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神喰 一言だけ。ライスケ爆発しろ。

 それは、俺が最初にいた大陸からずっと東にいったところにある大陸で見聞を広る為の一人旅をしていた時のことだった。



「魔王?」

「ええ、そうです」



 とある国で、暴れ回っていた魔物を倒したところ、その感謝ということで俺は城に招待されていた。


 最初は遠慮したのだが、どうしてもというので訪れたのだ。


 夕食にとんでもない御馳走を出されて驚いている俺に、同じ卓に座る国の王様が重々しい表情で頷いた。



「ここから西に行くと、この大陸で一番高い山があります。その山には、遥か昔に魔王という存在が封印されたのですが……先日、我が国の魔術師団がその封印が破れたと報告してきたのです。事実、それから魔物が組織的に山の周りの村や町を襲うようになり……被害も決して少なくはありません」



 魔王、か。


 いかにもな名前だ。


 それに被害って……つまり、死んだ人もいるって、そういうことだよな。


 ……嫌な話だ。



「そこで、貴方にお願いしたい、勇者様」



 ――は?


 勇者様?


 ……誰のことだ?


 あれ、もしかして、俺のことか?



「えっと……俺は別に、勇者なんかじゃ……」

「いいえ! 貴方こそ魔王目覚めし時に現れるという光の勇者様に違いがありません」



 ……いやむしろ光って俺の正反対のような気もする。


 俺の力って、常闇だしな。色は白いけど。



「お願いします、勇者様! どうか魔王を討伐……せめて、再封印してください!」



 王様が椅子から下りて、土下座してきた。


 土下座ってこっちの世界にもあるんだな……なんて呑気に考えてる場合じゃない!



「や、やめてください!」



 一国の王様に土下座されるなんて、心臓に悪いだけだ。


 ほら、周りに控えてる人達がすごいうろたえてるし!



「か、顔を、とにかく顔をあげてください、王様!」

「ですが!」

「わ、分かりました! 魔王はなんとかしますから!」



 思わずそう言ってしまう。



「本当ですか!」



 王様が勢いよく顔を上げた。


 ……まあ、もともと放っておくつもりなんてなかったけどさ。



「はい。すぐにでもその魔王とかいうやつの所に向かいます」

「おおっ! 流石は勇者様!」

「あの、その勇者様っていうのは……出来ればやめていただけると」



 なんかそんな呼ばれ方すると、背中がくすぐったくなる。



「では勇者様! すぐにでも装備と従者を揃えましょう!」



 聞いてくれないのな。


 ……まあ、いいけど。



「いえ、王様。申し出はありがたいのですが、それは遠慮させてください」

「は……?」



 王様がぽかんとする。


 そりゃそうか。


 俺の身なりは、まあ普通の旅人のそれだ。


 魔王に挑みに行こうって恰好じゃない。その上誰もついてこなくていいと言ったのだから驚いて当然だ。 


 でも……うん。


 多分平気だと思う。


 ――それはそうだろうさ。


 なんだか身体の内側で、ティレシアス辺りが苦笑する気配がした。


 ティレシアスがそう言うのなら、やっぱり問題はないだろう。



「それじゃあ王様、御馳走様でした」



 呆然としている王様に夕食の礼を告げて、窓を開ける。


 そしてその窓枠に足をかけた。



「ゆ、勇者様……?」

「今日中にはなんとかさせてみます」



 そう言い残して、俺は夜の空に飛んだ。



 というわけであっという間についた大きな山の山頂付近。



「ここか……?」



 そこで俺は、小さな祠のようなものを見つけた。


 まるで魔王がここにいることを教えるように、濃密な魔力が噴き出している。


 十中八九、この中に魔王とやらがいるだろう。


 俺は迷うことなく、祠に足を踏み入れた。


 中は細長い洞窟になっている。


 しばらく歩くと……さらに魔力の密度が濃くなった。


 そろそろか……。


 と、開けた空間に出た。


 かなり大きな空洞だ。


 ……東京ドームくらいはあるかな。


 なんて考えながら、俺は視線を下ろした。


 俺が出たのは、天井付近の高い位置だった。


 眼下には……尻尾が異様に長い、巨大な黒いトカゲのような魔物がいた。


 その魔物からは、途轍もない魔力が感じられる。


 あれが魔王、ってやつかな……?


 なんとなく人型のものを想像してたけど……好都合だ。


 まだ命を奪うっていうのには慣れないけれど――慣れたくもないけれど――人型じゃないなら、まだ抵抗が少ない。


 ……あれ。


 ふと、不思議なものを見つけた。


 空洞の一角に、薄らと光輝く球体があったのだ。


 その球体を囲むようにトカゲの尻尾が巻かれている。


 目を凝らす。


 そして、その球体の中にあるものを俺は見つけた。


 ……ぼろぼろの白いワンピースを来た少女だった。


 年の頃はメルと同じくらいか。


 その少女は球体の中で、身体を丸くして横になっていた。そのせいで表情を窺うことも出来ない。


 攫われてきたのだろうか?


 ――俺は、即座に飛び出していた。


 とにかくあの子の安否を確認しなくちゃならない。


 すると、トカゲが俺の存在に気付いた。


 地面に降り立った俺に、トカゲの口から紅蓮の炎が吐き出される。


 炎に触れた途端に地面が溶岩に変わるが……その熱に包まれても、俺には何一つ変化は起きない。


 そのことに、トカゲが動揺した様子を見せた。


 トカゲが前足を振るった。その足が急激に長くなり、鞭のように俺を叩きつける。


 が……俺はそれを素手て受け止めた。


 トカゲが変な呻き声のようなものを漏らす。


 俺は受け止めたトカゲの足を……そのまま引っ張る。すると、付け根から足が千切れた。


 甲高いトカゲの悲鳴が空洞に響き渡る。


 トカゲが俺を恐ろしい憎悪の籠もった目で睨みつけて来た。


 同時に、魔力で作られた巨大な刃が四方から俺へ叩き込まれる。


 だがそれは、俺に接触する前に消滅してしまう。


 白い常闇が、俺の足元から溢れだしている。


 このままトカゲを白い常闇で呑みこもうとして……止めた。


 こんなものを、俺の内にある世界に組み込んではいけない。


 そう思ったのだ。


 俺は常闇を消すと、拳を握りしめた。


 早く終わらせよう。


 虚空に全力で拳を振るう。


 すると……その際に生まれた衝撃波で、トカゲの身体が吹き飛び、空洞の壁に叩きつけられる。


 そのまま、二度三度と拳を振るう。


 トカゲの身体が、どんどん岸壁に埋まっていく。


 最後に、思いきり魔力を込めて、拳を振るう。


 トカゲの胴体に、大きな穴が開いた。


 そのまま、大量の血液が辺りに降り注ぐ。


 俺はその血の雨が少女の入った球体に触れる前にそれを抱え、血の届かな場所まで移動する。



「おい!」



 声をかけるが、球体の中の少女は身じろぎ一つしない。



「おい、大丈夫か!」



 反応はない。


 っ、この球体が邪魔だ!


 蓋のようなものは見当たらない。


 仕方なく、俺はそれに指をあてると、そのままゆっくりと力を込めていく。下手に勢いよく割ったら、中の彼女も危ない。


 俺の指が触れたところから、球体に徐々にひびが入っていく。


 ……しかし、妙に硬いな、これ。


 ひびがどんどん球体を包んで……刹那。


 ばりん、という軽い音とともに、球体が光の粒子になって弾け飛んだ。


 あれ……?


 ……まあいいか。


 いきなり起きた現象に首を傾げるものの、結果は臨んだものなので深くは考えない。



「起きろ、おい!」



 直接腕の中に収まった少女の身体を揺さぶる。


 すると……。



「ん……」



 少女の瞼が動いた。


 よっかった。無事だ……。


 ひとまず安堵する。


 しばらく待つと、少女がゆっくりと瞼を上げた。



「あれ……?」



 少女の目は、とても綺麗な、黒水晶のような瞳だった。



「えっと、おはよう」



 何と言っていいか迷って、そんな言葉が口から出た。


 ……おはようは違うだろ。



「あ……おはようございます」



 丁寧に同じ返事を少女が返してくれた。



「あの……貴方は?」

「え……あ、ああ。俺はライスケっていうんだ」

「ライスケさん……ですか」

「ああ。君は?」

「私は……その……」



 少女が、口ごもる。


 少し間を置いて、彼女は言った。



「魔王です」



 ……ん?


 あれ?



「…………魔王?」

「はい。魔王の、レトと言います」



 要約すると、こういうことらしい。


 レトは大昔に生まれて、恐ろしく大きい魔力を多く持っていたらしい。それに目を付けたさっきのトカゲの魔物が彼女を攫い、彼女のことを特殊な魔術で閉じ込めたのだという。しかもその魔術には、彼女の力をトカゲに流す効果もあったらしく……それによってトカゲは大きな力を得たと言うことらしい。


 で、魔王ってのは要するにトカゲと彼女をワンセットで呼ぶ名前なのだという。



「……って解釈で間違ってないよな?」

「あ、はい。そうです」



 レトが頷く。


 ……ああ。


 ふつふつと、怒りが沸いてくる。



「なんていうか……頑張ったな」

「ぇ……?」



 そっと、彼女の頭を撫でる。



「辛かったろ」



 長い間、あんな狭い所に閉じ込められて。


 自分の力を、望みもしなことに使われて。


 ただそれを見ていることしか出来ないで。


 しかも、彼女自身は何も悪くないのに魔王などと呼ばれて、封印なんてされて……。


 そんなのに、彼女は耐えてきたのだ。


 もう手遅れだが、あのトカゲをさらに殴りつけてやりたい。


 それに、昔この子ごと封印をしたっていう連中にも、怒りがあった。


 どうしてこんな子が、こんな目にあわなくちゃならないんだ。



「もう終わったから。うん、全部終わったよ」



 言うと、俺に撫でられて呆然としていた様子のレトが……微かに震えた。



「……ぁ」



 そしてその頬に、涙が伝う。



「……終わった、の?」

「ああ」

「……私はもう、自由?」

「ああ」

「……誰かが傷つく所を見なくても、いいの?」

「ああ、もちろんだ」



 軽い衝撃。


 レトが、俺の胸に飛び込んできた。



「う、ぁ……ぁああああああああああああああああああああああああ!」



 嗚咽する彼女の背中を、出来るだけ優しく撫でる。


 ……この子はこれから、目一杯幸せになるべきだ。


 そう思った。



 その後。


 俺はあの王様のところに戻ると、レトの事情を説明し、彼女のことをお願いした。


 王様は彼女の境遇に涙を流しながら快くレトのことを引き取ってくれた。これならば、信じて預けられる。


 実のところレトは俺についていきたいと言っていたのだが、それは流石に出来なかった。


 俺の旅は、いくら魔力が多いとはいえ、それだけの彼女にはついてくるのは厳しいものになるだろう。


 だから俺はどうにか彼女を説得して、国に残らせた。


 ちなみに。


 その時に、一年後にまた会いに行くことを約束させられた。一年後と言えば俺はとっくに皆と合流しているわけで……そうなると、あいつらとレトを引き合わせることになるのだろう。


 ……なんだろう、既に嫌な予感がしている。


 変な寒気を振り払う。


 さて……。


 すでに、あの大陸は離れている。


 今は海の上を飛んでいる状態だ。


 ――次は、どんなところに行けるのだろうか。




ねえ、なんで番外編で新しいフラグたててるの!?

なんでだ!?


あ、ちなみにライスケは常闇で喰らう喰らわないのON・OFF切り替えが制御できるようになってます。

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