第一章 第二話
「ただいまー!」
のどかな村「晴香村」に、明るい声が鳴り響いた。
知念の声は、とても大きかった。
「…どうも」
隣にいる、この男とは正反対だった。
「そんなんじゃー、誰にも聞こえないよ!?よく今まで生きてこれたわねー!」
「…」
知念は竜崎に言いたい放題である。
「おお知念、戻ったか」
老人が近付いて来る。
「聞いてよじいさん!森で薬草を採ってたら、大変な事に…」
知念の言葉を遮り、老人は聞く。
「ん、そちらの方は?」
「こいつは純!森で薬草を採ってたんだけど、」
更に老人は遮る。
「この村に人が来るとは珍しい」
「聞けー!」
知念の活発さは、本当に少女のようだった。
知念の話を聞き、老人は言った。
「なるほど…知念の恩人でしたか」
「…いえ、別に」
と言う竜崎に、老人は続ける。
「この村には若い者がおらんでな…皆、この知念を孫娘のように可愛がっておる。お助けいただき、本当に感謝しますぞ」
竜崎は、黙って会釈した。
「歳よりも幼く感じるのはそのせいか…って、考えたでしょ!?」
知念の発言に、竜崎はびくっとした。
老人は言った。
「おい知念、早くばあさんに報告しておやり」
「わかってるよ!」
と知念は家に向かいながら、竜崎に語る。
「あたしはばあちゃんと二人暮らしなんだ」
竜崎は、基本的に話しかけられないと口を開かない。
だが積極的に話しかけ、この短期間で心まで読んでくる知念には、親しみを感じていた。
そして家に着く。
「おお知念、戻ったかい…おや?」
紺の着物の老婆が歩み寄る。
それが知念の祖母と気付いた竜崎は挨拶し、知念は彼を紹介する。
「…どうも」
「こいつは純、あたしの恩人よ!」
「侍…」
知念の祖母は、少し険しい目つきをしている。
「(…やはり)」
来るべきではなかったか、と感じた竜崎だったが、すかさず
「聞いてよばあちゃん!」
と話し始める知念であった。
「なるほど…それはそれは、助かりました。今日はゆっくりしていってください」
話を聞くと、知念の祖母は優しい顔をして、奥の部屋へと向かった。
「ごめんね。昔、帝国戦争ってあったじゃん?うちの親、それで死んでんだよね」
「…」
知念が話すのを、竜崎は黙って聞いた。
「だからちょっと侍とか騎士とか、苦手みたい。でもあんたは特別だからさ!」
「…」
竜崎は、少し申し訳なさそうな目をしていた。
「んじゃ、あたし着替えて来るから!」
と知念は、自分の部屋へと向かった。
「あ、覗いたらだめだよ?」
「わかった」
「返事早っ!いつもの『…』はどうした!」
「…すまない」
「それそれそれえっ!」
「(純って、ぽーっとしてるけど…女の子に興味とか、ないのかな?)」
知念は部屋に戻りつつ、考えた。
彼女は決して美人ではないが、醜女でもない。
見た目は、茶髪を結っていて少し派手だが至って普通の女性である。
そして、肌の色は黒めである。
「それとも、色黒にそんなに興味がないってーの!?」
いきなり知念の大声が聞こえて、竜崎は遠くでびくっとした。
着替え終わった知念が、竜崎のもとに戻る。
「どう?知念ちゃんのニューコスチュームは!」
「…そんな帝国語で言われてもな。あまり変わらないな」
破れ破れではなくなったものの、黄色の薄い着物を着て、足元の裾を織り上げて留めている。
先程の格好が、小綺麗になった感じだ。
「これが動きやすいスタイルなの!」
知念は帝国語を混ぜて、そう言った。
それから二人は居間でくつろいだ。
そこには大きな亀がいた。
「この子は『亀吉』。おばあちゃんのペットよ」
「…かわいいな」
知念が紹介し、竜崎は微笑む。
家の外では、風が木々を揺らし、綺麗な音をたてている。
知念の祖母は心地よく居眠りし、竜崎と知念もまた穏やかに過ごした。
そして、その日は特に何事も起こらず…
二人は、ゆっくりとよく休んだ。
「(純って頼りない感じだけど、一緒にいると安心する…これってまさか恋ってやつ!?)」
「(…知念は明るいな。自分ももっと積極的だったら…)」
それぞれの部屋で、知念と竜崎はそれぞれ思い、眠りについた。