第二章 第十話
「先に行くぞ」
鎌田は、物凄い速さで南に向けて走って行く。
「おい、鎌田ァ!独りで突っ込むと、危ねーぞ!」
鬼村は後ろから叫ぶが、鎌田はもう見えない所まで行っている。
「おい、お前らも先に行って、鎌田を援護してやってくれェ!」
鬼村は、朱雀隊と白虎隊を前へやる。
朱雀隊は鎌田の強さに魅せられた者、白虎隊は鬼村の子分である。
彼らにも、逃げ出す者は一人もいなかった。
鬼村は、走るのが得意ではない。
「おれ達は兄貴に付いてくぜ!」
白虎隊は、鬼村の周りに着陣した。
「なら鎌田達は、静かに疾く…俺達は、激しく堅く!風林火山ってやつだァ」
鬼村はよくわかっていないが、いつか寺子屋で聞いた事のある言葉を用いてみた。
要するに、鎌田達が前方で攻め、鬼村隊が後方で守る陣形を作ったのだ。
「邪魔だ、邪魔だ!」
しばらく進むと現れた騎士達の中に、鎌田は炎をまとい、突撃する。
『炎隼斬』
「ぐあっ」
そして炎は騎士達に燃え広がってゆく。
騎士が後ろに回り込み斬りかかって来るが、
『燕尾斬』
鎌田は足を止め、前を向いたまま後ろに斬撃を放ち、騎士を倒した。
「クックック…俺は後ろにも目があんだよ」
鎌田が牙のような八重歯を見せ、不気味に笑った。
『旋回斬』
鎌田が素早く二刀を振ると、鎌田の周りに斬撃が発生し、騎士達を退ける。
『流撃斬』
再び鎌田が素早く二刀を振ると、今度は前方に斬撃が流れて行き、彼の道を作る。
「邪魔だ、邪魔だ!」
鎌田は再び走り出す。
「凄い…」
後方の朱雀隊は、それを見ていた。
掌を鎌田に向け『気弾』を放つ騎士もいるが、鎌田はすぐにそちらに向かいその腕ごと斬り落とす。
「ぎゃああっ!」
「そんなもん撃ってる暇があったら、斬りに来いよ…!」
鎌田は、不気味に笑う。
彼は一切の防御を捨て、流れるように攻め続ける。
攻撃こそ最大の防御という言葉を、その身で実践していた。
ただあれだけ動き回り続けていたら、いくら鍛錬していても体力がもたない。
朱雀隊は鎌田を支援しようと、次々に敵陣に突撃して行く。
「おい!」
鎌田は手拭きを出して、目の周りの血を素早く拭って言った。
「血拭きのない奴はやめとけ」
不器用な鎌田の発言が本気なのか冗談なのか、隊員達はよくわからなかった。
順調に斬り進んで行く鎌田達の前に、筋肉質で鋭い眼をした中年男が現れた。
彼は鎧ではなく、グリーンのミリタリーユニフォームを着ている。
髪はブラックのバズカットで、こちらを見て不敵に笑う。
「で、出たあっ」
朱雀隊は恐怖する。
彼がアデル・ブラディアに間違いない。
「やるではないか、元国のサムライ達!」
アデルは大声で、鎌田達を称賛した。
「フン。さっさとやろうぜ、目つきの悪いおっさん」
鎌田は駆け出す。
「ハッハッハ!…目つきの悪いクソガキが!」
アデルも素早く細剣を抜き、一気に迫って来る。
鎌田以上に、動作が速い。
「お気を付けください!奴の速さは軍長以上」
「うるせぇ!」
鎌田は朱雀隊の言葉を遮り、アデルと激しく打ち合った。
その速さは、すぐに身に染みてわかった。
一撃一撃は軽いが、見る見るうちに鎌田に傷が増えてゆく。
「クッ…」
焦る鎌田に、アデルは猛攻を続ける。
「どうしたボウヤ、その程度か!?」
「チクチク蚊が刺すようで…かゆいんだよ!」
鎌田は大きく二刀を振り、アデルは避けたが頬に傷が付いた。
「ほう…楽しめそうだな!」
「俺も愉しいぜ…!」
二人の激闘は続く。
一方、鬼村は…
「うぐゥ」
騎士達の『気弾』に、苦戦していた。
彼は避けるのも得意ではなく、遠距離から攻撃してくる騎士達は苦手な相手のようだ。
「くそォ」
鬼村は何とか一人騎士をつかむ。
『雷落とし』
そして投げ飛ばし、着地した所に衝撃が走り、周囲の騎士を巻き込んだ。
「うおおォ!」
鬼村は走って行き、倒れた騎士を踏みつける。
『地雷爆』
するとまた衝撃が発生し、周囲の騎士を倒す。
鬼村の武器は木刀だけではなく、その身体全てであった。
一度敵に隙を作ると、鬼村は獣のように暴れた。
『逆鱗』で攻撃力を高め、蹴飛ばし、投げ飛ばし、殴り飛ばし、木刀で叩き『衝波』を与える。
白虎隊もそれに続いた。
また鬼村の木刀は、特殊な木材でできている。
刃と当たっても壊れる事はないし、彼のような豪腕な者が使えば、刀以上の強さを発揮する。
そして軽いので、暴れ回る戦法を持つ彼には最高の武器である。
しかし遠距離から来る『気弾』には弱い。
もしも鎌田が鬼村を守るように、鬼村の周りで『気弾』を撃とうとする騎士を狙って戦っていれば、戦況は違ったかもしれない。
鬼村は高威力広範囲の攻撃、鎌田は素早い連続攻撃を得意とするのだ。
互いの弱点を補い合うべきところが、今回は攻守逆の陣形を作ってしまっている。
「うおおォ…」
鬼村は、どんどん体力を消費してゆく。
鎌田がある程度の敵を倒しながら進んではいるが、残された兵がほとんどであった。
鬼村と白虎隊は、その全てを相手にしているのである。
「兄貴…」
白虎隊は、不安そうな目をしている。
鬼村はそれを見て、気持ちが揺らぐ。
竜崎のように冷静な判断ではないが、彼の野生の勘は、もう敗戦を悟っている。
「おれはァ…」
鬼村は、ある決意を固めた。




