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IF オーム……残念な子。

 朝。


 弟達と朝食を済ませた私は、鞄を持って家を出た。


 そのまま学校へ向かう。


 私の通う学校は、街の端。山の麓にある古い女子高だ。


 それなりの歴史を持つところで、資産家や政治家など、そういったお偉方の子女が集まる学校としても有名である。


 ――ちなみに一部例外はあるが、そこは今は置いておく。


 本来は全寮制ではあるのだが、弟達の世話があることと家がすぐ近くであるということを盾に、特別に家からの登校を認めてもらっている。


 まあその際にちょっと校長とお話があったが、そこは特筆するに値しない。


 学校までは片道一時間。


 まあかなり歩くが、それほどの苦ではない。


 毎朝の適度な運動と考えれば健康の為にもいい。


 まあそんなのは建前で、結局は可愛い女の子達がいる場所に向かうのにどれほど時間がかかろうと私にとっては問題ではないと言うことなのだけれど。



 学校の校門を抜けて一番最初に感じるのは視線。


 数々の視線が私に向けられている。


 それは、寮ではなく学校の外から登校してきた私を奇異に思って向けられた視線――ではない。


 そのことに、思わず笑みが浮かぶ。



「おはようございます、エリス様」



 誰かとすれ違う度に、そう挨拶をされる。



「ええ、おはよう」



 そう返していく。


 すると、挨拶の中に親しみある声が混じる。



「おはようございます、エリスさん」



 その声に振り返れば、すぐに彼女の姿が視界に飛び込んできた。



「……おはよう、ティナ」



 ティナに近づいて、その頬に手を添える。


 周囲の女の子達が桃色の悲鳴を上げた気がするが、今はそんなことに気をとめている場合ではない。


 ゆっくりと、彼女に顔を近づける。



「エリスさん。周りに人、沢山いますよ?」

「あら? ティナはそんなこと、気にするの?」

「……いえ。私は、エリスさんしか見てませんから」



 くすりと笑んで、ティナの方から私に顔を近づけて、キスをしてきた。


 桃色の悲鳴が今度こそあがる。


 彼女は……ティナは、私の幼馴染で、そして恋人だ。


 付き合いだしたのは中学二年の頃で、私がここに進学することを知って彼女もここに入学した。


 そんな簡単に入れる学校ではないのだが、そこはティナがとても頑張ったからこそ入れたのだ。


 私とそこまで一緒にいたいと思っていてくれているのだと考えると、胸の奥からいろいろなものが溢れてきそうになる。



「……お前ら、いいかげんにしてくれ」



 そこで、少し低い声がかけられた。


 そちらに視線を向ける。


 経っているのは、この学校の制服に身を包んだ。腰まで届く髪をすこしぼさぼさにした女の子だ。


 ……訂正。


 男の()だ。



「オーム。言葉遣い、直したら? その容姿だからばれたりしないだろうけれど、下手をしたら疑われるわよ?」

「ふざけるな。誰が」



 乱暴に言って、オームがそっぽを向く。


 オームはれっきとした男だ。


 そのオームがこんなウィッグをかぶったりして女装して女子高に通っているのには、ちゃんと理由が在る。


 なんでも去年オームの祖父が亡くなった時、何を思ったか遺言で祖父がこの学校に編入するよう告げたのだと言う。


 財界でもそれなりの地位にいたオームの祖父の言ともなれば、無視はできない。


 そのままなんやかんやで、オームはこの学校に編入することになった。


 ……本人は最後まで抵抗したのだけれど。


 学校には、先に幼馴染である私とティナがいたおかげか、すぐに馴染むことが出来た……のだろうか。


 少なくとも浮いてはいない筈だ。


 ちなみにこの学校でオームが男だと知っているのは、生徒で言えば私を含め六人。教職員では二人だけだ。


 しかし未だに私ですら彼の祖父が何を考えてオームをここに入れたのか、分からない。


 ……まああの人のことだから、ただ単に面白そうだから、なんて理由なのかもしれない。



「とりあえず行きましょうか」

「はい」

「ああ」



 校舎に入って、私達は二年A組に向かって歩き出す。


 その途中。



「エリス様っ!」



 私に飛びついてくる姿。


 それをしっかりと受け止める。



「おはようございます、エリス様!」



 その子……後輩のナンナが、元気一杯の笑顔で挨拶をしてくれる。



「ええ、おはようナンナ」

「はいっ!」



 ナンナの笑顔を見ていると癒されるわねえ。


 ちなみにこの子も、私の恋人。


 恋人が複数、それも同性でいることに違和感を覚える人間がいるかもしれない。


 しかし私は胸を張ってこう言える。


 私は、恋人達を全員、愛している。


 それは嘘ではなく、偽りではなく、出まかせではなく。


 誰がなんと言おうとも。


 どんな否定をされても揺らがない。


 この宇宙で一番はっきりとした事実だ。



「エリス様。今日、授業でヨモツと私、クッキーを焼くんですけど食べてもらえますか?」

「そうなの? もちろん、聞かれるまでもなく食べさせてもらうわ」

「本当ですか!?」



 ナンナが飛び上るほどに喜ぶ。



「それじゃあ昼休みにお届けしますね! ちゃんと美味しく焼きますから!」



 そのまま、ナンナは駆けていってしまった。


 ……本当に元気な子だ。



「……私も今度、クッキー焼きます」



 隣でティナが頬を膨らませた。



「あら……それももちろん、楽しみにしてるわね?」

「はいっ!」



 教室に入って、そのまま自分の席に座る。


 席の位置は私の前にティナが。横にオームがいる。


 そのまま二人と話をしていると、教室のドアが開き、そこに見覚えのない女の子の姿があった。


 彼女に、ドアの近くにいた子が要件を聞く。それからその子がオームに近づいた。



「俺を呼んでる? ……またか」



 げんなりとした表情でオームが立ち上がり、ドアのところに立つ女の子の所に向かう。


 そして彼女と短く言葉を交わすと、彼女はオームに何かを渡し、どこかに走り去ってしまう。


 オームが戻って来た。



「……ほら」

「これは?」



 オームが私に渡したのは、かわいらしい色の便箋。



「訊くまでもないだろう?」



 私はその便箋を開き、そこに綴られる文章に目を通した。


 と言っても、本当に身近な文章だ。


 要約してしまえば、貴方の事を愛しています、というもの。



「ったく、どうして俺がエリスへのラブレターの受け渡し口にならなくちゃならないんだ」



 ぶつぶつとオームが文句を零す。


 私は、便箋の最後の文字を凝視した。


 ――オーム様へ。


 まあ、確かにオームに渡されるのは、大抵が私へのラブレターだ。


 だが時々、彼自身へのラブレターも混じっている。


 未だに彼はそのことに気付いていないらしい。



「これ、あなた宛てよ?」



 便箋と畳んで、オームに差し出す。



「はあ? なんの冗談だそりゃ。誰が俺なんかにそんなもん出すんだよ。からかうな」



 そのままオームは自分の席に座って、机につっぷしてしまう。


 この学校では、はしたないと言われてもしかたない行為だ。


 しかしそれが男らしい、と。一部の女子に人気があるらしい。


 男らしいというか、本当に男なのだけれどね。


 私はティナと顔を見合わせると、肩を竦めて苦笑をした。


 と、そこでチャイムが鳴る。


 クラスメイトが素早い動きで席につく。


 オームが身体を起こした。


 私とティナもちゃんと前を向いて背筋を伸ばす。


 怠けた様子など微塵も見せるわけにはいかない。


 我がクラスの担任は、少々厳しいのだ。



 昼休み。


 私は一年生の階に向かっていた。


 朝、ナンナとヨモツがクッキーを焼くといっていたので、それを受け取りにきたのだ。


 階段を下りていると、前からその二人の姿がやってくるのが見えた。



「あ、エリス様!」



 踊り場でナンナが抱きついてくる。



「主……これを受け取ってもらいたい」



 一方のヨモツは、リボンで口を結ばれたクッキーが入っているであろう小さな袋を私に差し出してくる。


 なお、彼女もまた私の恋人であったりする。



「ありがとう、ヨモツ」



 袋を受け取る。



「……食べた感想を聞かせてもらえたら、ありがたい」

「ええ、分かったわ」

「エリス様! 私のもどうぞ!」

「ありがとう」



 ナンナが差し出した袋も受け取る。



「楽しみね。二人のクッキー」

「あ、ちなみに言っておきますけど、ヨモツと比べちゃ駄目ですからね!」

「……何故だ?」



 言うナンナに、ヨモツが尋ねる。



「ヨモツのクッキーとじゃ私のは比べ物にならないからだよ! もう!」

「そうだろうか?」

「そうなの!」



 ナンナが語気も荒く告げる。


 ヨモツ……お菓子作りを含めた料理全般が上手だものね。

 正直、その面では私も時々敵わないと思う時があるくらいだ。



「でも、ナンナのクッキーだって、私にとっては絶品よ?」

「エリス様ぁ」



 ナンナが感極まったといった様子で抱きついてくる。



「二人とも、クッキーありがとう。今度、なにかお返しをするわね」

「そんな、別にいいですよ!」

「ああ。別に我らはそんなつもりでは……」

「いいじゃない」



 微笑みかける。



「私が、貴方達になにかをしてあげたいの。いいでしょう?」

「……む」

「それならば……」

「ふふ。ありがとう」



 お礼を言うと、ナンナが顔を赤くしてあたふたしはじめる。



「そ、それじゃ、私達はちょっと料理部の用事があるので! 行こう、ヨモツ!」

「む? ああ」



 二人が階段を下りていく。


 それを見送って、また微笑む。


 可愛いわね。二人とも。



「クッキーねえ?」

「あら、ウルも焼いてくれるの?」



 背後からの声に、そう返してから振り向く。



「焼いて欲しいの?」

「もちろん、欲しくないとは言わないわ」

「そう?」



 立っていたのは、私の一年上。三年生のウル。生徒会長だ。


 やはり彼女も、私の大切な恋人の一人。



「なら焼いてくるわ。お礼は期待していいのでしょう? いえ、というか先に貰っておくわ」



 言うと、いきなりウルが私にキスをしてきた。



「……大胆ね」

「誰かの影響よ」

「誰の事かしらね」



 二人で笑う。



「それじゃあ、美味しいクッキーをよろしくね?」

「ええ。まあ、そこそこ期待してなさい」

「胸一杯に期待してるわ」



 ウルが肩を竦める。



「それはそうと、今日の放課後、少し手伝ってもらっていい? 今度の学際の書類が溜まっちゃったのよ」

「生徒会を一人で回そうとするからそうなるのよ」

「仕方ないじゃない。私の目にかなう人材が簡単には見つからないのだもの。それに――」



 ウルが、そっと私の耳元に口を寄せる。



「誰かいたら、エリスと二人きりになれないでしょう?」

「……それもそうね」



 やっぱりウルも、可愛いわね。


 本当に、私の恋人達は狂ってしまいそうなくらいに可愛らしい。



「それじゃあ今日の放課後、二人きりになりましょうか?」

「ええ」



 頷く。







 そんな風に。


 また一日が過ぎて行く。




ふふふかなり粗雑な内容な気もしなくはないけれどまあいいよね許してお願いふはははは!

さて落ち着こう。

というわけでまあ、こんな仕上がりです。


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