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CO インフレ……砂糖。

 エリスの話を聞いて、それで断れるわけなんてなかった。


 世界群の危機。


 それを救えるのが、俺達しかいないというなら……戦うさ。



「ありがとう」

「いいさ……それで、その獣のテリトリーの世界ってのはどんな感じなんだ……?」

「そういえば、それは俺も聞いてなかったな」



 ふと、エリスの瞳が細まる。



「……そうね。話しておきましょうか」



 空気が少し重くなる。



「まず、その世界にいる獣は、貴方達が相手にした獣とは別格よ」

「どれくらいだ?」

「《顕現》というものの性質上、正確には言えないけれどね……」



 臣護の問いに、エリスは少し考えてから口を開く。



「私達の《顕現》が十だとして、その世界の一般的な獣の《顕現》は九としましょう」



 九、って……。



「ほとんど同じじゃないか!」

「ほとんど同じでも、俺達の方が上だけどな」

「臣護の言う通りよ」

「でも数の問題があるだろう?」



 って、あれ?


 エリスと臣護に、呆れたような目を向けられた。


 な、なんだ?



「あのな……《顕現》に数が関係すると思うか?」

「え?」

「強い《顕現》に弱い《顕現》は勝つことが出来ない。だから、そこにどれほどの数の差があろうとも、私達三人の《顕現》に億の《顕現》がぶつかってきたとして、私達の方が強ければまるで問題がない。《顕現》同士の戦いに物量はまるで意味を持たないわ」

「そう、なのか……?」

「普通《顕現》出来ればそこら辺は感覚的に分かるだろ」

「え……え?」



 本当に?


 交互にエリスと臣護の顔を見詰めると、二人が苦笑を浮かべる。



「お前大丈夫か?」

「……ちょっと自信がなくなってきた」

「そんなことを言っていたら、どうしようもなくなるわよ」



 エリスが肩をすくめる。



「で、でも、数について問題がないなら、エリスはどうして一度負けたんだ?」

「一般的な獣で九なのよ。それがどういうことか、分かる?」



 ……あ。


 そうか。


 獣だって、全部が全部同じ能力というわけじゃない。


 ほとんどが同じ程度のものだったとしても、中には、突出した能力を持つ獣だって現れるだろう。



「じゃあ……九を超える獣が……?」

「ええ。私がやられたのは……多分、十二くらいの獣よ」

「じゅ……!?」



 十二だって!?



「そ、そんなの勝てるのか?」

「勝たなきゃいけないのよ。だからこそ私は、貴方達に協力を求めたの」

「でも……そんなの意味ないんじゃないか?」

「何故?」

「だって、そうだろ? 数に意味がないって言ったのはそっちじゃないか。俺達が十で、向こうにそれ以上の獣がいるって言うなら……俺達は、勝てないだろ?」

「そうでもないと、私は思うわ」



 エリスが微かに笑んで、俺の目を覗きこむ。



「ねえ、ライスケ。貴方は、どう思う。一人の自分と、仲間がいる自分。どちらのほうが、より大きな敵に立ち向かえると思う?」

「そりゃ、もちろん仲間がいたほうが――あ」

「気付いた?」



 そうか。


 仲間のいる自分の方が、強い。


 《顕現》は安定した力じゃない。


 その時、どんな自分を、どれだけ信じられるかによる。


 仲間のいる自分はより強いと信じることが出来れば、もしかしたら俺達は、十以上の力を発揮することが出来るかもしれない。



「ましてや、その仲間が自分と対等ならば尚更に」



 俺はエリスと臣護を見詰めた。


 一緒にいるだけで、なんとなく分かる。


 この二人は、きっと大きな壁を何度も乗り越えて来ている。そしてこれからも決して諦めることなく、妥協することなく、歩んで行くのだろう、と。


 そんな二人が、一緒に戦ってくれる。


 それは……どれほど心強いことか。



「でも、本当に信じられるのか? 出会って一日にも満たないお互いを」



 臣護がぽつりと指摘した。



「出来るわよ。誰かを信頼するということに、時間は関係ないとは思わない? ねえ、ライスケ」

「え……あ、うん」



 いきなり投げかけられて、思わず頷いてしまう。



「臣護、貴方は違うの?」

「……別に」



 臣護がそっけない口調で言う。



「俺は、信頼とかどうでもいい。そいつが安心して背中を任せられるかどうかだろう。それさえあれば問題ない」

「そう」



 苦笑と微笑みの中間のような笑みをエリスがこぼす。



「ツンデレね」



 ああ、臣護ってツンデレなのか。


 言われて思わず納得してしまう。


 こう……雰囲気的に?



「あ?」

「うぉ……」



 凄い形相で睨まれた。なんで俺だけ睨むんだ。



「ふん。大体、お前らがいようといまいと、相手がどんなものだろうと、俺は戦うし、勝つ。お前ら、足は引っ張るなよ」

「そんなことを言わないで、一緒に戦いましょうよ」

「寄るな鬱陶しい」



 そっと近づいて、耳元で囁くように告げるエリスを臣護が羽虫でも追い払うかのような動作で手を振る。


 ……よくエリスにそんなこと出来るな。


 俺だったら出来ないぞ。なんだかそんなことしたら、後々怖いことになりそうで。



「まあ、話をまとめましょうか」



 エリスが俺の頬に手を添えた。


 って……、



「な、なにしてるんだ?」

「あら、駄目?」

「駄目ってわけじゃないが……」



 こう、恥ずかしいだろ?


 エリスって容姿がすごい整ってるし、そんな彼女にこういうことをされると……ええっと……。



「初心ねえ」



 おかしそうに笑いながら、エリスが手をどかす。



「……からかわないでくれ」

「なら本気にした方がいい? いいわよ、私、貴方みたいな人になら、少しだけ惹かれるわ」

「からかわないでくれっ!」



 なんだか顔が熱くなる。



「ふふっ」



 とんでもなく簡単に掌の上で踊らされてる気がする。



「遊んでる場合か……」



 呆れかえった様子で、臣護が呟く。



「臣護も、不倫したくなったら連絡を頂戴?」

「悠希に殺されるから遠慮しとく」



 ……え?


 今の会話って、つまり……。



「臣護って、結婚してるのか?」

「……」



 エリスが噴き出して、臣護の眉間に皺が寄った。



「まあ、そんなものよ」

「適当なことを言うな!」



 臣護が怒鳴りつける。



「別に、結婚はしてない。ただ付き合ってるだけだ」

「……そうなのか」



 ちょっと驚いた……。



「まあ、でも結婚することは決定済みでしょ?」

「……」



 決定済みなんだな。


 ……臣護の相手か。


 興味あるな。



「これ」



 エリスがなにか差し出してくる。



「ん?」



 受け取る。


 それは、一枚の写真だった。


 そこには……誰かが映っている。


 長い黒髪を揺らして、肩で風を切るかのように堂々と歩くその姿は――。



「ライスケ、それを渡せ」

「え?」



 顔を挙げると、臣護が銀色の剣を構えていた。


 え――、



「ええっ!?」



 なにそれどういうことだよ!?



「渡せ」

「え、え?」

「さあ」



 思わず、写真を臣護に差し出す。


 それが俺の手の中から消えた。


 だが、臣護に渡ったというわけではない。


 横からエリスが奪って行ったのだ。



「これが悠希。臣護の彼女」

「へえ、そうなんだ――って、臣護あんな彼女いるの!?」



 すごい可愛かった……どっちかっていうと綺麗だった、か?


 どっちにしろ、明らかに飛び抜けた容姿だったぞ。


 羨ましい!



「なんだ、悪いのか。っていうかエリス、それをさっさと渡してもらおうか」

「あら、自分の彼女の写真を他人に持たれるのは嫌? 意外と狭量なのね。それとも独占欲が強いとでも言うべき?」

「……」



 臣護の剣が眩い銀色に輝き始める。


 というか青筋浮いてるぞ、こいつ。


 まさか本当に彼女の写真だけで……。


 臣護って……いや、そうだよな。人って見かけによらないって言うし。



「いいじゃない、写真くらい」



 言って、エリスが臣護の彼女の写真にキスをする。


 ぷちん、という音が聞こえた。



「よし……叩き斬る」

「うわあ!? ちょ、落ちつけ臣護」



 本気でエリスに斬りかかろうとする臣護を羽交い絞めにする。



「エリスももうからかうのはやめろって!」

「怖い怖い……仕方ないわね」



 写真が、光の粒になって消える。


 臣護の身体から力が抜ける。


 俺は胸をなでおろした。



「まったく……」



 臣護を見る。


 不機嫌そうに鼻をならして、剣がどこかへと消える。


 エリスを見る。


 面白そうに目尻を下げて、俺の視線に気づいて微笑んでくる。


 ……うわあ。


 なんだろ。



「不安になってきた……」



「まあ、折角だし写真くらいは、ねえ? 可愛いし」



 私はそう言って、悠希の写真を臣護やライスケにばれないよう、収納空間にしまった。


 写真の入手経路?


 それはトップシークレットよね。


 ちなみに他にも、ライスケの周りの女の子の写真も当然ある。


 ……ライスケって、ハーレム体質よね。


 彼女達とライスケの今後が気になるわ。


 それを見届ける為にも……世界を守らなくてはね。






シーマン……お前、そんなキャラだったっけ?

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