、山盛りの砂糖が入っている。
「もう会う事はねぇだろう」
「そうか」
またも鎌田の言葉に、恩地は返した。
もう何年もの付き合いとなった彼らに、あまり言葉は必要なかった。
ただ鎌田は、これから反抗勢力となる。
恩師に迷惑をかける訳にはいかず、会うのをやめようとしているのだ。
恩地にはそれがわかる。
そして鎌田を止める事もしない。
鎌田は一気に紅茶を飲み干して、去って行く。
「世話になったな」
鎌田はまるで数日後にはまた会えるかのように、あっさりとした態度で歩いて行く。
その後ろ姿に向けて、恩地は華京へ向かう鎌田を見送った時のように、叫んだ。
「頑張れー!頑張れー!」
鎌田はあの時のように振り向かなかったが、あの時と違って、二人の目には涙が溢れた。
その後鎌田は、咲山や凛や他の隊員を、例の隠れ家へと招いた。
「これは父親の形見だ」
妖刀を皆に見せながら、鎌田は言う。
「おっさんに逢って、妖刀を置いた。俺はこれから戦に身を置く…が、もう暴れるだけの悪魔にはならねぇ」
咲山はふっと笑って、言った。
「何処までも付いて行きますよ、鎌田様」
凛も瞳を輝かせて、話しかけてくる。
「お父様に会わせて下さるなんて、わたし達を家族みたいに思ってくれてるんですかっ!?」
鎌田は急いで言った。
「うるせぇ!ここは俺の最初の隠れ家だ、お前らが俺と組むなら、お前らにも使わせてやるだけだ!」
そして足早に奥へと歩いていった。
「ほう…妖刀、か…!」
そしてそこには、あの男もいた。
後の最重要危険人物、時定である。




