第一章 最終話
稔は慌てて言った。
「すごい邪気を感じるんだ…あっちの方だよ!」
稔が指差す先は、町の外れの砂丘である。
「…無事か」
と、そこに竜崎もやって来る。
「何があったの?」
と聞く知念に、竜崎は答える。
「…稔がかなりの邪念を感じ取ってる。獣妖よりも強い妖が出るかもしれない」
「ええっ!?」
驚く知念に、竜崎は言う。
「…知念、町の人には他に何か聞いたか?」
「えっと…『八咫烏』は先日の帝国軍第六支部襲撃の前に、ここに寄ったって事くらいかな…」
「…他には?」
「んー…鎌田は饅頭大好き」
「…え?」
不思議そうな顔をする竜崎に、知念はごまかし言う。
「あっいや…町の人は、みんな帝国軍が嫌い!」
竜崎は少し考えて言った。
「…反抗勢力と、町の人。帝国軍への怨みが強すぎて、邪念が生まれたのかも」
「見て!」
と知念の指す砂丘の方で、砂が舞っている。
「…行くぞ!」
と三人は、砂丘へと向かう。
道中…
「…帝国軍への怨みは妖を生む。人を憎まずに生きるのは難しいけど…」
竜崎の言葉を、知念が遮る。
「純、なんか最近よく喋るね」
「…そうだな」
そして竜崎は、どんどん強くなっている。
「…知念と稔が、変えてくれた」
そう言って頬を真っ赤にして、竜崎は足を速めた。
「グオオオ」
砂丘には、既に妖が二体、生まれていた。
竜崎は言った。
「…『岩鬼』。鬼妖だ」
「鬼妖!?」
「…獣妖よりも更に強い。主に物が妖になったものさ」
「あいつらは、砂丘の岩が妖になったもの!?」
「…だろうな」
岩鬼は、頭と手足を持つ岩の鬼である。
竜崎はここに来るまでに、既に長刀を抜いている。
『双翼狩り』
竜崎は大きく長刀を右上、続いて左上に振った。
斜めの風の刃が二つ、二体の岩鬼を襲う。
しかし、岩鬼を倒すには至らなかった。
「グオオオ」
岩鬼が砂を固め石にして、投げつけてくる。
「…二人とも、下がってくれ」
竜崎の声に二人は数歩下がり、竜崎は長刀で石を真っ二つにした。
岩鬼達の間には、小さな竜巻が起きている。
早くしなくては、また妖が生まれそうだ。
「(…仕方ない)」
と竜崎は全身の力を抜いた。
「純!?」
「お師匠さま!」
二人は後ろからそれを見ている。
そして竜崎は特殊な足取りで歩き出し…分身した。
『影足』
分身した竜崎は、再度攻撃する。
『双翼狩り』
二つの風の刃が分身し、六つの刃が岩鬼に迫る。
「グオオオ!」
さすがに強力な刃を三つずつ受け、岩鬼達は消滅した。
「やったあ!」
稔ははしゃぐが、知念には疑問が浮かぶ。
「待って!あの技、像に書いてあった…」
竜崎は、ゆっくりと分身を解除する。
と同時に、小さな竜巻は砂嵐となり…それが止むと、中から巨大な岩鬼、『大岩鬼』が現れた。
知念はつぶやく。
「でか…」
竜崎の、二倍以上の大きさである。
「グガアア」
大岩鬼は次々に岩を作り出し投げて来る。
竜崎はそれらを避け、『牙折り』を放つ。
大岩鬼は足に斬撃を受け、しゃがみ込む。
すかさず竜崎は大岩鬼の肩に飛び乗り、『角割り』で頭上から攻撃する。
「グガアア!」
大岩鬼は頭上に手を伸ばし、竜崎を捕らえる。
「純ー!」
「お師匠さまー!」
と二人は焦って近寄るが、大岩鬼に捕まったまま、竜崎は来るなと合図した。
大岩鬼が竜崎を握り潰そうと、力を込めながら腕を目の前に持っていく。
その瞬間、竜崎は『鱗破り』を大岩鬼の喉元に喰らわせた。
「グガアア!グガアア!」
隙を突かれ大打撃を受けた大岩鬼は、竜崎を放し喉元を手で押さえる。
『影足』
竜崎は再び分身した。
『爪剥がし』
弱った所に三方向から来る斬撃に、大岩鬼は耐え切れず消滅した。
竜崎はまたゆっくりと分身を解除する。
稔は感心する。
「お師匠さま…強すぎる」
「純…あんた、その技」
知念は何か聞こうと駆け寄る。
そこに、帝国軍の騎士が現れた。
「妖退治ご苦労!だがお前には、罪があるよなァ?」
とゆっくり近付いて来る大柄な騎士に、竜崎は見覚えがあった。
騎士は続けて言う。
「元護国精鋭・東方軍長、竜崎純!帝国戦争での反抗の罪で、捕縛するぜェ!」
「え?え!?」
戸惑う、知念と稔。
「久しぶりだなァ…竜崎ィ!」
「…鬼村!?」
竜崎と、鬼村と呼ばれた騎士は、睨み合う。




