表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

最路 アリーゼさんマジすんませんでした。



 ……一人で散歩しているところに、この男はいきなり話しかけてきた。



「お嬢ちゃん。こんなところでどうかしたのかい? もしかして迷子かな? よかったらおじさんが一緒にお母さんかお父さん、探してあげようか?」



 まずそこで、頬が引き攣った。



「……結構だ」



 どうにかそう返して、歩きだす。


 すると男が私の肩を掴んできた。



「まあまあ、そう言わずに。いい服を着ているね。それなりにいい家の子かい?」



 そこで私は初めて男の顔を見た。


 思わず吐き出しそうになるくらいに下種な目をした男だった。


 外見ではなく、腹の奥が腐っている人種だと即座に理解する。


 言動からして、私を貴族の子かなにかと勘違いしているのだろう。


 助けて親から金をせびるか……あるいは……。


 そこまで考えて、少し気になったので話にのっかかることにした。


 ……癪だが。



「そこまで言うのなら、いいだろう。ならば手伝ってくれ」

「いいよ。お嬢ちゃん、とりあえずこっちを探そうじゃないか」



 お嬢ちゃん、か。


 ああ、本当に癪だ。


 人の事を外見でしか判断できんのか、この男は。


 溜息をこっそりと吐き出す。



「そうだ。お嬢ちゃん、名前を教えてくれよ」

「……アリーゼだ」

「アリーゼちゃんか。いい名前だねえ」



 なんだか無性にこの男を叩き切ってやりたい気分だな。


 ……今日の私は、我ながら少しばかり気が短いな。


 だがそれも仕方あるまい。


 なにせ……昨夜のことがあるのだから。


 エリスめ……よくもあそこまで悪ノリしてくれたな……。


 思い出すだけで顔から火が噴き出しそうになる。


 いくらなんでも、あれはやりすぎだろう……っ。


 いや、まあ受け入れてしまった私も私なわけだが。


 それでも、釈然としないのだ。


 私はどちらかといえばもっと普通に愛を確かめ合うほうが――っと。まあそれは置いておくか。


 今はこの男だ。



「どこに向かうのだ?」



 私の前を歩く男は、路地の奥へと入っていく。



「なあに、すぐそこさ」



 などと話しているうちに、どうやら目的地についたらしい。


 一つの建物の前で男が足を止めた。



「ここだよ」



 男が嫌らしい笑みを浮かべる。


 鼻につくのは、異臭。


 何の臭いかは考えたくもなかった。


 ……どうやらこの街は、それほど治安がよくないようだ。


 いや、もしかしたらこれがこの国の標準的な治安なのかもしれない。だとしたら、随分と未熟な国だ。


 まあ結局のところどうなのかは、この国についての知識など欠片も持たない私には分からないが。


 しかし長く旅をしていれば、そういう国にも何度か立ち寄ったことはある。


 その中で培った経験から言わせてもらえば、こういう臭いがするところは、マシなものではない。



「ほら、入りなよ」



 男が建物の扉を開けた。


 途端、異臭が強まり、微かな声が聞こえた。


 悲鳴……泣き声……あるいは、嬌声。



「一応聞く。ここはなんだ?」

「あん? そんなの決まってるだろ?」



 男の口元が汚く歪んだ。



「変わった趣味のやつってのはいるもんでな。そういう連中にお楽しみを提供するところさ。お嬢ちゃんもまあ、運が悪かったと思って諦めてくれ」



 男が私の背中を押して建物の中に入れようとする――が。



「どうにも、エリスの影響かな。こういうのを見聞きすると、歯止めがきかなくなる」

「え……?」



 私に触れようとした男の腕が、根元から落ちる。



「う、うぁあああああああああああああああああ!? 腕、俺の腕があ!?」

「腕一本でなにを騒ぐ? お前はこれまでどれだけの少女を食いものにしてきた? その清算だ。おとなしく受け入れろ」



 ああ。


 この男に相応しい言葉を見つけた。


 あの人の言葉を借りるとしよう。



「喚くな腐肉が」



 そのまま、男のもう片方の腕を、指一本動かさないまま切断する。


 殺しはしない。


 安易な死など許しはしない。こういった輩は正当な裁きの元で、罪を後悔しながらこの世を去るべきだ。


 男が激痛のあまり、そのまま気絶する。


 すると、建物の中から悲鳴を聞きつけたか、男の仲間らしい連中が出てくる。



「なんだ、このガキは!」

「おい、さっさと捕まえちまえ!」

「あいつをあんな風にしたのは誰だ!?」



 ……ふん。


 どいつもこいつも、私は眼中になしか。


 男をこんな風にしたのが私などとは、少しも考えていない様子だった。


 ……そろそろ言わせてもらおう。



「私は……」



 腕を真横に突き出す。


 するとその手の先に、光が集う。


 光が、大剣を形作った。



「お嬢ちゃんでもガキでもないっ!」



 そしてその大剣を振るう。


 大剣がうねり、その刀身が伸びた。


 蛇のような動きで、一条の光が連中の合間を縫う。


 そして、私が刃を引くと……その手脚が切断された。


 いくつもの絶叫が、狭い空間を満たす。


 赤い液体が辺りに巻き散らかされる。



「この、腐肉共がッ!」



 光の大剣を地面に叩きつける。


 と、圧倒的な力の奔流が怒り、建物を軋ませ、衝撃波は連中を吹き飛ばし、例外なくその意識を奪う。



「……ふん」



 鼻を鳴らし、光の大剣を消してから私は建物の奥に入った。


 濃密な臭い。


 そこにある光景は、説明したくもない。


 いたのは、惨めな少女達と、下卑た男達。



「おお、新しい娘か。ワシが最初にやってやろう。ほうれ、こっちにこんかい」

「黙れ」



 一人の少女を弄びながら言う男を腕の一振りで壁に叩きつける。


 それに周りの男達が動揺を見せるが、誰かが逃げだす前に全員壁に叩きつける。



「本当に……この国はどうなっているのだ」



 一度、国中の膿を焼き尽くしてやろうか。なんて考えて、案外それもいいかもしれないと思う。


 エリスに相談してみようか。


 私達なら、数日でそれくらい出来るだろう。


 少女達は、あるものは瞳は虚ろで、あるものは痩せ衰え、あるものは錯乱していた。


 まともな意識を保っているものも、今あった光景に呆然としている。





「――――――《顕現》――――――」




 私の身が変わる。


 私は《私》に。


 何もかもが、存在とは別のものに成った。


 赤い布が翻る。


 ――きれい。


 誰かが、そう呟いた。



「ありがとう。お前達も、綺麗に輝いてくれ。こんな現実に負けてくれるなよ?」



 そっと手を振る。


 それだけで、少女達が眠る。


 私は彼女達の穢れを全て洗い流し、それから清潔な服を作り出して着せた。


 迷ったが、記憶も少し変えておく。


 忘れさせはしない。ただ、ほんの少しだけ、重さを削る。


 やはり、少女達にこの記憶は重すぎるだろう。


 本来は自分達の力で立ち直るべきなのだろうが……エリス風に言うのであれば、可愛い子ならば少しくらいのズルはしてもいい。


 それでも完全に忘れさせないのは、この忌々しい経験が、彼女達の強さになると信じるから。



「さて……」



 とりあえず、腐肉を然るべき場所に突き出して、少女達を帰るべき場所に帰してやろう。


 あとは、この国の一番上……王か女王かは知らんが、その人物に会いに行こう。


 国の腐敗を憂うのであればそれでよし。


 そうでないのなら、軽く革命でも起こしてしまうかな。


 ……まったく。


 そういえば最近は、こんな世直しめいたことばかりしているな。私達は。


 まあ、それも悪くはないか。


 それで何かを守れるのなら、導けるのなら……。






 ああ。悪くもないさ。


アリーゼがちょっと教官に染まった気がする。

まあそれはそれでアリか。


とりあえず前話で忘れちまってすみませんでした、アリーゼさん。

なのでその光の大剣をどけていただけるととても嬉しいのですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ