第二章 第一話
数年前…
元国の中心に、華京という名の都があった。
都は人が多く暮らし、それだけに邪念も集まる。
華京は元国で最も栄えると同時に、最も多く妖が発生する所でもあった。
「(…来たか)」
現在よりも更に無口であった男、竜崎。
蒼色の首巻きは現在と変わらないが、青い着物の上に、銀文字の入った黒の羽織を着ている。
羽織の背中には、『護』の一文字が大きく描かれていた。
またその下に、『護國精鋭』と描かれている。
左胸元には『青龍』、右胸元には『東方軍長』と描かれている。
竜崎は、黙ったままゆっくりと、長刀を抜き走り出す。
風になびく髪は短髪ではないが、現在よりも随分と短い。
前方に見えるのは、これでもかと言う程の妖の集団。
また竜崎の後方に続く十数人の侍達も、皆同じ羽織を着ている。
ただ違うのは、「東方軍長」の文字が入っていないだけだ。
彼らは『護國精鋭』。
華京を護る為に結成された、侍の集団である。
華京の東を護る青龍隊、西を護る白虎隊、南を護る朱雀隊、北を護る玄武隊、中央を護る麒麟隊がある。
そしてそれぞれの長として、東方軍長、西方軍長、南方軍長、北方軍長、総方軍長がいる。
竜崎は、護國精鋭の青龍隊の長、東方軍長だったのである。
「(…ここだ)」
竜崎は立ち止まり、青龍隊もそれに続く。
「…ここで敵を食い止める」
「はい!」
『影足』
竜崎は分身し、
『牙折り』
『爪剥がし』
遠くから、横に縦に風の刃を飛ばしてゆく。
青龍隊も次々に風の刃を飛ばす。
竜崎の立ち上げた流派は、長刀流波流剣。
風を起こし、遠方から攻撃する。
青龍隊は皆、長刀流波流剣の門弟である。
青龍隊は妖が華京に近付く遥か前に、全て消滅させた。
最も遠くで妖を倒した部隊と言える。
これが竜崎の戦い方である。
一方…
「暴れるぜェ!」
灰色の髪を逆立てた豪快で大柄な男、西方軍長の鬼村猛虎。
薄着を好み、裸の上に直で羽織を着ている。
下は、白い袴を履いている。
また護國精鋭は皆足袋を履いているが、彼とその周りだけは草履を履いている。
鬼村と白虎隊は、木刀を振り回して暴れ始めた。
「うおおォ!」
『激足』
鬼村は特殊な足取りで妖に突進してゆく。
妖達は弾き飛ばされ隙だらけになる。
「よっしゃァ!」
『衝波』
鬼村が一体の妖を強打すると、衝撃がその周囲に散り、次々と他の妖達も消滅してゆく。
「まだまだァ!」
『逆鱗』
鬼村は集中し、己の攻撃力を高めた。
鬼村の立ち上げた流派は、木刀流剛砕剣。
雷を起こし、広い範囲を攻撃する。
白虎隊は西方だけでなく、北西や南西の妖も消滅させた。
最も多く妖を倒した部隊と言える。
これが鬼村の戦い方である。
「おい、竜崎ィ!そんな大人しい戦い方で、満足できるのかァ?」
鬼村は、いつもそう言っていた。
「…」
竜崎は、ほとんど喋らなかった。
しかし真反対の性格の二人だが、仲は良かった。
どちらも思いやりがあり、部隊や華京の人々に好かれていた。
華京の東西は、彼ら竜虎によって護られていたのである。




