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最路 へたれエリスが若干好きな作者。

「ねえ、ティナ」

「はい?」



 ナンナさんと宿で一緒の部屋に止まることになった夜。


 ……どうして宿ってどこも二人で一部屋なのだろうか。皆で一緒の部屋に止まれたらいいのに。正直に言えばエリスさんと一緒に寝たいだけだけれど。


 もちろん寝ると言うのは二重の意味で、だ。


 その日同じ部屋に宿泊する人がエリスさんと……というのは、今や暗黙の了解になっている。


 破ったら他の皆から《顕現》で囲まれるので非常に勇気がいる。


 というか私も一度それをやられて……軽くトラウマになってしまった。


 二人で話していると、不意にナンナさんがどことなく真剣な顔立ちで口を開いた。



「……エリス様とのキスって実際、どのくらい凄いものなのかな?」

「は……?」



 その意味が、いまいち把握できなかった。



「いえ……あの? エリスさんとのキスは……一番に決まってるじゃないですか」

「いや、そうだけどね。でもほら、比較対象がないと、いまいちよくわからないじゃない。金の価値は、その他の低価値な鉱物があるからこそ高価でいられるんだよ?」



 ……む。


 少し、一理ある、と思ってしまった。



「だったら、どうするんですか」

「うん。一つ、提案があるんだ」

「……」



 なんだろう。


 ちょっと嫌な予感がした。



「ティナ。私とキスしよう」

「――お邪魔しました」

「ちょ、ティナ!? 待って待って!」



 部屋を出て行こうとする私をナンナさんが引き留める。



「大丈夫! ちょっとだけ、ちょっとだけだから!」



 しがみつかれた。



「もう……どうしてそんな必死なんですか」

「だって興味あるんだもん」

「……」



 まあ、興味あるというのは分かる。


 でも……エリスさん以外の人とキスっていうのは……。



「平気だよ! エリス様だって許してくれるよ。だってほら、ハーレム要員同士だし!」



 ハーレム要員……間違ってはいないけれど。



「ね、お願い、ティナ!」

「……はぁ」



 仕方がない。


 確かにエリスさんなら、このくらいのことは笑って許してくれるだろう。というか、下手をしたら逆に喜んだりしてしまうかもしれない。



「分かりました。ちょっとだけですよ?」

「流石ティナ。話が分かる!」



 勢いよく、ナンナさんが顔を近づけて来た。


 いきなりですか。


 なんて思いながらも、唇を重ねる。


 ……もしかして、私達ってエリスさんにキスされ過ぎて、キスへの抵抗感とか薄れ過ぎているのかもしれない。


 ナンナさんとのキスは……二人が二人ともキス慣れしてしまったせいだろう。何故か、自然と濃密なものになってしまった。


 舌と舌とを絡めて、唾液を交換する。



「ん、ちゅ……ふ……ん、ん……」

「ぴちゃ……っ、んく……ちゅ」



 交換した唾液を、嚥下する。




 ――と、その時。




「二人とも、明日の予定で少し話しておきたいことが――――……」




 エリスさんが、部屋に入ってきた。


 空気が凍る。


 …………はっ!


 突然のエリスさんの登場による動揺から立ち直った私は、すぐさまナンナさんから唇を離す。透明な糸が引いた。



「ち、違うんですよ、エリスさん。これは、違いますからね?」



 慌てて弁明する。



「そ、そうです! エリス様、これはちょっとした確認で……ええ、確認終わりましたよ!?」



 ナンナさんも、早口でそう言った。


 確かに、確認は終わった。



「やはりエリスさんほどではありませんでした!」

「やっぱりエリス様ほどじゃありませんでした!」



 互いに大分失礼な発言だが、事実なのでここは気にしないでおく。


 エリスさんは、終始無言。


 前髪に隠れて表情が窺えない。



「え、えっと……」

「エリス、様……?」



 次の瞬間。


 エリスさんの背中に六枚の白い翼が広がり、その身体がどこかへと転位してしまった。



「「あぁあああああああああああああああああああああ!?」」



 ま、まさかこんなことになるとは!



「……あの二人……まさか互いの事を愛してしまったのかしら」

「…………」

「そうよね、二人とも、とても魅力的だもの。互いを愛しても、何も不思議じゃないわ」

「…………」

「ふふ……これ、私はどうしたらいいのかしら? 二人のことを考えるなら身を引くべきなの?」

「…………エリスって実は、打たれ弱いよね。というか若干性格崩壊してるよ。番外編だったからって駄目だよ」



 目の前で、月葉が呆れたように言った。あとメタ発言は私、駄目だと思うの。


 ちなみに今の彼女は立体映像のようなもので、実体ではない。



「あのさ、いろいろやらかしてきた私が言うのもなんだけどさあ、少しは信じてあげなよ」

「死んじる? 先んじるを変化させた造語かしら。命を投げ捨てろということかしら? 月葉もなかなか厳しいのね」

「いやいやいや私はどこの鬼畜?」



 月葉が激しく首を横に振るう。



「ちがう! 信頼の方の信じるだよ!」

「……ああ、そっち」

「普通すぐに分かるからね? なんでそんな、「紛らわしい言い方しないでよ」みたいな顔されなきゃならないの!?」

「それで、信じるって、何を?」

「まさかのスルー!」



 月葉が大きな溜息を吐きだす。



「だから、二人の事。まあどうせ何か理由があったんだろうけど、そうじゃなくて、仮に二人が互いを好きになったとして、どうしてそれでエリスが落ちこむの?」

「え……?」

「いいじゃん。二人がお互いを好きでも。それで二人の愛がエリスに向かなくなる、なんてことは絶対にないから。これ、一度エリス達と戦ったことのある私の確信だから信憑性あるでしょ」



 ……そう、なのかしら?



「エリス、自分のこと考えてみなって。今何人の女の子愛してるの? エリスがそれだけの人数出来てるんだから、ティナやウルにだって出来るに決まってるでしょ」



 え、決まってるの?


 ……まあ彼女達がすばらしい女性であるというのは間違いがないし、そのくらい余裕なのかもしれないけれど。



「そしたら、考えてみなよ。エリスはティナもナンナも好きで、ティナはエリスもナンナも好きで、ナンナはエリスもティナも好きで……これはもうあれだね、愛が溢れてるよ」

「愛が、溢れている……!?」



 愕然とする。


 それは……なんだか素晴らしい響きだ。


 そうだ。


 確かに言われてみれば、これ……なんの不都合があるのだろう?


 二人が互いを愛して、私のことも愛してくれて……問題なんてどこにもないではないか。


 正に円満だ。


 だいたい、美少女同士の愛だなんて……それこそ祝福すべきものであって、こんな落ちこむようなものでもない。


 ああ、私はなにをやっているのだろう。



「月葉……私、戻るわ。戻って、いろいろするわ!」

「え、いろいろって……まあいいや。じゃあそれなら私はもう戻るね。自分のことで手一杯なんだから、こんな下らないことで呼び出さないでよね」

「ええ、ごめんなさい。ありがとう、月葉!」



 月葉の姿が消える。


 そして私は、転位した。



 状況を全て説明して……ウルさんが深い深い溜息を吐いた。



「そんな下らないことでエリスが逃げだすほど動揺するなんてねえ……というか、貴方達、なにしてるのよ」

「……すみませんでした」

「……ごめんなさい」



 現在、私とナンナさんは正座で他の皆に囲まれている。


 ちなみに全員《顕現》状態というトラウマを抉る状況。


 涙目になってしまうのは仕方がないと思う。



「まあ、やってしまったことは仕方がないわ。エリスはどこに行ったかも知れないし、とりあえずエリスが帰ってくるまで貴方達は説教よ」

「と言いながらもどうして拳を鳴らすのでしょう?」



 尋ねると、にっこりとウルさんが笑む。



「今夜は! 私が! エリスと! 同じ部屋だったのよねえ!」

「……万事了解しました」



 つまり楽しみの夜を邪魔されてとてもお怒りというわけですね。


 このままエリスさんが今晩中に帰ってこなかったらエリスさんとはやれないわけで……。



「本当にすみませんでしたっ!」

「ごめんなさいぃっ!」



 ナンナさんと一緒に頭を下げる。


 ウルさんの周囲で、虹色の液体が波打つ。


 そしてその液体が無数の武器の形を作る……直前。





「ティナ、ナンナ! 私は応援しているわよ!」




 突如転位で現れたエリスさんが、どうしてだか少し興奮気味にそう告げた。


 空気が凍る。




 ……その後。




 お互いのすれ違いや状況の収拾やら暴走気味のエリスさんの説得やらで、結局夜が明けてしまった。


 もちろんウルさんは、次の日もエリスさんと同じ部屋に泊まった。


 あと、以来エリスさんが私達をお互いに好き合わせようと仕向けるようになった。もちろん私達というのは私とナンナさんだけじゃなく、他の皆も。


 私とナンナさんがその後しばらく肩身の狭い思いをしたのは、言うまでもない。



エリスの性格?

ええ崩壊していますが何か?

番外編だしはっちゃけたっていいじゃない!

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