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CO すなわちインフレ。

主人公達の身体の吹き飛び率がインフレ。

「っ、どこから沸いてくるんだ!」



 言いながら、剣を振るう。


 一振りで百の獣が立ち切られ、消え去る。


 それでも一向に視界の中の獣はいなくならない。



「さあ……どこからでしょうね」



 俺の背中に、エリスの背中がくっつく。


 ライスケにあの山羊頭を任せて、すぐ。俺達は大量の獣に囲まれていた。



「一気に始末して、先に進むぞ」

「ええ」



 俺とエリスが、踊る。


 銀と黒の刃が空を裂いて、その度に大量の獣が吹き飛ぶ。


 俺が縦に斬れば、エリスは横に斬る。前を斬れば後ろを斬り、全方位を斬ればそれに合わせて全方位を斬る。


 腕と腕が交差して、刃と刃が軽く触れ合い、力と力が混じり合う。


 それは、時間にすればほんの一秒にも満たない間の出来事。


 けれどそれは、辺りの地形を変えるのには十分すぎる時間だった。


 周囲から獣の姿は消え、地面には大量の溝が深く刻まれている。


 ――けれど。



「くそ」



 地平の果てから、また黒い波が……獣の群れが押し寄せてくる。



「これじゃあいつまでやってもきりがない……エリス。先に行け」

「……私だけ先に行かせる気? こんなか弱い乙女を」

「はっ!」



 鼻で笑ってやる。


 か弱い、だって?


 乙女だ?



「どこにそんなのがいるんだよ」

「ひどいのね」



 なにがひどいものか。当然の反応だ。



「でも、私だけで行っても、それじゃあ結局、前と一緒よ? 私は、返り討ちに遭うかもしれない」

「それはないな」



 断言する。



「なぜ?」

「俺がお前の後ろにいるからだ」



 エリスが目を丸めた。



「俺だけじゃない。ライスケもいる。俺達がお前の後ろにいる。そして、すぐに追いつく。だから信じて先に行け。お前が危なくなったら助けてやる」

「……自信家なのね」

「悪いか?」

「いいえ」



 エリスが笑う。



「なにも悪くなどないわ。ええ、本当に……頼もしいわ」



 白い翼が広がる。



「なら臣護……私は先に行くわ。貴方達にすぐ追い抜かれないように、さっさとね」

「そうしろ」



 剣を軽く振り払う。


 さて、と。


 とりあえず、今くる獣の群れが邪魔だな。



「行け」



 剣を走らせる。


 すると、エリスの先にいる獣が裂ける。



「背中は押してやる」

「ありがとう」



 エリスが、加速する。


 影すら置いていくような速度のエリスに、獣達が飛びかかる。


 その全てを俺は斬りふせた。


 エリスの姿が見えなくなる。


 さて、と。


 唸り声が辺りに満ちている。


 見渡せば、獣の目が全て俺を睨みつけている。



「どうした? かかってこないのか?」



 挑発するように、剣を左右に振るう。


 獣が一匹跳躍して……俺の剣で両断される。


 獣達は俺の事を警戒して、身動きをしない。


 ふん……さっさと始末しちまうか。


 剣を振り上げた……その時。


 下半身が吹き飛んだ。


 なに……?


 俺の《顕現》を傷つける。


 それはつまり、俺と同等の《顕現》をするやつがいるということ。


 振り返る。


 その姿は、すぐ目の前にあった。


 ――駆ける。


 ――駆ける。


 ――縛られること無く駆け抜ける。


 六つの瞳が、俺を射抜いた。


 ……山羊頭の次は、これか。


 三つの首を持った狼。


 その口からは鋭い牙が覗き、粘着質な唾液がぼたぼたと零れる。


 三つ首の狼が、吼える。


 三重の咆哮に、俺は咄嗟に剣を身体の前に掲げた。


 剣が砕け散る。



「っ……やかましいんだよ!」



 腕を振るう。


 銀色の衝撃が三つ首に迫る。


 それは三つ首の目の前で、見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。


 舌打ちをする。


 これで駄目なら……、



「ぶち抜け!」



 銀色の波が、俺の背後に立った。


 それが、三つ首を呑み込む。


 だが――三つ首は波をその爪で二つに切り裂く。


 さらに爪が振るわれ、俺の胴体が斜めに切断される。



「ああ、くそ……!」



 身体を再生させて、三つ首を睨みつける。


 声が聞こえる。


 自由を求める声。


 己の意思のままに駆け抜けたいという願望。


 けれどそれは、その響きとは裏腹に、ひどい汚濁に満ちていた。


 それは命を犠牲にした道を駆け抜けるということ。


 目の前の全てを蹂躙するということに他ならない。


 耳障りだ。


 なにが自由だ。



「テメェのそれは、自由なんかじゃない」



 自由っていうのは、もっと尊いものだ。


 そんな通った後に凄惨なものだけが残るようなものじゃないんだよ……!



「それは、ただの暴走だろうが!」



 どくん、と。


 脈動のようなものを感じる。


 目指すのは、視線の果て。


 獣の群れがその丘から湧き出していた。


 あそこね。


 獣達の中心。


 あそこに、群れの頭がいるはずだ。


 ソウルイーターを握り締める。



「――でも、その前に」



 空中で停止する。


 目の前を、黒い嵐がよぎった。


 僅かな接触。


 私の翼が千切れ、黒い嵐が弾け飛ぶ。


 翼はすぐに元の姿に戻る。


 弾けた嵐の中から現れたのは、巨大な翼を広げた六本の鎌のような脚を身体の下から垂らした獣。


 ……この獣には、見覚えがある。


 私が最初にここに来たときに、私が勝てなかった獣だ。


 その口が、肉の裂けるような音とともに大きく開く。


 口腔で、なにかが動く。



「っ……!」



 六脚の獣の口から放たれた黒い砲撃に、左腕が消し飛ぶ。


 前と同じ展開。


 私はここで六脚の《顕現》に敗北した。


 けれど……今回は、ここからは決して同じにはならない。


 何故なら……私には、仲間がいる。


 共に戦ってくれる、同じだけの力を持った……そう。


 こう呼べる存在を、私は初めて得たかもしれない。


 私の愛する彼女達ももちろん、私と一緒に戦ってはくれるけれど……ちょっと違う。


 ――戦友。


 臣護とライスケは、私にとってそう呼べる存在だろう。


 その二人がいる。


 同じ場所ではないけれど、同じ目的の為、世界を守るために戦っている。


 ならば、私も無様な戦いは出来ない。


 敗北なんて、有り得ない。


 腕が再生する。


 ソウルイーターを構えて、六脚を見据える。


 ――生きたい。


 ――生きたい。


 ――他の全てを犠牲にしてでもこの命を繋ぎたい。



「下衆な願いね」



 確かに、生きることは、何かを犠牲にするということだ。


 生きる為に私達は他の生き物の肉を食らうし、小さな虫など歩くだけで踏み殺してしまう。


 犠牲は生きる上で、必ず伴うものだ。


 けれどそれは、犠牲を覚悟して生きなければならないということではない。


 生きるということは、どれだけ犠牲を出さず前に進めるか。


 そこを追求することこそが、生きるということ。


 私はそう思いたい。なにかの代償でしかなにかを得られないなんて、そんなのは、虚しすぎる。


 でも、この獣は違う。


 犠牲ありきでの生存?


 そんなものが生きるということなどとは、私は決して思わない。


 拒絶しよう。


 これをこのまま通してしまえば、世界は終わる。


 こんな想いを世界に残してはならない。


 私が好きな、今の世界を守る為。


 遠慮はしない。



「貴方は、犠牲になりなさい!」



平然と下半身とかが吹き飛ぶ件。

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