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7.エピローグ 約束通り


 半壊したその砦は、見渡す限りの草原のただなかにあった。


 一面に生い茂る青草の上をざあと風が渡り、わずかに薄い雲のかかったあわい空色のしたで、やわらかな緑がなみうつ。


 わたしはちいさな魔道具を起動して、周囲に人も動物も、なにもいないことを確認した。


 その間も護身用の魔道具は停止させない。


 -*-


 戦争が終わったからといって、この世から争いの火種が消えるわけではない。


 軍の役割は、制圧から統治へと変容していく。


 やることは以前と変わらなかった。

 わたしは変わらず魔道兵器をつくり、その合間にガラクタの魔道具をつくる。


 だけど。わたしは、ただの利口などうぐであることをやめた。


 この数年で…………詳細は省くけれど、簡単に言えば、わたし一人の権威が、国の権威を上回ってしまいかねないことをいくつかした。

 

 本気でのぞめば、自身を取巻く環境というものは存外変えられるものらしい。

 

 さらに言えば。魔動人形は強力すぎた。

 制圧から統治へと役割を変容させた軍が、その存在を持て余すようになるほどに。


 結果として、強力な兵器をいくつもつくった魔道技師を生かし続ける危険性を憂慮(ゆうりょ)した偉い大人に、わたしは殺されかけた。

 当然の帰結だ。


 わたしのいのちの危機を感知した魔動人形が、軍の拠点を丸ごと1つ吹っ飛ばしたおかげで、わたしの処刑はその場ではいったん凍結されることとなった。念のための保険だったが、かけておいて正解だった。


 偉い大人たちは、わたしの処遇について、揉めた。

 だからその間に、自分でつくったいくつもの魔道具を使って、研究所から逃げ出した。


 結局、交わした約束を果たしに行くために、7年もの月日が必要だった。


 

 -*-


 この、護身用の魔道具は、物理的な攻撃も魔力的な攻撃もすべて防ぐ。極めて優れたもので、完成した時は大総統が血相を変えて飛んできた。

 わたしだけが使えるように設計した。だれでも使えるようにすることはできるけれど、今のところそのつもりはない。

 

 地面にいくつもあいたクレーターは、魔動人形が吹き飛ばした(あと)だ。えぐれたようないくつもの地形は、早くも周囲と同じ草に覆われはじめている。


 草原にほとんど飲み込まれたようになっている、野外砦の跡。そこに立たずむ巨大な銀色の人型に、膝下まである草の中を分け入るようにして歩み寄る。

 臨戦態勢にあった魔動人形は、わたしの魔力に呼応して動きをとめた。


 

 人間であれば胸部にあたる部分を突き上げ、天をあおぐような体勢で膝をつく魔動人形の胸部に、よじ登る。

 風雨にさらされ、すすけた魔動人形の表面はすこしだけ冷たい。

 

 どこかから飛んできた、白い花弁が舞っていた。ちかくに花畑でもあるのかもしれない。


 見に行こう。ふたりで、一緒に。


「待たせたわね……ラジュ」


 誰にも開けることができないよう、わたしの魔力で厳重に鍵をかけて閉ざした動力部。そこに、手をかけた。




 彼は、さいごに言葉をかわしたときと、ほとんど変わらない姿でそこにいた。


 眠そうで、眩しそうで……生きている。


「おそくなってごめんなさい」


 わずかに見開かれた瞳の端から、涙が一筋だけこぼれたのを見て、どうしようもなくこみ上げる感情に、胸がふるえた。


 わたしは、とびきり明るくみえるように、笑う。

 

 広い空の下、目覚めたあなたに見せる最初の顔は、かがやくような笑顔だと決めていたから。


「約束通り、迎えに来たわ」


(終)

 

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