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第四話

「皆のものご苦労であった」


 王より労いの言葉がかけられた。試合が終わり大半の参加者たちが荷をまとめ城を出て行く中、誰が近衛になるのか最後まで見届けたいと足を止める者もいた。


 そんななか、カナタと試合った女は行く末を見守るために足を止めていた。帰ろうとは、思わない。そんなもったいないことはしない。


 女は最後の試合までをすべて見ていた。どのグループも勝ち残る人間はだれもが、自分では敵わないと思わされるほどの強者ばかりだった。ゆえに、だからこそ最後まで見届けようと考えた。自分はまだ若い。これを機に自分をよりいっそう高めるのもよし、そしてそのためには、強者の戦いというものをしっかりと目に焼き付けておかなければならないと考えたのだ。


 勝者達の面接が始まる。ただこれは、関係者以外の見学は許されなかった。ゆえに、この場にいるのはカナタ・国王・シエル・クルエ・シーナ、そして乱戦を勝ち残ったカナタを除く四名だ。


 王は勝ち残りの五名を端から見回してゆく。誰もが精気にあふれそして力強く、何より自信に満ち溢れていた。


 それは個々人のゆるぎない決意の表れだった。


 しかし、その中で一人、異質な存在を王は感じていた。周りと何が違うといえることはない。無いが、その人間の決意は自身ための決意ではなく感じられたのだ。それは王の人を見る目がやはり王たるゆえんの物だったから気づけたのかもしれない。


 だからこそ、一番最初に名を、そして話をしたいと思った。


「ふむ、では貴君、貴君は何故この選定に参加をしようと思ったのだ?」


聞かれたのはカナタ。だがカナタは王の突然の質疑にあわてることはなく堂々と言ってのけた。


「それは、三食、寝床、給金ありの三か条にひかれたからだな」


 周りの人間がざわめく。


 それはそうだ。一国家の王に向けてタメ口を利き、なおかつ理由も不純。さすがに王もそれには驚かざる終えなかった。そして同時にガッカリもする。


 だがカナタの言葉はそこで終わりではなかった。


「でも、それだけじゃない、俺が今本気でこの選定を受けているのは、近衛にならなくちゃいけないからだ」


「貴君はその態度だけで選定からはずされるとは思わないのか? ならくてはいけないのならそれなりの態度というものがあるのではないか?」


 王は心底興味深そうに、だが同時にとがめるように口をだす。本来こんな口の利きかたなど不敬罪で打ち首ものだが、この王は平和主義だった。簡単に人をどうこうするという狭心は持っていない。


「思わない。あんたが本当にそんなことをする人間だったら俺は、こんな選定など受けない。そして受けなくても俺の目的は自力でかなえる。でもあんたは違う。俺にはわかる。だからこそ俺はこの選定で勝たなくちゃいけない。いや・・・・・・勝つ」


「名は?」


「少なくともこの場では言えない」


「何故?」


「あんたより先に直接岩名家らならない奴が居るからだ。そいつに名前を言うときは、そいつの希望になってからじゃないと意味がない」


 そうカナタは王に挑むように目を向けた。それは強く鋭い眼光。王が思わずうならされるほどに力のある眼だった。


 王はそうかと一つうなずくとカナタを下がらせた。そして次の面接にはいる。


 シエルやクルエそしてシーナはこの王との面談を見て面接者を判断する。少なくともシエル以外の眼は厳しいものだった。しかしシエルは確信する。きっと彼は自分のお姉様方を確実にうならせると。それはもはや狂信に近かった。しかしそう思わせるほどに、シエルのカナタに対する希望は大きくなっていたのだ。


 他のものたちが面接する中カナタはひとりため息をつく。さすがにこの場に残っている者たちはそれぞれが強者特有の気配を持っている。その中でも特段に強い気配を持つものはブロンドヘアーの優男だった。


 見ればそれはどこまでも甘くそして見るものを虜にするような顔。だがその奥に潜むの獰猛で荒々しい。他の参加者たちもわかっているようだ。だがその男は気にすることはなかった。自分の内にある荒々しさを隠そうともしない。見るものが見れば一瞬にして見抜けるそれをむしろ誇っているようだった。


「貴君の名は?」


王がカナタの時のように問う。


「私はシード・アスペルです。以後アスペルと及びください」


物腰はあくまで丁寧だった。


「少なくとも私はあの野蛮人のように名を伏せたりはしません」


 アスペルはカナタを横目にさらっと嫌味を言ってのけた。


(たく、どっちが野蛮人だ)


 とカナタは心の中で悪態を付いた。


「ふむ、では貴君、お主は何故近衛に?」


 するとアスペルは一歩前に進み、


「それは、私が王になるためです」


 と豪語して見せた。これにはさすがの王も嫌悪の目を向けるだが決して声を荒げない。アスペルはそんな王の態度を見てかすかに笑みをつくる。そして言葉を続けた。


「私が王になればこの国の繁栄は間違い無しです。この国は今、腐っている。何故なら外交をほぼ断絶しているです。このままじゃいずれ貧弱なこの国は他国に攻められ属国となるのがおちでしょう」


 王の口がわずかにひきつる。


「だが、この国の人口は他国よりよほど多くいる。何より兵の数も―」


 しかし、そこで王の言葉はさえぎられた。 


「では質はどうですか? こんな安全な国の中で兵が強くなるわけがありません。敵がいくら少数だとしても質が高ければ多数の兵を破るものたやすい。なにより・・・・・・この国の兵は弱い。少なくとも今この場にいる兵全員と対峙しても私は負ける気がしません。ついでに言うなら、この選定の参加者を含めてもかまいません」


 その言葉に少なからず殺気を立てるものは多かった。今にも踏み出しそうな兵もいた。それは参加者も同じだった。


 だが王は勤めて冷静に。


「ふむ・・・・・・ならまずはこの戦いで勝ち残り見事近衛になってから進言せよ」


「そうですね、多少言葉が過ぎたかも知れません。失礼しました」


 失言を礼したアスペルだがその言葉には幾分も謝辞は含まれていない。


 アスペルは思う。こんな暴言ともいえる言動を許す王に何故兵は従っているのか。兵や民は権威を持って統治するのがアスペルの考えなのだ。


「っふ、ばかばかしい。こんな国など」


 小声でつぶやくアスペルの声を聞いた、他の参加者達の殺気を含む視線をアスペルまるで気にしないとばかりに笑みを浮かべていた。


 試合はトーナメント式のものだった。五人のうち一人がシード。シードはいきなり決勝から始まるので他の参加者とくらべ負担がない。カナタはまことにラッキーなことにシード選手であった。


 これには若干ながら王の安堵の姿が見えた。少なからずアスペルがより有利になることはないからだ。王の言葉には責任がある。この選定において選手を平等に見ると誓った時点でそれを破るわけにはいかなかった。ゆえにアスペルの言動が危険なものにおいてもそれを真っ向から否定することはできなかったのだ。


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