第一話 名前
揺れ続ける気持ちや、まだ名前のない思考を、
ひとつずつ光にかざすように書きました。
何かを決めつける物語ではなく、
“途中にいる自分”の静かな輪郭をたどる一話目です。
ぜひ、あなたの好きなように呼んでください。
何者かになりたい。せめて、名前が欲しい。
悪役でもいい。嫌われ者でもいい。輪郭さえあれば、それでいい。
私は、何かになりたい。
なろうとして、黄昏れてみた。影のある横顔を演じてみた。でも、それはただの自惚れだった。
なろうとして、ギャルにもなった。笑って、騒いで、まぶしく振る舞った。でも、それもただの自己満足だった。
大人は言う。努力すればいい、と。陰ながらに頑張っているつもりの私は、その「つもり」に甘えているのかもしれない。
限界を決めているのは、いつも自分だ。そう思えるほどには、もう子供じゃない。
それでも。
何にもない。
波風ひとつない大海原に、理由もなく投げ出されたみたいに、私はここにいる。
自分で波を立てればいい?叫べばいい?壊せばいい?
でも、誰が気づいてくれるの。
認められたい。自分が何者なのか知りたい。たったそれだけの願いが、どうしてこんなに重たい。
これは傲慢なのだろうか。
夜になると、泣き声が部屋に溶ける。広すぎる空間は、私を飲み込もうとする。
たぶん、これを孤独と呼ぶのだろう。
けれど十五歳の私は、「孤独」という単語だけを知っていて、その正体までは知らない。
大人も、百歳の老人も、本当にそれを知っているのだろうか。
知らないほうが幸せなら、なぜ知ってしまった人は、あんな顔をしているの。
孤独を知っている人は、それでも何者かではある。
私は?
置いていかないで。
——私だけなの?みんなも同じなの?
そんなこと、誰にも聞けない。友達に言えば自惚れだと笑われる。大人に言えば思春期だと片付けられる。
じゃあ、全員が通ったの?——違う。じゃあ、誰もわかってないんじゃないの。——でも。
この往復だけが、頭の中で続いていく。
答えは生まれない。善意だけが積もっていく。
私は孤独になりたいわけじゃない。孤独を語りたいわけでもない。
ただ、
たった一人でいい。
誰か一人でいいから、
私を名付けて。
私を、何者かにして。




