第一章 第三話
「おっはよー!」
模範的な挨拶とも言える、明るくて大きな声で起こされた竜崎の部屋に、朝早くから知念は立っていた。
「…今何時?」
「五時だよ!」
「…」
竜崎は、寝つきが悪い。
寝たのは二時だった。
「暇だったからさー。ほい、瓦版!」
竜崎は、知念に渡された瓦版と呼ばれる帝国軍の出す情報紙を読んで、言った。
「…派手にやってるな」
つぶやく竜崎に、知念は言った。
「友達みたいな言い方するじゃん」
「…」
そこには、帝国軍の基地襲撃の報せが載っていた。
『最重要危険人物、鎌田宗佑』
更に指名手配犯の似顔絵と、賞金が描かれていた。
鎌田は左前髪だけ色が違い、目つきがかなり悪い。
「賞金がまた上がったって…いちじゅう…に、二千万金!?」
知念は驚いている。
帝国軍は、犯罪者や妖に賞金をかけている。
しかしそのほとんどは数十万から数百万金で、二千万金は破格である。
「何なに?反抗勢力『八咫烏』、帝国軍第六支部を襲撃…長である鎌田宗佑自らが率い、支部を壊滅させた…すごっ」
やたら体を寄せて、瓦版を見る知念。
「…」
竜崎は、心配そうな目で瓦版を見つめていた。
「人間同士で争うなど、愚かな事です」
朝食時、知念の祖母はそう言った。
「ただでさえこの国には、妖が出るというのに…人間が問題を増やして、まったく悲しい事です」
「ばあちゃん…早くこの国が、平和になったらいいね」
知念は祖母にそう言って、優しい目をした。
「竜崎さん、あなたはどうかその力、正しい事に使ってください」
竜崎にそう頼む祖母に、彼はうなずく。
「…はい」
「あったり前じゃん!純はあたしの恩人だよ!?」
知念のおかげで、竜崎と祖母の関係も暖かいものとなっていった。
着物で過ごしていた竜崎が、青い布を羽織り、首巻きを巻き、長刀を持ち、出発の準備をしていると…
「た、大変だー!」
村に、男の大声が響いた。
男は続けて叫ぶ。
「妖だ!森から妖が!」
竜崎は急いで鞘から長刀を抜きながら、外に出た。
知念も同じだった。
「うわあー!」
「助けてくれー」
村の人々は、散り散りに逃げていた。
それを追う妖は人妖、『屍』。
知能はないが、屍首よりも、手足がある分厄介だ。
「ウオオオ」
「ひいっ」
人々が多すぎて、横に大きく広がる『牙折り』は使えない。
「…避けてくれ」
竜崎はそう言い、長刀を下から後ろに構えた。
知念が、屍に襲われている男に向けて叫ぶ。
「そんなんじゃ聞こえないって!与作さーん!避けてー!」
「ん!?おお、知念!」
与作は落ち着きを取り戻し、二人の方を見た。
『爪剥がし』
竜崎が長刀を下から前方に振り上げると、風の刃が地に立ち上り、突き進む。
与作はうまくそれをかわし、刃は屍に当たり消滅させた。
「あたしがあんたの声になるよ!みんなー!」
同じように、知念が村人を避けさせ、竜崎が『爪剥がし』で屍を倒していった。
どれだけ時間が経っただろうか。
「…森が怪しい」
村人をなんとか全員救い、竜崎はそうつぶやいた。
「最近まで、ずっとこの辺は平和だったのに…」
と知念は、死者こそなかったが、傷付き疲れ果てた村人達を見て、悲しげにしていた。
森へと歩き出した竜崎に、知念が声をかける。
「待って!あたしも行く」
「…危ない。また死にかける」
竜崎は止めるが、知念は
「今度はあたしがあんたを救う!」
と言い、その前向きな発言に竜崎は感化され、同行を頼んだ。
「…わかった。今みたいに、また助けてくれ」
知念は笑って言った。
「まかせて!」
そして二人は森へと向かって行く。