表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侍-BLADER-  作者: oyj
41/83

第四章 第八話

侍・平次の四人の弟子達は、より一層その仲を深めてゆく。

宗佑は、当時から四人の中で最も強かった真に話しかける。

「よぉ。俺はいつかてめぇを越えて、ぶった斬ってやるぜ」

真は苦笑いしながら返した。

「鎌田はたまに乱暴な言い方をするね。越える、だけじゃだめなのかい?」

そしておはぎを宗佑に手渡しながら、更に言った。

「ぶった斬られたら、こういうものも作れなくなるよ」

宗佑は受け取りながら、言った。

「…腕だけは残してやるよ」

真は料理が得意で、皆によく振る舞っていた。

特に宗佑には、甘味をよく作ってやっていた。

宗佑は、当時から非常に不器用な人間であった。


「ちゅん、ちゅん」

とすずめに餌をやる純のもとに、猛虎が来た。

するとすずめ達は猛虎を恐れ、一斉に飛び立って行った。

「…」

純は残念そうな目で、猛虎を見る。

「悪ィ悪ィ!」

猛虎は純に歩み寄り、その足元に寝転がった。

「がおお。おれは虎だぜェ!なでろよ」

「…そんな趣味はないさ」

純は猛虎の隣に、ゆっくりと腰を下ろした。


剣士として上達してゆく四人は、己の戦い方を確立し始める。

「平次様!僕はただひたすらに、この一刀を極めていきたいと思います」

「ああ。しっかり力を抜けてる今なら、それができるだろうぜ」

平次は真に、新しい竹刀を贈った。


「親父ィ!おれは格好(カッコ)はどーでもいーから、動きやすい刀で戦いてーぜ」

「そうか。てめえは相手を刃物で傷付けるのも、嫌う性分だろうしな」

平次は猛虎に、軽い竹刀を贈った。


「おっさん!もっともっと斬りてぇんだよ、早く真剣をよこしな」

「駄目だ。だがそんなに斬りまくりてえなら、増やす事は許してやらあ」

平次は宗佑に、二つ竹刀を贈った。


「…師匠」

「強くなったな。あいつらみてえに攻めていくのが苦手なら、少し離れて戦ってみろ」

平次は純に、長い竹刀を贈った。


そして更に数ヶ月…

「明けましておめでとうございます」

鳳雛、平次、四人の弟子達は一緒に新年を迎えた。

「ほれ、お年玉じゃ」

鳳雛はここでも、しっかりと点数を稼いだ。


正月、真は美雪に向かった。

新年も雪の降る町では変わらず、結城一家が尊敬の目で見られていた。

「やはり善さんは違う!野蛮な侍になるなどと言って、家出までした出来の悪い弟とは大違いですな!」

また何か町人の困り事を解決したのであろう真の兄・善は、己を褒めちぎる町人に言った。

「いえいえ、私など…それに弟は弟ですから」

町人は更に善を褒める。

「いやあ謙虚で素晴らしい!まったくあの愚弟は今頃どこにいるのやら」

善と町人の会話を聞いていた真は、町に入れなかった。

真は涙を流しながら、華京に帰った。


都に着くと、真は爽やかな笑顔を作った。

「あら真ちゃん、明けましておめでとう」

「真!あとでうちに来なよ」

「よう坊主、餅でも食うかあ?」

人々が、次々に真に話しかけてくる。

もう数ヶ月もここに住んでいるのだ、それに彼の爽やかな性格によりすぐに知り合いは増えた。

「皆さん、明けましておめでとうございます」

僕にはここに、家族がいる。

真はそう思って、これからも爽やかな笑顔で過ごすのだった。


正月、猛虎は夜鳴村に向かった。

そして猛虎は真っ先に、幼なじみの南奈美(ミナミナミ)の家に来た。

「奈美がこんなに良い彼氏を連れて来るとはなあ」

「彼氏じゃないってば!職場の先輩!」

家の中から、奈美の父と奈美本人の声が聞こえた。

「奈美は寺子屋を出て働くつってたなァ…おれはまだ修業中…それに俺は、剣を取った」

猛虎は立ち去り、自分の家に向かった。

彼は自由人だが、大事な者の為ならば、すぐに身を引く。

たがその目には、涙が光っていた。


「おかえり猛虎!」

家では、父と母が迎えてくれた。

そして…

「明けましておめでとうございやす、兄貴!」

子分達も、そこにいた。

「聞いてくださいよ兄貴!姐さんったら最近、職場の先輩にでれでれしやがって…」

猛虎はがははと笑った。

「いーじゃねーか!邪魔すんじゃねーぞ?でも奴が危ない時は、きちっと護ってやってくれよなァ!」

こいつらを、早く俺のもとに。

鬼村はそう思って、これからも鬼大将の威厳を保つのだった。


正月、宗佑は隠れ家に向かった。

「父さんが言ってたな…妖刀『怒愚魔』…人を怒らせ、愚かにする魔の刀」

宗佑は独りつぶやき、隠れ家で着流しに包まれた妖刀のもと、餅を食べる。

「ばあちゃん、母さん、父さん、じいちゃん…俺には、誰もいねぇ…」

宗佑は涙をこぼしてつぶやいた。

「いつか友達ができたら、この隠れ家に連れて来るんだ…あいつら、来てくれるかな…」

そして近くの町、南海田に向かった。


「先生、明けましておめでとうございます!」

「ああ、おめでとう」

南海田の寺子屋では、恩師が学童に囲まれている。

その様子を見た宗佑は立ち去ろうとするが、恩師は彼の存在に気付いた。

「鎌田じゃないか!お前もこっちに来い、今からみんなで雑煮を食べるんだ」

宗佑には笑顔があふれ出し、八重歯を覗かせて言った。

「餅がある。しるこも作れ」

恩師はにっこり笑って、学童達に言った。

「みんな、怖がらなくて良い。目つきは悪いが、ただの甘い物好きだ」

独りだろうが、大事なもんはある。

鎌田はそう思って、これからも努力を重ねてゆくのだった。


正月、純は江波に向かった。

向かった先は実家であった。

「あら、おかえり純」

出迎えた母親は、妊娠していた。

「できちゃってさあ。これから大変なのよー」

母親は玄関からどかず、純を家に入れる気がなさそうだった。

また隙間から見える家の内部では、男がせっせと子育ての準備をしていた。

「…」

純は鳳雛にもらったお年玉を、母親に手渡した。

「気が利くわあ!これからもよろしくねー」

「…」

純は一礼して、立ち去った。

もう涙は出なかった。


「なあ、竜崎くんだよな?」

歩いていると、いじめっ子達に話しかけられた。

今の純の実力ならば、この二人など一瞬で倒せるであろう。

だが純は復讐など考えず、一礼した。

それを見たいじめっ子達は、更に深く頭を下げた。

「あの時は、本当にごめん!」

「俺達あれから就職して、仕事先でいっぱいいじめられて…竜崎くんの辛さ、わかったんだ」

いじめっ子達もまた、数ヶ月で成長していた。

純は優しい目で、小さな声で言った。

「…もう、いいんだ。おかげで強くなれた」

成長する、もっと強くなる。

竜崎はそう思って、これからも穏やかであり続けるのだった。


四人は剣士としても、人間としても成長してゆく。

そして数年の歳月が流れた…

平次の夢が遂に形となる時が、もうじき訪れようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ